316話 ハタダ村
「ドルイドさん、普通の町並みだと思うのだけど」
ハタタ村の大通りを見て回っているのだけど、特に変わった建物はない。
大通りを見てほしい、覚えてほしいと言われたが正直特徴がない。
いや、建物の窓枠が真っ赤なところが特徴的と言えば特徴的なのかな。
あと、扉が全て色鮮やかな青色だ。
他には……ない。
どの村でも見られる建物だ。
「普通だからな」
「はっ?」
あまりの答えに唖然とドルイドさんを見つめる。
「覚えたなら、ハタダ村へ行こうか」
「はっ?」
どうしよう、ドルイドさんが何を求めているのか分からない。
とりあえず、大まかに建物などは覚えたので問題はないけど。
彼が何をしたいのか、まったく予測がつかない。
ハタダ村に行けば分かるのかな。
ハタタ村で軽く食事をして、ハタダ村へ行くため大通りを門へ向かって歩く。
その間中、森に響いた声の噂が絶えなかった。
「サーペントさんにお願いして、当分はあの甲高い声で鳴かないようにお願いしないと駄目ですね。喉を使った鳴き方で十分意思疎通できるし」
ククククッという鳴き方も可愛かったし。
というか、最初の頃は喉を鳴らしてくれたのに最近は聞いてないな。
ここ数日は、他の方法で意思疎通してるからな。
「そんなに心配する必要はないと思うぞ。あれは特別な時に出す鳴き声だと思うから」
「そうなの?」
「おそらくだが、遠くにいる仲間に居場所を知らせたり、危険を知らせたりする鳴き方だと思う。サーペントと同等もしくはそれ以上の魔物がいないこの森では、それほど聞くことはないよ」
なるほど、遠くにいる仲間に伝えるためだからあんなに甲高い音になってたのか。
確かに前に聞いた喉を使った鳴き声だと、遠くまでは絶対に聞こえないよね。
「まぁ、すぐに落ち着くだろうから気にしなくて大丈夫だ」
周りの村の人たちを見る。
ちょっと青ざめている人もいるけど……。
心の中だけど、謝っておこう『ごめんなさい』と。
「あれ? もう出て行くんですか?」
許可証を返すと門番さんに不思議な顔をされた。
そうだよね、ハタタ村に来てたぶん1時間ぐらいだもんね。
「ハタダ村に行きたいので」
「あぁ、それで」
えっ、それだけで納得するの?
門番さんの顔を見ると、楽しそうな表情をしている。
やはり何かあるらしい。
今見たハタタ村の様子を忘れないようにしないとな。
「お世話になりました」
「今度はゆっくりどうぞ。あと、声の主がまだ不明なので気を付けてください」
「はい。ありがとうございます」
お礼を言って、捨て場がある方角へ歩き出すが立ち止まる。
森の中に人の気配があちらこちらにある。
「どうしよう」
「どうした? もしかして森のあちこちに人の気配があるのか?」
「うん。これって、さっきの鳴き声の原因を探すため?」
「間違いなく、そうだろう。見回りが多くなっているなら、捨て場へ行っても無駄足だな」
「うん」
そこにサーペントさんはいないだろう。
「なら、村道の方へ行こう」
捨て場へ行く予定を村道に変える。
村道に出てから、周りの気配を探ってみると5人ほどのチームになって手分けして見回りをしているようだ。
私たちがいる近くにも2チームがいる。
「ドルイドさん、少し先に人の気配があるよ」
「分かった。このまま村道をハタダ村に向かって歩けばいいよ。俺たちにはどうする事もできないし」
確かに、あの音の正体を話す事も出来ないもんね。
話したら、もっと混乱を引き起こしそうだしね。
「「ご苦労様です」」
村道をハタダ村に向かって歩いていると、先ほど気配を感じた人たちがいた。
恰好から見てハタタ村の自警団の人たちの様だ。
「これからハタダ村へ?」
