313話 紫の魔石
「ここがどこなのか考えるのが、怖い」
ドルイドさんの呟きに首を傾げる。
ここがどこ?
「ここはサーペントさんたちの住処の洞窟ですよ。とても広くて大きい洞窟」
「いや、それは分かってるから。大丈夫」
ドルイドさんの中で、魔物との距離がまだちょっと掴めていないみたいだ。
ソラやシエルが大丈夫だと判断した魔物たちは、怖がる必要はないのだけどな。
グッと背伸びをして、後ろにいるサーペントさんにもたれ掛かる。
後ろにいるサーペントさんの大きさは、大きすぎないのでもたれるのにちょうどいい。
「お腹いっぱい」
「ちょっと食べ過ぎたかな?」
「うん、美味しかったからついつい食べ過ぎちゃったね」
沢山のサーペントさんたちと合流した後、サーペントさんたちが狩って来た魔物を譲ってくれた。
見たことのない足がやたら長い魔物。
本でも見たことがなかったのでドルイドさんに確かめてみたが、彼も知らなかったらしい。
とりあえず、問題ない事を確認して美味しくいただきました。
それにしてもハタタ村に行くのに、途中でサーペントさんたちの住処に寄ることになるとは驚きだ。
視線を前に向けると、ここに私たちを連れてきたサーペントさんが満足そうに寛いでいる。
その視線をサーペントさんから少し上にずらすと、後ろにある洞窟の壁が見えた。
そこには今まで見た事も無い、人の頭ほどある魔石が土に埋まっているのが見える。
かなり透明度が高く、綺麗な紫色の魔石。
座っている位置からは、3つほど見る事が出来た。
それ以外にも沢山の魔石が土に埋まっているのが分かる。
いったいどれだけの数の魔石があるんだろう。
「どうした?」
「いえ、何度見ても凄いな~って」
私の視線の先を見て、ドルイドさんも頷く。
紫は確か、呪いを解く力があったよね。
これだけの魔石があったらどんな呪いも解いてくれそうだな。
「こんなモノが世の中に出たら大ごとだな」
「大きさが凄いからね。しかもあの透明度」
相当驚かれるだろうな。
「それだけじゃないんだ」
「ん?」
「紫の魔石は呪いを解くことが出来るが、反対に呪いをかける事にも使えるんだ」
えっ、そうなの?
つまり、こんな巨大で透明度の高い魔石があったら呪いのかけ放題?
「それは、恐ろしい」
「ここにいるサーペントたちが、魔石を守ってくれていてよかったよ」
「本当にそうだね」
私たちが魔石を見ていると、寛いでいたサーペントさんがスッと私に首を伸ばす。
そして、足元にポトリと何かを落とした。
見ると、透明で澄んだ紫の魔石。
しかも拳大の大きさだ。
「えっと、何だろう? これ」
ものすごく嫌な予感がする。
間違いであってほしい。
そっと目の前のサーペントさんを見ると、転がった魔石を鼻先で私の方へ移動させる。
この行動、シエルと一緒だ。
『あげる』と言う意思表示だ。
しかも目の前にいるサーペントさんから、ものすごく期待した視線で見られている。
もしかして魔石を2人で見ていたから誤解されたのかも。
「あのね、別に欲しくて見ていたわけではないんだよ。珍しいな~って思って見ていただけで」
話している最中にも、鼻先で魔石を私に近づける。
隣に座っているドルイドさんを見ると、諦めているように頷かれた。
「ありがとう」
手に取ると大きさが良く分かる。
今までで一番大きい。
それにしても、綺麗だな。
魔石の中を見ると、中央部分だけ少し色が違う。
白?
いや、銀色かな?
「サーペント、ありがとうな。呪いなどには使わないから」
呪いか。
耳にするだけで怖い言葉。
横に置いてある、魔石など高価なモノを入れているマジックバッグを開ける。
その中からマジックボックスを取り出して、蓋を開ける。
「溜まってるな」
ドルイドさんがマジックボックスの中を見る。
確かに、魔石がごろごろと溜まっている。
赤の魔石に青の魔石。
サイズはほとんど一緒だが、透明度が少し違う。
そこに、貰ったばかりの魔石を入れて蓋を閉める。
そしてマジックバッグへとしまう。
「あっ、この色の魔石は調べたこと無いですよね?」
「あぁ、駄目もとでソルに魔力が取り出せるか挑戦してもらうか」
「うん。ソルー!」
私の言葉で、黒の球体たちと遊んでいたソルがこちらに来る。
「ごめんね、遊んでいたのに。ちょっと待ってね」
試す前にマジックボックスに仕舞ってしまった。
慌ててマジックバッグから取り出そうとすると、すっと目の前に影がさす。
顔を上に向けると、さっきとは違うサーペントさんが魔石を咥えてそこに居た。
そして私の前に咥えていた魔石が置かれる。
先ほどより小ぶりの魔石。
色は紫で、透明度も少し落ち着いている。
「借りていいの?」
私の言葉に頷くサーペントさん。
ありがとうと言って、魔石を手に持ってソルの前に出す。
ソルは魔石の事をじっと見つめて、しばらくするとプルプルと揺れた。
「駄目か?」
「うん。駄目みたい」
マジックアイテムに魔力を提供するので、魔石の中には確実に魔力がある。
その魔力をソルが取り出せるか、何度か試しているのだ。
今までの結果は惨敗。
少しも魔石の中から魔力を取り出せなかった。
「ソル、ありがとう。ごめんね、遊んでいたのに」
「ぺふっ」
ソルが元気に黒の球体たちの元へ戻る。
その後ろ姿を見ながら、ちょっとため息が出てしまう。
「目の前に魔力があるのにな~」
悔しい。
「色々考えたんだが」
ドルイドさんが、私が持っている魔石をじっと見つめる。
「うん」
「魔石の中に集まっている魔力が1つの属性だから取り出せないのではないかと思ってな」
1つの属性?
目の前の紫の魔石は、呪いを解いたり掛けたりする魔石だ。
それ以外には使えない。
「ソルの魔力に触れた時に感じたのは、なんというか色々混ざり合った魔力だったんだ」
混ざり合った魔力?
「つまり、赤の魔石や、青の魔石の力を感じたって事ですか?」
「そうなんだよ。それがぐちゃぐちゃっと混ざりあっているような気がしたんだ」
なるほど。
つまり……、
「1つの魔石で、火の魔法の強化や水魔法の強化それに呪いをかける事が出来る魔石を探せばいいんですね」
「たぶん。だが、そんな魔石無いと思うぞ」
「無いの?」
「そんな万能型の魔石があったら話題になっているだろうし、文献にも残されているはずだ」
確かにその通りだ。
「俺が読んだ事のある魔石に関する文献には、複数の役割をはたす魔石については載っていなかった」
「でも、あそこにある巨大な紫の魔石みたいに、守られていて見つけられていないのかもしれない」
「そうだとしても、それをどうやって見つけるかって事だな」
そうだよね。
この世界のどこかにあるとしても、見つけるのが大変そうだ。
しかも本当にあるのかどうかも分からないのに。
「やはり、魔石から取り出す方法は駄目だね」
「まぁ、珍しい魔石を見つけたらその都度、調べていけばいいよ。それに、俺が言った事が正しいとも限らないしな。他の条件がある可能性もあるから」
「うん」
まだまだソルの食事の問題は解決が遠いな。
手の中の魔石を見る。
魔石から魔力を取り出せるマジックアイテムもなかったし。
目の前に魔力があるのにな~。
本当に残念だ。




