321話 みんなの食事
魔力によって凶暴化し、シエルに襲いかかってきた魔物は21匹もいたらしい。
ちょっとその数に驚いたけど、シエルは誇らしげに死骸を積み上げた。
とりあえず、怪我がないか調べたけど問題なし。
さすがシエルだ。
「ソル、本当に大丈夫?」
目の前に積み上がっている魔物の死骸とソルを見比べる。
どう考えてもソルが魔力だけとはいえ、食べるには多すぎる気がする。
間違っても凶暴化したりしないよね?
ソルに大丈夫と言われ、ソラにもシエルにも大丈夫だと言われても心配。
でも、食べたそうにしているソルに駄目というのは可哀想。
「よしっ! ソル、お願いね」
魔力を持った魔物の死骸をそのまま放置するのは危険ということで、燃やすことになった。
もしかしたら、他の魔物を凶暴化させる可能性があるためだ。
シエルにお願いして魔物の死骸を集めて燃やそうとした時、ソルが邪魔をした。
お腹がまだまだ空いているらしい。
「ぺふっ」
私が許可を出すと、積み上がった魔物の1匹を触手で持ちあげて移動させてソルが自分の体で包み込んだ。
魔物そのものを食べるわけではないと分かっているので、じっと見てみるが……。
やっぱり、魔物そのものを食べているようにしか見えない。
「ん~、なんでだろう? 錯覚?」
不思議に思いながらもずっと見ている訳にはいかない為、捨て場の近くにテントを建てているドルイドさんを手伝いに行く。
「やっぱりソルが全部処理するって?」
「うん」
「そうか。まぁ、ソラたちが大丈夫と判断しているなら凶暴化したりはしないだろう」
ドルイドさんの言葉に笑みがこぼれる。
最初の頃に比べると、随分とソラたちの判断を優先してくれるようになった。
旅を始めた頃は、まだ不安そうだったもんね。
不安というか戸惑っていた感じかな?
「何?」
ドルイドさんを見ていると、気付かれてしまった。
「なんでもないよ」
テントの周辺にローズさんが旅立ちの餞別にくれた、魔物除けのマジックアイテムを設置する。
このマジックアイテムは登録した魔物には影響がないという優れもの。
ローズさんが渡してくれたアイテムを見て、ドルイドさんがかなり驚いていた。
そうとうすごいマジックアイテムの様だ。
設置が終わると周りを見渡す。
ソラとフレムは楽しそうに捨て場で飛び跳ねて遊んでいる。
シエルは、ソルの近くで魔物の移動を手伝いだしたようだ。
「シエルって面倒見がいいよね?」
「そうだな。気が付くと手助けしてるよな」
テントを張り終わったので、夕飯の準備に取り掛かる。
「ドルイドさん、あの魔物は食べられないの?」
「……魔力で凶暴化していた魔物を食べるのか?」
「ソルが魔力は取り除いてくれたよ?」
食べられる物は食べる!
小さい頃に学んだことなんだけどな。
「あ~、うん。食べてみるか?」
「いや、無理そうならいいよ。止めておこう」
そんな苦悶の表情で言われたら『食べましょう』とは言えないよ。
「にゃ~ん」
シエルの呼ぶような声に、視線を向けると魔力によって姿を変えていた魔物の姿が無くなっていた。
代わりに、小さくなり元の姿に戻った魔物の死骸が積み上がっている。
早いな。
ソルを見るとまた模様が体に浮かび上がっている。
先ほどよりはっきりと模様が分かる。
「ドルイドさん、ソルの大きさが」
「あぁ、少し大きくなったみたいだな」
先ほどより少し大きくなったソル。
小さくなったり、大きくなったりソルは忙しいな。
「ソル、体は大丈夫?」
「ぺふっ、ぺふっ」
良かった、大丈夫そう。
それに、ものすごく満ち足りた雰囲気だ。
ソルから視線を外すと、目に入ってくる21匹分の死骸。
「あれ、どうします?」
さっきより小さくなったと言っても数が多いので目につく。
「さすがにあれだけの数が集まっていると魔物が集まりやすいからな、燃やそう」
「にゃうん」
シエルが手をぺろっと舐めてくる。
見ると、私の顔を見た後に魔物に視線を向けている。
「えっと、もしかしてあの魔物欲しいの?」
「にゃうん」
シエルもお腹が空いているのか。
「食べても問題ない?」
「にゃうん」
「ほらっ、ドルイドさん!」
「いやいや、シエルも簡単に言わないの!」
「にっ!」
不服そうに鳴くシエルに、ため息をつくドルイドさん。
「悪かった。あの魔物を俺たちが食べても問題はないか?」
ドルイドさんの言葉にシエルは首を傾げる。
それは知らないらしい。
「アイビー、食べるのは駄目だな」
「そうみたいだね。残念」
シエルが答えを知らない以上、手は出せない。
ソルも近くでシエルと同じ反応をしているし。
「私とドルイドさんの安全は分からないけど、シエルは大丈夫なの?」
「にゃうん」
「う~、シエルが問題ないと言うのなら大丈夫かな。好きなだけ持って行ったらいいよ」
残った物は燃やそう。
って、一気に6匹持って行くとは。
「シエルって力持ちだよね」
「たぶんあれ、魔法を使っている気がするが」
えっ、そうなの?
