318話 新種の魔物?
宿を出て背伸びをする。
ハタダ村で泊まった宿もよかったけれど、ハタウ村の宿の朝のパンには負ける。
「あの味が既に恋しい」
「ん? どうした?」
「サリファさんの朝のパンが忘れられない」
私の言葉に笑みを見せ、頭を撫でるドルイドさん。
「当分、黒パンで我慢してくれ」
確かに黒パンは黒パンで美味しい。
特にミルクのスープに浸けて食べると美味しい。
でもふわふわのパンが私は好きだ。
ドルイドさんは黒パンもかなり好きらしいけど。
「行くか」
「うん、今日から本格的な旅だね」
予定外にここハタダ村まで2日で来てしまった。
しかも運ばれて。
なので今日から本当の意味での旅だ。
気を引き締めて行かないとな。
「またやってるな」
ドルイドさんの視線を追うと、広場での騒動。
本当に短気な人が多すぎる。
不安ならとっとと動いてお金を稼げばいいのに。
それも矜持が邪魔をしてできないのだろうか?
だとしたら厄介すぎる。
「ここを出たら20日ほど森の中だが、足りない物はないか?」
「ハタウ村を出てからまだ2日だから大丈夫」
広場を抜けて大通りを門に向かって歩く。
あと少しというところで、自警団員たちと冒険者たちが集まっているのが見えた。
どうしたのか、少し緊張した面持ちだ。
「何かあったのかな?」
「あぁ、確かめた方がいいな」
ドルイドさんが近くにいた冒険者に声をかける。
「すみません。何かあったのですか?」
「なんだ? 知らないのか?」
「えぇ、何かご存知ですか?」
話しかけた冒険者の周りの数人がこちらを向く。
どの顔もちょっと表情が強張っている。
本当に何かあったらしい。
今日中に出発できるかな?
「森の奥にいたはずの魔物たちが移動したらしくてな」
「魔物の移動?」
「あぁ、ただの魔物だったらよかったんだが膨大な魔力を持った魔物でな」
膨大な魔力を持った魔物が移動?
旅をするのは危険かもしれない。
ドルイドさんも、眉間にしわを寄せている。
「魔物はどんな種類だったんですか?」
「それがかなり大きなサーペントだったらしい」
大きなサーペントか……んっ?
「見た奴らの話ではかなりの数が王都に向かって移動してたらしい」
えっと……。
ドルイドさんを見ると、ちょっと頬が引きつっているのが分かった。
やっぱりあの子たちのことなのかな。
「しかもサーペントと一緒にいた魔物が問題でな」
他の魔物?
そんなのいなかったよね。
……もしかしてスライム?
「なんでも先頭で大量のサーペントたちに指示をしていたそうだ」
先頭って私とドルイドさんが乗っていた大きなサーペントさんたちだよね。
指示?
あれ、それより魔物って……もしかして私とドルイドさんが魔物扱い?
「しかもその魔物がどうも今まで確認されていない魔物らしくてな」
「未確認の魔物?」
ドルイドさんが何とも言えない表情で冒険者と会話を続けている。
「あぁ、ヘビの下半身に人のような上半身だったらしい」
「「はっ?」」
あっ、つい声が出てしまった。
「あぁ、驚くだろう? そんな魔物を今まで見たことはなかったからな。だから新種が誕生したのか、それとも森の奥のサーペントたちの王が動き出したのか。どうも番だったらしいしな」
これはどこを突っ込めばいいのだろう。
確かに遠目から見たらヘビの下半身に人の上半身に見えるのかな?
それに番?
確かに私とドルイドさんだったら、そう見えるのかな。
目撃者がいたということなんだろうけど、見るならもっとしっかり見てほしい。
いや、サーペントの上に人が乗って移動しているのも問題か?
この場合、ばれなくてよかったと思うべきなのかな?
「怖いですね。今も近くにいるのですか?」
ドルイドさんが少し不安を匂わせる表情で情報を聞きだしている。
さすがだけど、よく見ると無理しているのか頬がぴくぴくしている。
「昨日の夜から確認しているが、この辺りにはいないと判断しているみたいだ」
「そうですか。では旅に出発しても大丈夫かもしれませんね。ありがとうございました」
「なっ、こんな危ない状況で行くのか?」
「先を急いでいるもので。ありがとうございました」
軽く頭を下げると、門へと向かう。
門番さんにも未確認の魔物がいるため止められた。
「分かってはいるのですが、どうしても今日中に出発しないと用事に間に合わなくなってしまうので」
「そうなんですか?」
門番さんの心配そうな表情。
いたたまれないです。
「気を付けてくださいね。目撃した方角はハタタ村の方なので、まだこちらには来ていないかもしれませんが、断定はできませんので」
「はい、気を付けます。ありがとうございました」
なんとか説得して村を出る事が出来た。
門番さんたちに何度も頭を下げてから、ハタヒ村に向かって村道を歩く。
村道を歩いていると、自警団たちや冒険者たちの見回りに何度も遭遇する。
その度に、説明をして1時間ほど歩き続けるとようやく人の気配が遠くなった。
「はぁ~、ドルイドさん」
「……何だ?」
「私たち魔物だって、それも番」
「ぷっくくく」
ドルイドさんが吹きだす。
我慢していたのが、とうとう無理になったようだ。
「くくくっ、ドルイドさん笑っちゃダメだよ」
申し訳なく感じるが、どうも笑いが込み上げる。
見られていたのも、それで恐怖心を与えてしまったのも本当に悪いなとは思う。
が、新種の魔物か森の奥にいた王か。
確かに遠目から見たらそう見えたのかもしれないが、真相を知っているので笑えてしまう。
「話を聞いてて吹きだしそうになったよ」
何度かグッと我慢していたのを知っている。
ドルイドさんは冒険者さんたちと顔を見合わせていたから大変そうだった。
私は、とっさに下を向いて我慢した。
見られなくてよかった。
「しかし、凄い話になっていたな」
「うん。あれって大丈夫?」
「ん~、ハタタ村では森に響く音、ハタダ村では大量のサーペントたちの移動に新種の魔物か」
何だろう、大丈夫ではないような気がしてきた。
情報は交換されるだろうし。
「当分、どちらの村も警戒態勢かな」
「ものすごく謝りたい気分だね」
「そうだな」
ドルイドさんと視線があうと、どちらも苦笑。
「まぁ、たぶんしばらくしたら落ち着くよ」
確かにこれ以上の目撃が無かったら大丈夫かな。
「それにしても見られていたんですね」
「そうだな、まぁけっこう近くまで運んでくれたからな」
「そうだね。あっ、そろそろ森の奥へ行きましょう。ソラたちを出してあげたいので」
「人の気配は大丈夫か?」
村道から森の奥へ向かって歩きながら気配を探る。
人の気配はなく魔物の気配をかなり遠くに感じるが、特にこちらに来ている様子はない。
「大丈夫そうなので、ソラたちを出しますね」
バッグの蓋を開けると、4匹が飛び出してくる。
今日はフレムもソルも起きているようだ。
「皆、今日から本格的な旅が始まるからね。ハタヒ村に向かって宜しく」
「ぷっぷぷ~」
「ぺふっ」
「てっりゅりゅ~」
「にゃうん」
「さて、行くか」
ドルイドさんの言葉にシエルの上にフレムとソルが飛び乗る。
「お前らな、少しは自分たちで歩けよ」
「ぺっ」
「てりゅっ」
「はぁ、シエル悪いな」
「にゃうん」
「あははは。シエル、ありがとう。行こう、皆」




