315話 不気味な音
捨て場の近くでサーペントさんから降りる。
周りの気配を探るが、こちらに向かって来ている人はいないようだ。
「とりあえず、ここ何処でしょうね?」
「あぁ、ゴミの種類から……村のゴミか?」
「えっ? もしかしてハタタ村?」
ゴミの種類を見る。
確かに森の中に不当に作られた捨て場ではありえない、家庭から出るゴミがかなり混ざっている。
ということは、本当にもうハタタ村に着いたのかな?
手の中にいたソルを、近くのゴミの上に置く。
「ゴミの間に落ちないように気を付けてね」
「ぺふっ」
ソルはピョンとゴミの中をしばらく移動すると、止まってゴミから魔力を取り出し空中に浮かせだした。
よし、今日のソルのご飯確保完了。
捨て場を出て、近くにいるサーペントさんたちの元に戻る。
「サーペントさん、ここってハタタ村の捨て場なのかな?」
私の言葉に首を傾げるサーペントさん。
分からないのかな?
「ハタタ村はここから近い?」
すりすりすり。
そうかこの近くに村があるのか。
サーペントさんの鼻先を撫でながら、周りを見渡す。
……多くのサーペントさんたちと視線が合う。
これって、駄目じゃないかな?
「ドルイドさん」
「なんだ?」
「村の近くに、こんな大量のサーペントさんがいたらどうなります?」
「……大混乱だな」
そうだよね。
「討伐対象になってしまうよね」
「いや、それは無いだろう。そんな無謀な冒険者はいないから。最悪、村を捨てようとするかな」
えっ!
もっと駄目じゃないですか!
「サーペントさん、ここにいると村が混乱するから離れてもらってもいい?」
私の言葉にしばらく何かを考えると、サーペントさんは家族だろう他のサーペントに向けて鳴き声を出した。
森に響く少し甲高い音。
「サーペントさんって喉を鳴らすだけじゃなくて、あんな高い声で鳴けるんだ」
初めて聞く鳴き声に、ちょっと感動してしまう。
森に響いた鳴き声が止むと、大量のサーペントさんたちが一斉に移動を始めた。
「凄い」
「確かに、あの鳴き声1つで全員が動き出すのか。やはりあのサーペントが頂点みたいだな」
大量にいたサーペントさんたちが森の奥へと消えていく。
手を振って見送るが、
「最後まで皆で移動した意味が分かりませんでしたが、ドルイドさんは何か気付いた?」
「いや、まったく」
楽しそうだったからいいのだろうけど。
そう言えば、あの子たちはどこへ行くのだろう?
「サーペントさん、あの子たちは住処へ帰るの?」
すりすりすり。
帰るんだ。
何か用事があった訳では無いのか。
……みんなでお散歩?
もしかしたらサーペントさんの習性とか?
「習性だったりします?」
「もしそうなら、もっと目撃情報がありそうだけどな」
確かにそうだね。
まぁいいか、気にしなくても。
それより、またどこかで会えると良いな。
「サーペントさんはどうするの? ここに残るの?」
すりすりすり。
残ってくれるらしい、心強いな。
「ぷっぷぷ~」
「にゃうん」
ソラとシエルが、飛び跳ねながら私たちの下へ来る。
ようやく戻って来た。
「おかえり、楽しかった? 楽しくないわけないよね、全然戻ってこないんだから!」
注意したのを聞いてくれなかったからって、拗ねてるわけじゃないもん!
「ぷっぷぷ~」
「にゃうん」
楽しかったのか、鳴き声が弾んでいる。
ていうか、まったく気付いてくれなかった。
……違うって、拗ねてないから!
