322話 ころころです
捨て場の近くに、テントを張って3日。
当初はすぐに出発予定だったのだが、捨て場の魔力が心配で迷った挙句ソルに魔力を食べてもらう事にした。
ソルは、ドルイドさんにお願いされると嬉しそうに捨て場へ突進。
2日目はずっと捨て場から動かず、魔力を食べ続けた。
さすがに心配になりドルイドさんが、食べ過ぎだと止めたのだが逃げられていた。
逃げながら食べ続けるソルを見て、ドルイドさんが項垂れていた。
そして、今日は3日目の夕方。
「ソルが……」
目の前にいるソルは、思う存分食べられたからなのか機嫌がいい。
ソルの体に浮き出た模様は、昨日から消えなくなっている。
心配でソルに訊ねたが、問題ないらしい。
模様の意味は分からない。
また少し体が大きくなり、最初の時より2倍の大きさになっている。
ただ、それでもソラとフレムよりは小さいが。
大きさは問題ではない。
問題は丸みだ。
3日目、食事が終わったソルは丸かった。
真ん丸。
「これは食べ過ぎだろう」
「だよね?」
「ぺふっぺふっぺふっ」
私たちの言葉に抗議なのか大きな声で鳴くソル。
でもどう見ても太って……丸くなってしまった。
「スライムって太るんだな」
「ぺ~!」
ドルイドさんに大きな抗議をあげるソル。
太ると言われるのは嫌らしい。
でも、丸いよ?
ころころだよ?
「えっと、そろそろ出発するか」
ドルイドさんもさすがにこれ以上は駄目だと判断したようだ。
明日の朝、ハタヒ村へ出発する事が決まった。
というか、体型が変わるまで食べ続けるとは思わなかった。
ソラとフレムは暴食しても変わっていない。
もしかしてまだ満足するぐらい食べていないのかな?
「ソラ、フレム。もしかしてお腹いっぱいまで食べていないのかな?」
私の質問に無言の2匹。
これは食べているから鳴かないのだよね?
「えっと、スライムって太るの?」
小声で周りに聞こえないように2匹に訊ねる。
「「…………」」
これにも無言。
つまりスライムは太らない。
太らない?
「本当に? だってソルが」
ソルを見る。
……転がって移動していた。
いや、そこは運動もかねて飛び跳ねて欲しかった。
「ソルは太ったよね?」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
やはり2匹からしてもソルは太ったと判断しているらしい。
「ソルもスライムだよね」
「……ぷっぷぷ~」
「……てっりゅりゅ~」
ちょっと不思議そうに鳴くのは止めてあげて。
ソルもちゃんとしたスライムだから。
たぶん。
…………
早朝からテントを片付け、周りを確認。
忘れ物もないし、大丈夫。
「よし、出発するか」
「うん」
捨て場を見る。
来た時と同じ風景。
ソラやフレムがポーションや剣は食べたが、盾やマジックアイテムはそのままの状態。
ただし、魔物を凶暴化させる魔力はある程度減らせたはず。
ソルがあれだけ頑張ってくれていたので、少しは危険を減らせたと思いたい。
「ソルは?」
「今日はバッグの中で寝るみたい」
「そうか、連日頑張ってくれていたもんな」
「うん。丸くなってね」
私の言葉に笑うドルイドさん。
バッグの中を見るが、熟睡しているようだ。
良かった、聞かれなかった。
「さて、まずは村道に戻るのか?」
ドルイドさんの言葉に私は首を傾げる。
それは私に訊かれても。
「シエル、どうする?」
「にゃうん」
私の言葉に一声鳴くと、颯爽と先頭を歩き出すシエル。
その後をソラが追いかけるので、慌てて後を追う。
「そっちは村道ではないな」
「森の奥へ行くのかな?」
「いや、前に話したドロップする魔物が多くいる岩山の方だ」
岩山へ向かっているのか。
「この時期は魔物はいないんだよね?」
「普通はそうだが……捨て場の事があるから何とも言えないな」
魔力の影響を受けた魔物がいるって事?
ん~、それは怖いな。
「シエル、安全な道を行こうね?」
「…………にゃうん」
ん?
