319話 森の中の捨て場
掌に乗っているソルを見る。
ハタタ村を出て8日目。
ソルの大きさが半分になってしまったので、シエルにお願いして不法に作られた捨て場を探してもらっているが見つかるかな?
「元気はあるのか?」
「ぺふっ」
大きさが半分になったからなのか声も小さい。
元気と言いたいのかぴょんと掌で飛び跳ねるが何とも心もとない。
「本人は元気だと言っているみたいだけど」
「見た目からは、元気には見えないよな」
「うん」
私たちの会話が気に入らないのか、睨まれた。
たぶん。
目が小さすぎて、可愛くしか見えない。
「あっ、シエルだ」
ドルイドさんの言葉に、視線を向けると木々の間を走ってくるシエルの姿。
捨て場を見つけてくれたかな?
「シエル、ありがとう。捨て場はあったかな?」
「にゃうん」
良かった。
見つかったみたいだ。
ホッと安堵のため息が出る。
「シエル、見つけてくれて本当にありがとう」
「にゃうん」
「この近く?」
「にゃうん」
シエルを先頭に、見つけてくれた捨て場へと向かう。
「ソル、ご飯食べられるよ。よかったね」
「ぺふっ、ぺふっ」
私の肩に移動したソルは嬉しそうだ。
やはりお腹が空いていたのだろう。
今回は見つかったけど、本当に何とかしないとな。
「あれだな・・・って大きいな」
見えた捨て場に驚く。
不法な捨て場にしては大きすぎる。
しかも捨てられているのは、魔力を含んだ物が多そうだ。
「ドルイドさん、これって危なくない?」
「あぁ」
以前、ゴミの魔力で魔物が凶暴化したり突然変異してしまったと聞いている。
ここは森の中だから、魔物は多い。
そして魔力を含んだ大量のゴミ。
嫌な予感がするな。
「アイビー、周りに注意をはらってくれ。シエルも」
「分かった」
「にゃうん」
「ここは特に魔物の種類が多いんだ、魔力を食べる魔物もいるかもしれない」
気配を探るが近くに魔物の気配はない。
「どうだ?」
「魔物の気配はないみたい」
「そうか。なら大丈夫か?」
ドルイドさんが周りを見渡す。
まだ、警戒はしておいた方が良さそうだ。
「とりあえず、ソルはご飯食べていいよ」
肩に乗っているソルを捨て場のゴミの上に置く。
ソラとフレムもゴミの中へ突進していった。
「安全だと分かったら、ソラたちのポーションも探そうか」
「うん」
ガサガサガサガサッ。
不意に聞こえた草を踏むような音。
急いで周りを見渡す。
気配を探るも、魔物の気配はしない。
「あれ?」
気配は感じないが、何か違和感を覚える。
気配とは違う何か……。
「シャーッ」
私の近くで警戒をしていたシエルが、背中の毛を逆立てて森へ向かって威嚇する。
その音にドルイドさんが鞘から剣を抜く。
気配は感じないけど、何かが近くにいるような気がする。
「ドルイドさん、近くに何かいる!」
周りを注意深く見るが、何か分からない。
「アイビー、上だ! 危ない!」
ドルイドさんの声が聞こえた瞬間、シエルが私の服を咥えて引っ張る。
「うわっ」
シエルの引っ張る力が強く、足が絡まってこけてしまう。
シュッ、ボッ。
ギャッ!
ドガッ、ボガッ。
グホッ。
後ろから聞こえる不穏な音に急いで立ち上がり、確認する。
視線の先には、炎に包まれて焼かれている魔物が1匹と近くの大木の根元で倒れている魔物が2匹いた。
どちらも、既に死んでいるようだ。
ガキン、シュッ。
音のする方へ視線を向けると、ドルイドさんと1匹の魔物が戦っていた。
おそらく襲いかかってきた魔物の牙を剣で防いだところだろう。
次の瞬間、剣が炎をまとい魔物に襲いかかった。
「この剣、凄いな」
ドルイドさんが嬉しそうに、炎に包まれた魔物を払いのける。
ギャッギャッ!