「まぁまぁ」
ドルイドさんに頭を撫でられる。
はぁ~、仕方ない。
「お世話になったサーペントさんたちに、ちゃんとお礼を言った?」
「ぷっぷぷ~」
「にゃうん」
「よしっ! お利口さん」
「ぷっぷぷ~」
「にゃうん」
元気だな~。
「そう言えば、フレムは?」
ドルイドさんが周りを見渡す。
「朝からずっと寝てますよ」
バッグを開けて中を覗くと、フレムの寝ている姿が目に入る。
ドルイドさんも中を覗きこむと、苦笑を浮かべた。
「フレム、そろそろ起きないか?」
ドルイドさんが声をかけるが、ぴくっと動くだけ。
起きる気配がない。
「仕方ないか。ソラもご飯を食べるなら捨て場に行っていいぞ」
「ぷっぷぷ~」
ドルイドさんの言葉に嬉しそうな声を出すと、捨て場にピョンと飛び込んでいく。
あんなに急ぐと、またゴミに挟まるのに。
ソラはそれほどお腹が空いていなかったのか、すぐに捨て場から戻ってきた。
捨て場を見ると、浮いていた魔力が全て消えているのでソルも食事が終わったらしい。
2匹とも、今日は食事の時間がかなり短い。
まぁ、旅に出る前に時間に余裕を持って捨て場で食事をさせてきたからね。
その翌日では、それほど食べないか。
捨て場からソルを抱き上げて回収、後は村へ行くだけだ。
「サーペントさん、ハタタ村に行ってくるね? えっと、ちょっと森に隠れててくれる?」
すりすりすり。
「ありがとう。行ってきます」
「すぐに戻って来るから」
あれ?
見せたいものがあるって言っていたのに、すぐに戻って来るの?
「ドルイドさん、見せたいモノってなんですか?」
「見せたいと言うか、見て覚えていて欲しいんだ」
「覚える?」
「あぁ、門から入ったら大通りの建物の形や色を覚えて欲しい。細部は気にする必要ないから」
何だろう?
よく分からないけど、頑張って覚えようかな。
「了解です!」
ちょっと気合を入れていると、軽く頭を撫でられた。
捨て場から10分ほど歩くと、村の門が見えてくる。
「おはようございます。ハタタ村に入りたいのですが、問題ありませんか?」
「おはようございます。ハタタ村へはどう言った理由で来られましたか?」
「食料確保と情報を確かめに来ました」
あれ?
どうしたんだろう?
門番さんの表情がすごく緊張している気がする。
「滞在は短期ですか? 長期ですか?」
「短期です」
「分かりました。ギルドカードをお願いします」
ドルイドさんと私はギルドカードを指定の場所に置いて、身元を確認してもらう。
「はぁ、ありがとうございます」
対応してくれていた門番さんが、ギルドカードを確かめてため息をついた。
「どうしたんですか? 大丈夫ですか?」
「あぁ、すみません。森から来たので、ちょっと緊張してしまって」
門番さんは何とも情けない表情で謝ってくる。
森から来たから緊張?
門番さんの言った言葉を考えるが、分からない。
「あなた方は、森の中にいたんですよね?」
「「はい」」
「大丈夫でしたか?」
ドルイドさんと視線を合わせて首を傾げる。
大丈夫とは何を意味しているのだろう?
「あれ? さっきの聞かなかったですか? 森中に響き渡る不気味な音がしたのだけど」
不気味な音?
森の中にいたけど、そんな音はしなかったけどな。
「あっ!」
「ドルイドさん?」
「音は聞きましたが、特に問題はなかったですね」
えっ!
ドルイドさんは音を耳にしたの?
ずっと一緒にいた私がどうして聞いていないんだろう?
「そうですか。それは良かった。ではこれが許可証です」
「ありがとう。アイビー、行こうか」
「はい。お邪魔します」
門番さんに頭を下げて門をくぐる。
中の様子は少し混乱しているようだった。
やはり何かがあったのかな?
「すごいな、ここまで混乱するのか」
「ドルイドさん?」
「いや、門番が言っていた音だけど」
「はい」
なんだろう。
ドルイドさんが聞いて私が聞いていない音って。
「サーペントの出した鳴き声の事だと思う」
「はっ?」
サーペントさんのあの鳴き声が不気味?
……まぁ考えてみれば、あのちょっと独特の甲高い鳴き声は不気味にも聞こえるかな?
「俺たちは何か知っているけど、知らないと不気味だろうな。いきなり森にあんな音が響き渡るんだから」
そうか、私たちはあの音がサーペントさんの鳴き声だと知っているから怖くないのか。
「サーペントさん、大丈夫かな?」
「大丈夫、たとえ姿を見られたとしても何もしないよ。暴れている訳でもないし」
ドルイドさんがそう言うなら大丈夫かな。
「皆に帰ってもらっておいてよかったですね」
あの音に、大量のサーペントさん。
うん、村を捨てる事になったかもしれない。




