295話 私の現状?
ドルイドさんとプリアギルマスさんが、それぞれの師匠と前ギルマスさんの話で盛り上がっている。
というか、時々よくそれで生き延びてきたなと寒気を感じる話があるのだけど、冒険者とはこんなに逞しくないと駄目なのだろうか?
もしそうなら、私は冒険者には向いていないな。
ドルイドさんが、商業ギルドに登録してくれて本当によかった。
膝の上にいるソラとシエルを撫でながら、過酷な冒険? 試練? の話にちょっと考えさせられた。
「そう言えば、商業ギルドのギルマスの問題は解決したのか?」
ドルイドさんの言葉にそう言えばと思いだす。
確か何か……冒険者から魔石を取り上げたとか、だったかな?
それで色々と犯罪が明るみになった?
あれ?
どうだったかな。
「そう言えば、まだ発表されていなかったですね」
「発表? だったら話す必要はないぞ」
私もドルイドさんの言葉に頷く。
発表できない理由があるのだから、部外者である私たちが知る必要はない。
「いえ、2人になら話しても問題ないですから」
いや、本当に必要ないのだけどな。
「奴の容疑は確定しました」
そうなんだ。
「よかったですね。おめでとうございます」
まぁ、これでこの村の問題が1つ消えたね。
「実はこの間の魔法陣が奴を追い詰める材料になったのですよ」
魔法陣って洞窟の?
「えっ? あの魔法陣は、商業ギルドのギルマスが捕まる前からあそこにあったのか?」
「いえ、違います。奴が捕まった後に組織を乗っ取ろうとした者が仕掛けた魔法陣でした。計画は元々あったので、それを実行しただけなんですが」
「なるほど。秘匿なら言わなくてもいいが、あの魔法陣はどんな効力があったんだ?」
「強制的に指示に従わせるモノでした。おそらく守り神の力だけではいずれ奴隷になっていたでしょう。シエル殿がいてくれてよかったです。もしも犯罪者たちの手に守り神が渡っていたら、大変な事になっていました」
それって、私たちが聞いていい事ではないよね。
ほら、ドルイドさんが困った顔しているし。
いやドルイドさん、私を見ても対処できないですからね。
ちょっと視線を逸らしておこう。
「……そうか。防げてよかったな」
あ~、凄く顔が引きつってる。
って、私を睨まないで下さい。
聞いたのドルイドさんです。
「あっ!」
「なんだ?」
「…………秘匿でした」
「「だろうね」」
ドルイドさんとため息をついてしまう。
プリアギルマスさんはどうも私たちの前だと気がゆるみ過ぎだ。
なんだか疲れるな。
「ぷっぷぷ~」
「にゃうん」
「ん? ふふっ、大丈夫だよ。ありがとう」
ソラとシエルだけじゃなくフレムもベッドの上で起きて私を見ている。
疲れた表情でもしているのかな?
心配してくれる気持ちがありがたいな。
「ぺふっ」
机の上で寝ていたソルも、気がつけば起きて私を見ている。
「ソルもありがとう」
ソルを撫でるとプルプルと嬉しそうに揺れて目を細める。
あれ?
目を細めたのってソルは初めてじゃないかな?
ソルの新しい表情発見!
ふっと視線を上げると、なんとも表現しづらい目で私を見ているプリアギルマスさんがいた。
「やはりすごいですね」
「はははっ」
今、絶対に顔は引きつっていると思う。
「あれ? もうこんな時間なんですね。戻って仕事しないと」
プリアギルマスさんが時計を見て慌てだす。
確かにそろそろ夕飯時だ。
ドルイドさんと私に何度もお礼を言って、なぜか最後に握手をしてから帰っていった。
「はぁ~」
体は疲れていないのに精神的な疲れが。
「疲れてる? 大丈夫か?」
「いきなりファンとか言われて緊張したし。何か重要な事ぼろぼろ話していくし……疲れた」
「アハハハッ」
「笑い事じゃないですよ。びっくりしました」
「ん~、たぶんだけどタブロー団長もアイビーのファンだと思うぞ」
「えっ!」
「冒険者たちは、理想の強さを持った人や憧れの魔物をテイムしている人に憧れを抱きやすいんだ。普通はそれほど熱狂的ではないけど、中には熱をあげてしまう人がいるから」
「2人がそうだと?」
「話を聞いていると、どうやらアイビーは凄い事を成し遂げている」
凄い事?
