300話 怖がる?
吹雪が止んでから9日目。
ただ、雪は止んでいない為積雪量は少しずつ増えている。
そんな中、あるお願いをするために自警団事務所のタブロー団長さんを訪ねた。
団員に取り次ぎを頼むと、慌ててタブロー団長さん本人が来てしまった。
「あちゃ~。目立つのに」
確かに、タブロー団長が慌ててくるものだから団員たちに注目されてしまっている。
目の前に来たタブロー団長も、その事に気が付いたようで申し訳なさそうな表情をした。
「申し訳ない」
「いえ、急に来てすみません、少しお願いがありまして」
「えっと、ではこちらに」
タブロー団長さんに先導されて団長室へお邪魔する。
そこにはピス副団長の姿もあった。
「「こんにちは」」
「ドルイドさん、アイビーさん、こんにちは」
ソファを勧められたのでドルイドさんの隣に座ると、向かいにタブロー団長さんとピス副団長さんが座る。
あれ?
どうしてピス副団長まで座っているのだろう。
「ピス?」
「なんですか?」
「仕事に戻って良いぞ」
「お断りします。で、今日はどういったご用ですか?」
タブロー団長が大きなため息をつく。
まぁ、色々知っている人なので問題はないだろう。
現に、ソファに座った瞬間に音を洩らさないためのマジックアイテムのボタンを押してくれた。
よく分かっているなと感心してしまう。
「申し訳ないのですが、森へ行きたいので許可をもらいに来ました」
「えっ?」
積雪量が多く危険と判断され、今は門が閉じられて森へ行けない状態になっている。
でも、どうしても森へ行かなければならなくなった。
その理由はソル。
確かに食べなくても死ぬことはないようなのだが、体が少し小さくなってしまった。
そして元気に見えるが、確実に体力が落ちている。
ソルに聞けば、少し悩んだ後に大丈夫と言ったが心配。
なのでちょっと無理をしてでも捨て場へ行こうということになった。
「えっと、理由を聞いても良いでしょうか?」
タブロー団長さんの質問に、扉に鍵を掛けてもらいバッグから出したソルをソファの前にある机の上に置く。
ソラたちはバッグを開けた瞬間、自由に飛び出してきた。
フレムも今日は起きているようだ。
「あの、この子は?」
「ソルと言って、新しい仲間です」
「……テイムの印が無いようだが」
「テイムはしていないので」
「「…………」」
やはりそこが気になるのか。
テイムしていなくても仲間というのは、ありえないのかな?
とりあえず、ソルの事を説明していく。
食事が魔力だということを話すと2人して面白い顔……驚いていた。
話し終わると、ピス副団長さんの手が怪しい動きをしたので、タブロー団長さんが殴って止めていた。
ソルは怪しい動きをする指に警戒しているのか、少し体をピス副団長から遠ざけている。
うん、あの指の動きは気持ち悪い。
「アイビーさんには色々と驚かされてきましたが、魔力を具現化出来るレアスライムを仲間にするとか本当に凄すぎます」
ピス副団長の興奮した声にソルがびくりと体を震わせる。
「それもそうなんだが、こんな力を持ったスライムがいることに驚きだ。ドルイドさんは何か聞いたことがありますか?」
タブロー団長さんがそっとソルを触る。
彼は問題ないようで、普通に撫でられている。
「いえ、無いですね。だから食事をするところを初めて見た時は、衝撃でしたよ」
「どこか神秘的だったよね」
私の言葉に苦笑いのドルイドさん。
首を傾げると、ポンポンと頭を撫でられた。
「怖くなかったのですか?」
タブロー団長さんの質問の内容に驚いて、彼を凝視する。
怖い?
「えっと、何を怖がるのですか?」
「えっ? 先ほど黒い魔力がソルの周りに浮かんでいたって」
タブロー団長さんの言葉に頷く。
「それが自分に向かってくる可能性を、考えませんでしたか?」
「考えませんよ。そんな事」
私の答えにピス副団長さんも一緒に驚く。
どうして驚く必要があるのか分からない。
「ソラやシエルが警戒していないソルを、警戒する必要はないです。それに、ソルと少し一緒にいれば分かりますがとても優しい子です」
ソルの行動はちょっと不思議なところもあるけど、基本優しい。
ちゃんとこちらに余裕がある時にしか、いたずらはしない。
それは他の仲間たちも一緒。
「そうですか、信用をしているのですね」
「当然です。仲間ですから」
私の答えに、嬉しそうに笑うタブロー団長さん。
「スキルの力を借りずに、仲間を増やせるアイビーさんは凄いですね」
スキルの力を借りずに?