「はい」
「まだあの音が何か不明ですので、気を付けてください」
「ありがとうございます」
ドルイドさんがお礼を言ったと同時に、小さく頭を下げる。
自警団の人たちを見送ると、小さくため息が出る。
「緊張した?」
「ちょっとだけ」
「原因を説明したら、もっと大混乱になるだろうからな」
「それ、私も考えた」
ドルイドさんと視線が合うと笑ってしまう。
しばらく歩くと人の気配も遠ざかる。
もう大丈夫だろうと、サーペントさんを探すために森の中に入って行こうとすると、上からすっと音もなくサーペントさんの顔が正面に来た。
「うわっ、びっくりした~」
私が心臓の辺りを押さえていると、目を細めて楽しそうな雰囲気になるサーペントさん。
隣でドルイドさんも深呼吸をしていた。
驚いたのは私だけじゃなかったみたい。
「見つからなかった?」
すりすりすり。
「……喉を使った鳴き方でもいいよ。あれ可愛かったし」
私の言葉にどさっと体が地面に落ちてくる。
今まで木々に体を巻き付けていたのだ。
「大丈夫?」
「クククッ」
うん、可愛い。
それにこれだとドルイドさんも分かりやすいもんね。
「あっ、ソラたちを忘れてた」
「文句言われるぞ」
少し焦ってバッグの蓋を開ける。
いつもの様に……飛び出してこない。
中の様子を見ると、4匹が皆寝ていた。
「寝てる」
「ソラもシエルも、さっきの疲れが出てるのかもな。フレムとソルは、まぁいつもの如くかな」
確かにソラとシエルは午前中かなり遊びまわっていたな。
あれだけ長時間、しかも長い距離走りまわっていたら疲れるか。
フレムとソルはいつもと変化なし。
「そろそろハタダ村へ行くか」
「うん」
ドルイドさんの言葉に、当たり前のように持ち上がる私の体。
なんとなくこうなるかな~っと思っていたので、驚くことはない。
サーペントさんの背中に乗せられると、すぐ後ろにドルイドさんも運ばれていた。
「サーペントさん、ありがとう。ハタダ村へお願いします」
「ククククッ」
スーッと土の上を滑るように移動が始まる。
しばらくすると、速度がどんどん上がっていく。
「これだと今日中に、ハタダ村に着きそうだな」
「ククククッ」
「着くみたいだね」
「そうだな」
…………
本当に着いた。
気配を探ると、少し離れた所に人の気配がする。
おそらく門番たちの気配だろう。
「ありがとう」
「ククククッ」
「これからどうするんだ? 明日もここにいるのか?」
サーペントさんがドルイドさんの質問に首を横に1回振る。
どうやら明日にはいないようだ。
「ありがとう、とっても助かった」
「ククッ」
短く鳴いたサーペントさんはぐっと顔を私に近づける。
鼻先をゆっくり撫でると、目を細めて嬉しそうな表情を見せる。
「また、会いに行くね。本当にありがとう」
サーペントさんがハタタ村の方へ帰る姿を見送る。
なんだか寂しいな。
「行っちゃったね」
「あぁ、また会いに行こうな」
「うん」
ハタダ村へ歩き出す前に、足の疲れを取るため軽く柔軟体操をする。
座っていたが、同じ体勢だったため足が疲れている。
よしっ、柔軟体操完了!
ハタダ村へ行こう。
早くしないとハタタ村で見た景色を忘れちゃいそうで怖い。
それに、何があるのかワクワクする。
ここに来るまでに、ドルイドさんに何度か聞いたがまったく教えてくれなかった。
「あれ?」
ハタダ村の門に辿り着いたのだが、少し違和感を覚える。
何だろう?
「どうした?」
「いえ、なんでもないよ」
何だろう、何に違和感を覚えているんだろう。
門を見る。
どこにでもある門だから、特に特徴はない。
手続きが済み、許可証を受け取るとハタダ村に足を踏み入れた。