考えるが特に思い当たることがない。
先ほどプリアギルマスさんが話していたことも偶然が重なってのことだし。
そもそもシエルやソラのおかげだ。
私の力ではない。
「分からないって表情だね?」
「うん」
「これからのこともあるし、夕飯後にゆっくり話そうか」
「そうする。お腹が空いた」
話す時間が欲しいから、今日の夕飯は簡単に丼物にしよう。
根物野菜の煮物もちょっと付けようかな。
2人で夕飯作りに取り掛かるとあっという間に完成する。
ドルイドさんとの調理も慣れたな。
初めの頃は違和感がすごかったけど。
「「いただきます」」
丼物ってどんなお肉とも相性がいいな。
色々試しているけど、今まで外れがない。
食べ終わって2人で後片付け。
これも慣れたな。
「さて、お茶を用意して部屋に戻ろうか」
「今日はお酒は良いの?」
「毎日は要らないかな。昔と違って、心が満たされているからな~」
「ん?」
最後に何か言ったみたいだけど、聞き取れなかったな。
ドルイドさんを見ると、楽しそうに笑っている。
別に気にすることも無いか。
「さてと、とりあえずアイビーがしたことについて話すよ」
自分のしたことなのに訊かないと分からないとか、もしかして私は鈍いのかな?
「アイビーが協力して組織を壊滅させた事で、この村の前団長と前ギルマスの容疑が晴れた。今日初めて知ったが、子供たちも無事に救出している。おそらくこの事が2人にとってアイビーという存在を強く印象付けたんだと思う」
「でも、他の人たちもいますよね?」
あれは私だけで解決したわけではない。
というか私はお手伝いだ。
「他の者たちは、全員冒険者としてそれなりに名をあげている人たちだろう?」
確かにそうかな。
ドルイドさんの質問に頷く。
「そんな中に無名の、しかも存在が隠されたアイビーが入ると目立つ。さらに少し情報を探ればまだ幼い子供だと分かる。子供が自分たちを助けてくれた。ある意味衝撃だと思うぞ。今まで全く対応できなかった問題を2つも解決してくれたのだから」
そう言われればそう言う気もしてくるな。
「実際に会ってみたら、想像していたより幼い」
「…………」
「アイビー、無言で睨むの止めてほしいな」
「ごめん」
だって幼いって!
「幼い見た目に戸惑っていたら、話す内容はしっかり大人だ。しかも目の前の問題に必要な魔石を、あちらの希望金額で提供してくれる。それに加えてテイマーとして誰もが憧れるレアをテイムしているわ、アダンダラまでいるわ。極めつけがこの村の収入源になっている魔石を採掘できる洞窟まで見つけてくれて、守り神を救ってくれた。最後に今現在問題になっていた、商業ギルドのギルマスの問題も解決した」
えっと、ん?
洞窟とか守り神はドルイドさんも一緒にいたし!
だったらドルイドさんのファンでもいいと思うけど。
「ちなみに俺のファンにはならないぞ。ソラとシエル、フレムをテイムしているのはアイビーだからな」
「はぁ」
ん~、分かったような理解したくないような。
「ここからが重要」
「重要?」
「おそらくプリアギルマスやタブロー団長まではいかなくても、他の村や町にもアイビーのファンがいる。少し気になっていたが、今回の事で間違いないと確信したよ」
「ほ、他にも?」
「そう。あの犯罪組織を潰したことで、ボロルダさんたちはかなり評価をあげている。協力した貴族、えっと誰だったかな?」
「フォロンダ領主ですか?」
「あぁ、彼の噂を聞いた。王がかなり気に入ったらしく、王女との見合いの場を設定したらしい」
うわ~凄い。
「町から離れる気はないと、断ったようだが。王女がどうもフォロンダ領主? を気に入ったらしく彼を説得しているらしい。まぁ、噂だけどな」
噂だとしても、凄い。
「そんな人たちと名前を並べたアイビーは、村や町のトップたちから注目されていると思う。情報が隠されたから一般的には知られていないが。情報を隠した団長さんに感謝だな」
……はぁ、一度休憩を下さい。