炎に包まれた魔物はのた打ち回るが、次第に動きが鈍くなって死んでいった。
「よかった。シエルはどこだろう。それにソラたちは?」
捨て場を見ると、ゴミの影に隠れているソラたちがいた。
3匹の無事な姿にホッとする。
シエルを探そうと視線を彷徨わせると、どこからともなく戦っている音が聞こえてくる。
おそらくシエルだろう。
森に音が響いて、どこで戦っているのか分からない。
気配を読んで確認するとシエルの気配があった。
だが、戦っているはずの魔物の気配が感じられない。
「大丈夫か?」
「うん、シエルが引っ張ってくれたから」
「アイビーの真上に魔物がいきなり現れた時は焦ったよ。本当に無事でよかった」
細心の注意を払って気配を読んでいたのにな。
それに今も感じる気配はシエルだけ。
「ドルイドさん、この魔物なんだけど気配が読めない」
「本当か?」
「うん。今もシエルの気配は分かるのに、戦っている魔物の気配が全く分からない」
私の言葉に険しい顔のドルイドさん。
「おそらく突然変異した魔物だろう」
突然変異。
「来た! アイビー、捨て場の中のゴミの影に隠れてろ」
ドルイドさんの言葉と同時に2匹の魔物が飛びかかってくる。
邪魔にならないように、急いで捨て場の中に入って盾を見つけたのでそれで体を隠す。
片手で戦うドルイドさんが心配だが、私は戦えない。
「こういう時、何かできればいいのにな」
ガァー
「えっ?」
後ろから聞こえてきた声に慌てて振り返る。
口を大きく開けた、目が真っ赤な魔物。
逃げないと、と思うが体が動かない、声も出ない。
ただ、襲ってくる魔物をじっと見る。
パクン
「えっ?」
目の前で起きた事に頭がついて行かない。
えっと、いきなり後ろに魔物が現れて、それで襲われて。
そう、襲われて……それでパクンって何かが魔物に覆いかぶさって……。
覆った物は黒い半透明の、たぶんスライム。
そっと少し視線を上に向けると、目がばっちり合う。
「ソル?」
プルプルプル。
「それって治療? ……それとも食事?」
ソルの中にいる魔物を見る。
暴れ回っているが、どんどん溶けて……見なかった事にしよう。
「ソル、ありがとう。助かったよ」
ソルの目をじっと見る。
決して間違っても視線を下に向けないようにする。
いつの間にか森の中に響いていた戦いの音が止んでいた。
シエルは大丈夫だったかな?
「アイビー、それってソルか?」
声に視線を向けると、ドルイドさんが唖然としてソルを見つめている。
「そう、食事中みたい」
ソルのお腹の辺りを見ないように指す。
ドルイドさんは指す方を見て、驚いた表情をした。
「そうか。魔物を食べるのか」
「魔物を食べるスライムは珍しいの?」
「いや、スライムは雑食だから魔物も食べるが弱いから。普通は弱った小さい魔物しか……」
弱った小さい魔物?
襲いかかってきた元気な魔物を食べてるけどな。
「そうだ、これでソルの食事が少しは楽に」
ドルイドさんの言葉がどんどん小さくなっていく。
彼を見ると、首を傾げている。
「今までも魔物は普通にいたよな?」
「うん。反応はしなかったよ」
そうだ。
ここに来るまでに魔物はいっぱいいた。
なのに、食べようとはしなかった。
「どんな基準で食べるんだ?」
「にゃうん?」
ん?
シエルの声がした方向を見ると、シエルもソルを見てキョトンとしている。
「ソルだよ」
「にゃうん」
「そうだ。ソラとフレムは?」
忘れていたけど、大丈夫かな。
ゴミの中に隠れていた2匹を探すと、2匹とも食事中だった。
「大丈夫そうだな」
ドルイドさんの言葉に苦笑する。
「うん。あの2匹はある意味すごいね」
すごい神経を持ってるよね。
襲われたのに、直ぐ食事が出来るのだから。
「シエル、この周辺の魔物は一掃出来たのか?」
「にゃうん」
一掃してきたのか。
それで、ものすごく尻尾が楽しそうに揺れているのか。
思いっきり暴れたりすると機嫌が良くなるシエルを見ると『戦闘狂』という言葉が思い出されるな。
「シエル、助けてくれてありがとう。ドルイドさんもありがとう。お疲れ様」
「あぁ、全員無事でよかった」
「にゃうん」
とりあえず魔物の危険は去ったかな。
ソルを見る。
問題は色々残っているけど。