30話 大けがとソラ
オーガの巣の崩壊とオーガキングが討伐されたという情報に、心からホッとした。
オーガ討伐中は森の危険度が上がるため、村の出入り口が閉鎖されてしまった。
そのため少しも村から出られなかったのだ。
旅の疲れを取るのは1日もあれば十分で、3日ぐらいは本を見て勉強していた。
村の中で何か仕事をする場合はギルドを通さなければならない。
そのため仕事は出来ず、残りは村の中を見て回ったが、正直飽きた。
10日間はさすがに長かった。
一番つらかったのは、ソラを自由に外に出してあげる事が出来なかった事だ。
誰もいない場所を探してソラをバッグから出してはいたが、それも少しの時間だけ。
見つからないようにする事が、これほど大変だとは……。
それにしても、この村に来た初日にポーションを確保しておいてよかった。
そうでなければ、ソラの食事が足りなくなるところだった。
ようやく村の入り口が解放され、討伐されたオーガキングが村に運び込まれた。
討伐したモノを見せて安心させる意味合いがあるのだが……。
そのデカさと異様な雰囲気に驚いた。
オーガを見た事はあるが、遭遇しないように逃げるので、近くで見たのは初めてだ。
そして何より目の前に居るのは、オーガキング。
オーガの頂点に立つ魔物だ。
死んでいるとわかっていても、なんとなく不安を感じる。
オーガの肉は美味しく無いため、魔石と角を取ったら廃棄処分らしい。
村人や冒険者が集まっているのを横目に、村から捨て場に向かう。
ソラの食事と旅支度だ。
足止めされている間に出来る準備は全て終わらせてある。
後は足りない物の補充だけだ。
捨て場の近くで足を止める。
捨て場から多くの人の気配を感じたのだ。
……そうか、10日も捨てに来られなかったのだ。
溜まったモノを、扉解放と共に捨てに来た人たちが多くいるのだろう。
少し時間をずらした方がいいな。
干し肉以外の食料を、確保するために森の中に入る。
まだ緊張するが討伐は成功、オーガは全滅させたと村長が説明していたから大丈夫だろう。
ドキドキしながら川を目指す。
川の近くには、木の実がなっている事が多々あるのだ。
辿り着いた川で水の補充をし、周辺を見回すと赤い実をつけている木を見つけた。
以前、他の川辺で収穫した事のある実だ。
甘くて美味しかったので、実が生っているなら収穫したい。
木に近づこうとすると、足元に居たソラが飛び跳ねて足にぶつかってきた。
えっ!
驚いて立ち止まると
シュッ!?
「ぅわ!いたっ!」
木から何かが飛んで来るのを感じて、思わず身をかわすが腕に当たってしまった。
瞬間、ものすごい痛みが体を走り抜ける。
木の方を見ると……ずるずると動いている。
やばい、木の魔物だ!
魔物は、土から根を出し近づこうとしている。
足元のソラをバッグに入れて、痛む腕を押さえる。
「ぅくっ……」
ぬるっとしたモノが手に触れるが、今は確かめている暇はない。
痛みにぐっと歯を食いしばって、川辺から急いで離れる。
しばらく走って後ろを確認する。
……魔物の姿は見えない。
気配を探るが、なぜか気配が探れない。
距離はまださほど離れていないため、気配を読めるはずなのに……。
痛みで吐き気が襲う。
耐えながら、もう一度足に力を入れて魔物から少しでも離れるように走り出す。
しばらく走り続け、後ろに視線を向けるが動くモノはない。
ふっと体がふらついて、木の根元に座り込んでしまう。
痛みを感じる腕を見ると、押さえている手から血が滴り落ちている。
そっと手を離すと……かなり傷が深い。
それにずいぶんと血を失ってしまったようだ。
頭がぼんやりする。
バッグからポーションを出したいが、体が動かない。
……。
朦朧とする頭を、左右に振ろうとするが動けない。
「……ソラを、出さなぃ……と……」
ずるっと体が横に傾くのを感じる。
倒れた拍子に腕に強烈な痛みが走り少しだけ意識がはっきりするが、体は動かせない。
ソラを入れたバッグが目の前にある事に気が付いた。
ソラをバッグから出したいが……視界が滲み涙が溢れて来る。
「…ソ、ラ…」
滲む視界にもごもごと動く何かが見える。
はっきりとは見えないが、どうやらソラは自身でバッグから出たようだ。
……よかった。
ソラがこちらに近づいて来るのが分かる。
……ごめんね。
でも、私が死んでもソラは大丈夫。
意識が遠のくのを感じ、目を閉じた。
痛みで動かなくなった腕が、何かに包まれたような感覚がする。
不思議に感じていると、次の瞬間にはふっと痛みが消えた。
体中に響いていた痛みが消えた事で、少しだけ体に力が入るようになる。
重い瞼を押し上げ、滲む視界で見た物は……ソラに食われていた。
ソラが傷ついた腕を包み込んでしゅわ~っと食事をしていた。
……ソラは人を食べるらしい。
食べられる時に痛みは感じないようだ、よかったと思えばいいのだろうか?
最後の最後に驚きだ。
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