312話 サーペントさんたち
「久しぶり」
すりすりすりすり。
「元気だった?」
すりすりすりすり。
「お礼を言いたくて探していたから、会えてよかった。この子たちは、家族?」
すりすりすりすり。
「そっか、家族なんだ」
「えっと、アイビー。なんで普通に会話が出来ているんだ?」
ドルイドさんが私とサーペントさんの会話に首を傾げる。
「だって、今そう言ってくれたし」
どこかおかしかったかな?
「そう言ってくれた? いつ返事してた?」
「……サーペントさん、返事してくれていたよね?」
すりすりすりすり。
「ほら」
「……もしかして、その懐いている行動?」
「はい」
えっ、何でそんな複雑そうな表情をするのだろう。
もしかして、懐いてるだけで返事じゃなかったのかな?
「もしかしてただ懐いてるだけ?」
スッと顔をあげるサーペントさん。
「返事してくれていたんだよね?」
すりすりすりすり。
サーペントさんの態度に、『ほらね』とドルイドさんを見る。
「そうか。うん。アイビーだからな」
なぜか苦笑を浮かべながら頷かれた。
馬鹿にされているわけではないが、納得してくれているようには見えない。
首を傾げながらドルイドさんを見ていると、サーペントさんとは違う2匹が私の顔を覗きこんできた。
2匹を見ると、何かを期待しているような視線に気付く。
考えても分からなかったので、『ごめんね』と目の間にある2つの鼻を交互に撫でる。
すると2匹の目が細められて嬉しそうな表情に変わった。
どうやら撫でられたかったらしい。
可愛い。
「なぁ、フレム」
「てりゅ?」
「巨大なヘビ3匹に囲まれているのに、全く動じていないアイビーのこの先がちょっと心配なんだけど、大丈夫かな?」
「てっりゅりゅ~」
フレムの声に視線を向けると、ドルイドさんがフレムを抱き上げて視線を合わせた状態で何か話をしている。
「ドルイドさん、フレムに何かありましたか?」
「ん? いや、大丈夫」
なんだか力のない返事に疑問を感じて、近付こうとするが周りは3匹のサーペントさんたちに囲まれている。
「ごめんね、ちょっと通して」
私の言葉にさっと道を開けてくれるサーペントさんたち。
良い子たちだな。
3匹の頭を順番に軽く撫でて、ドルイドさんの傍による。
抱き上げられているフレムを見るが、特に変わりはない。
フレムを見ていると、頭をドルイドさんに撫でられた。
「そろそろ、移動するか?」
「そうだね、寝床を探す必要もあるもんね」
「あぁ」
休憩で使ったコップなどを洗ってバッグに入れて行く。
準備が終わったので、サーペントさんたちに挨拶をする。
「今までありがとう。私たちは次の村へ行くから。また来た時に会おうね」
お礼を言って歩き出そうとすると、クイッと服が引っ張られてそのまま体が浮く。
「えっ? サーペントさん?」
視線を動かして、後ろを見ようとするが服の後ろを咥えられているのか確認が出来ない。
ちょっと困ったなと思うと、そのまま空中を移動してサーペントさんの上に乗せられる。
前にもこんな事があったな。
サーペントさんを見るとドルイドさんをじっと見ている。
「乗れって事か?」
ドルイドさんの言葉に頷くサーペントさん。
彼の視線がこちらに向いたので、苦笑いをしておいた。
「仕方ないな。ところで俺たちハタタ村に行くんだけど、大丈夫か?」
3匹が同時に頷くので、行先に心配はないようだ。
良かった。
ドルイドさんが乗ると、ゆっくりと動き出すサーペントさん。
「お願いね。サーペントさん」
しばらく森を突き進んでいるのだが、どう考えても森の奥へ向かっている。
ハタタ村へは行けるのかな?
でも、大丈夫って言っていたしな。
まぁ、信じるしかないよね。
「大丈夫か、これ」
「大丈夫でしょう。たぶん?」
疑問形になってしまったな。
それにしても、速いな。
振り落とされないように……あれ?
「ドルイドさん。こんなに速く移動しているのに、普通に座れているのはおかしいよね?」
今、気が付いた。
周りの森が凄い速さで移動しているのに、体が吹き飛ばされるような風を感じない。
「たぶん、魔法だと思うぞ」
魔法?
「サーペントさんが魔法で風を防いでくれているって事?」
「おそらくな。アイビーも俺も何もしていないからな」
ドルイドさんが魔法を使っていないなら、サーペントさんだね。
私は魔力が少ないから使えないし。
「サーペントさんが守ってくれているの?」
少し声を大きくして、前を向いているサーペントさんに話しかける。
声がしっかり聞こえたようで、顔が後ろを向く。
移動速度が変わらないので、怖い。
後で聞けばよかった。
「サーペントさん、答えは後で良いから前を向いて。さすがにこの速さで後ろ向かれると怖すぎる」
私を見ている目が細くなって、まるで笑っている雰囲気になるサーペントさん。
ちょっと遊ばれている気がするな。
前を向いたサーペントさんにホッとしながら、前を見る。
随分と森の奥に来たようで、どこかはまったく不明だ。
隣を走っているシエルを見る。
思いっきり走れる事が嬉しいのか、楽しそうだ。
ただ、シエルの上にいる3匹は風に飛ばされないように必死だ。
サーペントさんの上に移動させた方が安全かな?
ちょっと迷ってサーペントさんに声をかけようとすると、すごい物が視界に入った。
「うわ~、ドルイドさん、凄い。サーペントさんがいっぱいいる! 大きさも色々あるみたい!」
「げっ、あれはやばいだろう。ちょっとサーペント、まさかあそこに行くつもりか?」
私とドルイドさんの視線の先には、大小さまざまな大量のサーペントさんたち。
黒の球体の子たちもいるようだ。
それが1ヶ所に固まっているので、見様によっては不気味だ。
「何あれ、面白い」
絡み合うように動いているので何とも不思議な光景に、ちょっと興奮してしまう。
「アイビー。お願いだから、少しぐらいあれを見て恐怖心を持ってほしい」
恐怖心?
もう一度、大量のサーペントさんたちを見る。
本当に色々な大きさがある。
「いつ、黒の球体からヘビに進化するんでしょうね? ちょっと見てみたいな」
「あれ? 恐怖心の話はどこへ行ったんだ? というか気になるのはそこなのか?」
私の後ろに乗っているドルイドさんが何故か項垂れている。
えっと……あっ、恐怖を感じるかどうかだった。
「恐怖心は無いですね。だって、そもそもサーペントさんが連れてきてくれたんだし。シエルもソラも安全だと判断していたから」
「確かに、その通りなんだけどな」
ドルイドさんがポンと私の頭を撫でる。
サーペントさんに乗っているから疲れないはずなのに、どこか疲れたような声。
もしかして、私がサーペントさんたちを信じすぎているからかな?
ん~、でも信じて大丈夫だと思うから自分を信じよう。
「それにしても、圧巻ですね」
大小さまざまなサーペントさんたちが、じっとこちらを見ている。
特に怖いと思う事はないが、ちょっと不気味だな。