そうか、テイムしていないのに仲間になってくれたのだからそうなるのか。
考えた事なかったな。
ソルを見ると、ピス副団長を警戒しているのかチラチラと彼を見ている。
彼は触るのは諦めたようだが、今度はソルの事を右から左からと観察していた。
その行動に、ソルの表情が強張っている気がする。
そしてピス副団長の視線に耐えきれなくなったのか、私の膝の上にピョンと逃げ込んできた。
「ピス、嫌われたぞ」
「あっ! ごめん。ただ、ちょっと珍しかったから見ていただけだよ、ソル」
ピス副団長がソルに必死に訴えるが、私の体にぴとっと体をくっつけてくる。
可哀想なので手でソルを隠すと、安心したのか体から力が抜けた。
ピス副団長さんが、ちらりと私を見てくるのでそっと視線をドルイドさんに向ける。
「はぁ、馬鹿だな。完全に嫌われたぞ」
タブロー団長さんの言葉に、ちょっと拗ねた表情のピス副団長さん。
「それで、森へは行ってもいいですか?」
「えぇ、事情があるのですから構いません。ですが、かなり危ないので気を付けてくださいね」
タブロー団長さんが、立ち上がり書類が置かれている机に向かい何か紙に書き込んでいる。
そして、その紙を持ってソファに戻ってくる。
「これを」
「ありがとう」
ドルイドさんが受け取ったのは通行許可の書類。
これで森へ行ける。
タブロー団長さんと視線が合ったので頭を下げた。
「……今日の仕事は終わったよな~……」
タブロー団長さんが小さな声で何かを呟いて、周りを見る。
書類の束を見て何度か頷いて、ドルイドさんと私を見る。
「あの、一緒に森へ行ってもいいですか?」
「えっ?」
ドルイドさんが驚いた声を出す。
その手には、渡そうと思っていた、フレムが復活させた魔石。
それも数日分なので、大量だ。
「タブロー団長が行くなら俺も一緒に行きたいです」
ピス副団長もお願いしますと頭を下げる。
ドルイドさんと視線が合う。
特に問題はないので頷く。
「別にかまいませんが、仕事は大丈夫ですか? それとこれ、魔石です」
「仕事は大丈夫、って凄い量ですね」
袋の大きさに驚くタブロー団長さんとピス副団長さん。
それに私たちは笑うしかない。
ほぼ10日分の魔石。
日々復活させる魔石の量が多くなっていたのも原因の1つだ。
なのでここ2日は、復活させる量を減らしてもらっていた。
「これだけあれば」
「あぁ」
タブロー団長さんとピス副団長さんが、袋の中身を見て何か確認している。
「あの、おそらくもう大丈夫です。本当に有難う御座います」
目の前の2人が、同時に頭を下げる。
ちょっと驚いた後、いつの間にかドルイドさんの膝の上にいたフレムを見る。
フレムは、目を真ん丸にした後グテッとした。
本当に体が横に脱力したみたいになった。
「あらら」
ドルイドさんの言葉にタブロー団長さんとピス副団長さんが、頭をあげる。
そしてドルイドさんの膝の上にいるフレムを見て、不思議そうな表情をする。
「いえ、ずっと楽しそうに魔石を復活させていたので。それが終わったので力が抜けたようです」
「はぁ」
意味が分からないのか、戸惑った返事をするタブロー団長さん。
ピス副団長さんは、フレムの変化に興味をそそられている。
それにしてもグテッとしたフレム、可愛いな。
評価、誤字脱字、感想、本当に有難う御座います。
皆さんのおかげで300話を迎える事が出来ました。
本当に感謝しかありません。
これからもアイビーの旅、よろしくお願いいたします。