今の間は何だろう。
ドルイドさんも、気になったのか名前を呼んだ。
「シエル?」
「にゃうん」
返事は良いけど……まぁ、大丈夫でしょう。
って、思っていたんだけどな。
目の前にはどう見ても数日前に見た魔物の姿。
それも凶暴化した方の魔物。
「既に移動していたか」
ドルイドさんが剣を鞘から抜きながら警戒する。
邪魔にならない場所を探そうと周りを見るが、周りは岩だらけで姿を隠せる場所がない。
どうしようかと視線を彷徨わせていると、シエルが魔物に飛びかかる姿が見えた。
「シエルがいると、この道も安全なのかもな」
ドルイドさんが小さく息をついて、抜いていた剣を鞘に戻す。
凶暴化した魔物は3匹。
シエルが魔物に飛びかかった次に見えたのは、倒れた3匹の魔物の姿。
少し遠かった事とシエルの動きが速かったため、私には何が起こったのか不明。
ただ、あっという間に凶暴化した魔物が倒されたということだけが分かった。
「さて、あの魔物をとっとと燃やして先へ進むか」
「うん。あっ、ドルイドさん、ソル起きたみたい」
肩から下げていたバッグがごそごそと動いている。
ソラはドルイドさんの頭の上、フレムは私の腕の中。
なので、バッグが動いている原因はソルだ。
もしかして、魔力の気配でも察知したのかな?
「食べさせるのか? もっと……」
ドルイドさんの心配が凶暴化から太る心配に変わっている。
いや、確かに私も心配だ。
これ以上はどうなるのか。
でも、もう起きちゃったしな。
「ごめん、今出すからね」
バッグの蓋を開けてソルをバッグから出す。
外に出たソルは、周りを見て倒された魔物を見つけると颯爽と転がって行った。
「転がるんだな」
「あははは」
ソルが魔物を包み込むのを見ながら、丸くなった次を想像して止めた。
「まぁ、本人が大丈夫という以上問題ないんだろうけど」
ドルイドさんの言葉に頷く。
昨日の夜、ドルイドさんとソルと私で何度も確認した。
その体型で問題ないのかと。
問題ないと言っていたので、信じる事にした。
「アイビー。あの模様の色って何か変わってきてないか?」
「ドルイドさんも気付いた?」
ソルの体に浮かんだ模様。
最初は薄い灰色のような色でうっすらと模様が分かる程度。
それが昨日あたりから徐々に白に変わり、ソルの黒の体にはっきりと浮かび上がったのだ。
見落としがあるかもしれないと、魔物の本のスライムについてをもう一度読み返してみたが模様については一切書かれていなかった。
「あの模様ってもう消えないような気がしてるんだけど、ドルイドさんはどう思う?」
「なんとなくそんな気はしてる」
最初に見た時はうっすらと、いつ消えても良いような印象があった。
今は最初に見た印象など一切なく、主張している。
「次の村にも本屋ってあるよね?」
「本屋はあるとは思うが……『ふぁっくす』で友人たちに調べてもらったらどうだ?」
「えっ? でも、内容って見られる可能性があるよね?」
ラットルアさんたちだったらいいけど、他の人たちにソルの事を知られるのは嫌だ。
「詳しく書く必要はないだろう。そうだな『スライムに模様があると聞いたけど、知ってる?』ぐらいでさらっと訊くぐらいで大丈夫だろう。相手は彼らだからな、きっと察してくれるだろう」
確かに、シファルさんとかは何か感づいてくれると思う。
「本屋に行って探すより確実だと思う」
それは確かにその通り。
だけど、わざわざ調べてもらうのもな。
「『ふぁっくす』で何度も『何かあったらすぐに頼ってこい』と言われているだろう?」
既に数回ファックスのやり取りをしているけど、最後にその一文を皆が書いてくる。
「迷惑にならないかな?」
「大丈夫だ。喜ぶ事はあっても迷惑に思う事は絶対にないから」
随分力強く言い切るんだな。
「次の村では少し滞在が長くなるから、お願いしてみよう」
「うん。そうする。あっ、魔力取りきったみたい」
ソルの傍によると、数日前に見た魔物と何かが落ちている。
「これ何?」
「この時期に珍しいな。それマジックアイテムだ」