302話 滑らないように
魔力が多めに残っていると思われるマジックアイテムを選んで拾っていく。
ある程度マジックバッグに集められたので作業を止めて、ソルを見る。
どうやら元の大きさに戻っているようだ。
良かった。
「とりあえずは、安心だな」
「うん」
隣で同じようにマジックアイテムを拾っていたドルイドさんも、ホッとした表情をした。
問題解決にはなっていないが、とりあえず今回は何とかなった。
「ソルの状態はどうですか?」
タブロー団長さんとピス副団長さんが、マジックバッグを担いで近づいてくる。
マジックアイテムを、一緒に拾ってくれていたのだ。
「大丈夫です」
「よかった」
タブロー団長さんが少し離れた所で食事をしているソルを見る。
ソルは最初の頃に比べると、食べる速さが落ち着いている。
やっぱりここに来た時は、かなりお腹が空いていたんだな。
「タブロー団長さん、今日貰った許可証って明日も使えますか?」
「えぇ、日にち指定はしていないので大丈夫です。ただし吹雪いている日や注意が出ている日は止めてくださいね」
「もちろんです」
吹雪の日に森へ行くなんて、そんな恐ろしい。
前の吹雪の時に窓から確認したけど、あれは怖い。
窓の先にある筈の街灯すら見えなかったのだから。
あの状態の時に森へ行ったら、自分が何処にいるかも分からなくなる可能性がある。
いや、絶対に迷子になる事間違いなしだ。
そんな危険なまねはしない。
寒いしね、絶対。
「帰ろうか」
ドルイドさんの声に帰る用意をして村を目指す。
タブロー団長さんとピス副団長さんは今日見たスライムたちの食事風景の話で盛り上がっている。
かなり衝撃的な光景だったようだ。
「マヌケ面だったよな」
私の耳元でドルイドさんがぼそりと言う。
たぶん、ソラが剣を食べているのを見た時だろうな。
思い出して、笑みが浮かぶ。
「ちょっと」
ドルイドさんと含み笑いをしていると、ピス副団長さんに呼ばれた。
「2人とも、絶対俺たちの事で笑っているでしょう?」
「いえいえ」
ドルイドさんが答えるが、完全に表情が笑ってしまっている。
「あ~、今日はかなり情けないところ見せてますよね」
タブロー団長さんが苦笑いする。
「今日だけではないですけどね」
ピス副団長さんの言葉に、タブロー団長さんが拗ねた表情をした。
それをからかうピス副団長さん。
ドルイドさんも参加して、かなり盛り上がっている。
そう言えば、いつの間にかタブロー団長さんとピス副団長さんの間にあった違和感が消えている。
あれは、何だったんだろうな。
村の門が見える場所まで戻ってきたので、シエルにスライムに変化してもらいソラとシエルをバッグへと入れる。
フレムとソルは、捨て場からバッグの中だ。
あの2匹は同じぐらいの、ものぐさだな。
門番さんに挨拶して中に入ると、タブロー団長さんとピス副団長さんからマジックバッグを受け取る。
ゴミが詰まっているので、少し重い。
「持つよ」
私が受け取ったマジックバッグをドルイドさんがさっと取り上げてしまう。
「えっ、1つは持つよ?」
「大丈夫。これぐらいなんでもないよ」
ドルイドさんは本当に平気な顔している。
大丈夫なのかな?
ゴミの詰まったマジックバッグが3つ。
確かに重さ軽減の魔法が掛かっているけど、けっこう重かった。
「では、今日はありがとうございました」
タブロー団長さんとピス副団長さんにドルイドさんが挨拶をする。
慌てて頭を下げる。
「いや、こちらこそ。かなり楽しかったよ」
タブロー団長さんの言葉にピス副団長さんも頷いている。
確かにゴミ拾いを手伝ってくれたから疲れているはずなのに、行きより表情が明るい。
途中で鬱憤を晴らしたのが良かったのだろう。
「「さようなら」」
手を振って宿へ向かう。
大通りは毎日マジックアイテムと村人のおかげで除雪されている。
ただ、雪を融かしているので足元は悪い。
「滑らないように気を付けないとな」
「うん。ちょっと怖い」
マジックアイテムで融かした雪が、寒さでところどころ凍っている。
その為、気を抜くとつるっと滑ってしまいそうだ。
ちょっとへっぴり腰になりながら歩く。
「ただいま」
「ただいま帰りました……疲れた~」
「おかえり。なんだ? 随分と疲れてるが大丈夫か?」
宿に戻ると、出入り口で何かの作業をしていたドラさんが出迎えてくれた。
「雪が凍っていて滑りそうだったから怖くて」
私の言葉に『あぁ』と返事をすると、出入り口にある棚から何かを取り出すと私に差し出した。
とっさに受け取ってしまったが……何だろうこれ。
「靴の先に取り付けると、凍った場所でも滑りにくくしてくれる代物だ」
凍った場所でも滑らない?
「靴のつま先に、突起が下に来るように嵌めて、ベルトできゅっと締める。これだけで結構歩きやすくなるんだぞ」
言われるとおりに、靴に装着する。
少し歩きづらいが、これで凍った道も?
ものすごく心もとないけどな。
「それ、必要なら使ってくれ」
「はい……ありがとうございます」
とりあえず、使ってみよう。
「俺にもいいか?」
「あぁ、その棚にあるから自由に使ってくれ」
「ドルイドさん、使った事あるの?」
「あぁ、結構役に立つぞ。それと、雪道を歩くときは、歩幅を小さくして足裏全体で着地するんだ」
歩幅を小さくして足裏全体。
いつもは踵から着地しているから慣れるまで大変だな。
「あと少し前かがみになると、滑りにくくなる」
「分かった。次から気を付けて歩いてみる」
出来るかな?
初めての歩き方だから大変そう。
とりあえず今は、冷えた体をお風呂で温めたい。
ドラさんにお礼を言って、部屋に戻った。
…………
昨日ドラさんに借りた、何だろう?
名前を聞き忘れてしまった。
滑らないようにする物を靴のつま先に装着して、ドルイドさんに聞いた歩き方で歩いている。
つもりなのだが……。
「難しいですね」
「まぁ、慣れだよ」
とりあえず前かがみで歩いてみるが、なんとなくいつもと違って違和感を覚える。
足裏全体の着地も、気が抜けるといつも通り踵から着地してしまう。
「アイビー、なんか面白い歩き方になってるけど」
ドルイドさんに言われるまでもなく、そんな気はしていた。
昨日の夜は雪は降らなかったが、冷え込みが酷かったためなのか除雪した場所のほとんどが凍っている。
しかも今日は厚い雲に覆われていて、凍った氷が融けずつるつる滑る状態。
「昨日より、滑りやすいですよね」
「あぁ、かなり道の状態は悪いな」
ドルイドさんも少しいつもより慎重に歩いているのが分かる。
なんとか、歩き方に慣れてきたところでようやく門に到着。
「何だろう。凄く疲れた」
「あれだけ体に力を入れていたら疲れるさ」
「ですね」
滑らないように慎重になっていたためか、体に余分な力が入っていたらしい。
これから捨て場に向かうのに……頑張ろう。