「さて、さっさと燃やすか」
「手伝うよ」
地面に穴を掘って、そこで燃やした方がいいのだったかな。
「いや、簡単に済むから大丈夫」
簡単に?
ドルイドさんを見ると、剣を鞘から抜いて積み上がった死骸に向かって一振り。
ボッと燃え上がる青い炎。
「すごい!」
「最初は魔法の使い方に苦労したが、けっこう自然に使えるようになっただろう?」
「うん。ドルイドさん、かっこいい」
「えっ! あぁ、おう」
青い炎を見る。
確か赤い色より高温だから青いのだったかな。
それよりも、綺麗な青い炎だな。
ん?
そう言えば、魔物を燃やす時に出るあの独特の匂いが無い。
不思議に思っている間に、魔物が全て灰になる。
「あっという間に灰になったね」
ドルイドさんを見ると、ちょっと頬が赤いように見える。
炎の近くにいたから、熱くなったのかな?
でも、ドルイドさんの出してくれた炎は、かなり近くに寄らないと熱くない。
なので熱くて頬が赤くなったとは考えにくいのだけどな。
「あぁ、この剣で炎を出すと凄い威力の物が出るんだよ。それで燃やせばあっという間」
ソラはものすごい恐ろしい剣をドルイドさんに渡したんだな。
そのお蔭でとても助かっているのだけど。
「さて、夕飯の続きを作ろうか?」
「うん、まだ夜は少し寒くなるから温かいスープは欲しいよね?」
「あぁ、欲しいな」
スープを作りながら、ソラたちの様子を見る。
ソラはまだ遊んでいるのか、捨て場で飛び回っている姿が見える。
飽きないのかな?
「ソラ、そろそろ戻っておいで」
そう言えば、フレムはどこだろう?
捨て場に視線を走らせるが、どこにもいない。
もしかしてどこかで寝落ちしているのかも。
スープの鍋を見る。
後は少し煮込めば大丈夫。
サラダも完成させてあるし、お肉もまだ弱火でゆっくり焼いている最中。
少しこの場所を離れても大丈夫かな。
「ソラ、フレムはどこだろう?」
ソラに声をかけながら捨て場に向かうと、シエルがさっと走って何かを咥える。
そして、その咥えたモノを私の元へ運んでくれた。
もしかしてフレムかな?
「やっぱり寝落ちしてたか。シエル、ありがとう」
シエルからフレムを受け取り、テントへ戻る。
その後をソラとシエルがついて来る。
「シエルはソラたちのお姉さんだね」
「にゃうん」
あっ、声が弾んだ。
嬉しいのか。
この頃、皆の事をお願いすることが多いから気にしていたのだけど……。
「シエル、いつも皆を見てくれてありがとう」
気持ちはしっかり伝えておかないとね。
これは大切な事だから。
「にゃうん!」
「あっ、ちょっとだけ尻尾の動きを抑えようか、シエル。喜びを表現してくれるのは嬉しいけど、ご飯も大切だから」
伝えるのは大切だけど、食事前は駄目だったな。
落ち込ませてどうする!