292話 答えが出ない
捨て場に来てソルの食事風景を見る。
ゴミの上に浮かぶ黒い魔力。
昨日同様に、それを触手で掴んで食べていく。
「どうしたらいいのか全く思い浮かびませんが……」
「俺もだ」
困った。
ソルの食事をどうしたらいいのか、どんなに考えても何も思い浮かばない。
だいたい、魔力ってどうしたら集められるの?
とりあえずソルに色々と訊いてみようかな。
「ソル、食事中にごめんね。質問してもいい?」
食後の方が良かったかな。
「ぺふっ」
あっ、返事を返してくれた。
なら大丈夫かな?
でも、何を聞けばいいかな?
えっと、魔力以外に食べるモノがあるかどうかは聞いておいた方がいいよね。
ゴミ以外の物であるかもしれない。
もっと移動が簡単な物が食べられるならそっちを食べて欲しい。
「ソルは魔力以外の物は食べられる? 食べられる場合は、鳴いてくれると分かりやすいかな」
「……」
残念、無理なのか。
食べ物は魔力だけって事なのかな。
ドルイドさんを見ると肩を竦められた。
「魔力しか食べないんだね?」
「ぺふっ」
ん~、やはりそうか。
後は。
「それはゴミから取り出している魔力で間違いないか?」
ドルイドさんの質問に、
「ぺふっ」
ゴミに残っている魔力で間違いないらしい。
「ソル自身が、ゴミから取り出しているのか?」
ドルイドさんが近くに落ちていた壊れたアイテムを掴んでソルに近づける。
「ぺふっ」
ソルは鳴くと、ドルイドさんが持っているゴミからふわっと黒い魔力を取り出して見せた。
なんだか神秘的だな。
出てきたのは黒い靄だけど。
あっ、取り出すことが出来るのなら。
「その魔力は、ソルの力で何かに入れたりすることは出来る?」
「……」
取り出せるけど、入れる事は出来ないのか。
「無理か~」
ドルイドさんが頭を抱える。
「あの魔力って触ったら消えましたよね?」
「そう。ふっと空気中に消えていったな」
ソルのように触ることが無理で、空気のような魔力。
こんなの何をやっても、集められる気がしない。
固形に固める事とか出来ないかな?
「ソル、その魔力を固める事が出来たりしない?」
「……」
私の質問に食べる事を止めて不思議そうな雰囲気を出すソル。
あれ?
質問が分からなかった?
「えっと、私たちが触れるように魔力をギュッと固めてくれたら移動が出来るのだけど」
「……」
「無理?」
「ぺふっ」
無理なのか。
「さすがに魔力を固めるとか、考えたことも無いな」
「そうですか?」
「あぁ」
そういうモノかな?
「どうしましょう?」
「どうしようか?」
ドルイドさんと視線を合わせてちょっとため息。
本当に何も思い浮かばない。
そうだ、魔力を集める事が出来るアイテムとかないかな?
「ドルイドさん。魔力を集めるアイテムとかないかな?」
「魔力を集めるアイテム? ん~、俺は聞いたことがないが」
魔力を集める事が出来れば、ソルのご飯は確保できるよね。
あっ違う。
集めるだけでは駄目だ。
集めた魔力を取り出すことも出来るアイテムでないと。
「もしあるのならローズさんに聞けば分かるが……探している理由も言わないとな」
あれ?
ローズさんに話すのは反対なのかな?
「ソラたちの事を知っているローズさんだから、ソルの事を話しても大丈夫でしょう?」
「ローズさんの人柄を少しは知っているから、情報を洩らされる心配はしていないよ。ただ、レア3匹に続き今度は魔力を食べるレアスライム。驚かせるだろうなって思ってな」
確かに驚くかも。
「帰りにローズさんのところに魔石を置きに行く予定だから、ついでにアイテムについても相談してみようか?」
「うん。ローズさんには色々お願いしすぎだね」
「確かにな」
アイテムが有ったら嬉しいけど。
無かった時はまた悩むことになりそうだな。
「ぺふっ」
ソルの声に視線を向けると、私たちを不思議そうに見ている。
「ごめん、質問は終わったからご飯に集中して良いよ。ありがとう」
「ぺふっ、ぺふっ」
くるりと向きを変えて食事を続けるソル。
邪魔をしては駄目なので少し場所を離れてその様子を見る。
ソラとフレムはマイペースに食事を続けている。
「そろそろ、新しい場所の雪を融かす必要があるようだな」
「皆、凄い食欲ですね」
なんだか今日は、皆の食べるスピードが速い。
気のせいかな?
「ぷ~」
ソラが大きな声で鳴く。
見ると、体を縦に伸ばしたり、横に伸ばしたりしている。
どうやら食後の運動を始めたみたいだ。
ん?
横に伸ばした?
ソラの動きに少し違和感を覚えたので、ソラをじっと見つめる。
「縦に伸びているのはいつもの事だよね。……横にも伸ばせたんだ」
視線の先にはいつもの縦運動。
それに横に伸びる横運動が足されている。
それを順番に行うので、何とも表現しづらいソラがいた。
「縦運動もどうかと思うが、横運動だとずいぶん情けなく見えるんだな」
横に伸ばすと目と口が横に広がるので、縦に伸びた時より残念さが増える。
気持ちよさそうなので何も言わないが。
「あれはあれで可愛いですけどね」
「可愛いか?」
「うん、残念すぎて可愛い」
私の言葉に、首を傾げているドルイドさん。
理解されなかったようだ。
フレムとソルの食事が終わるのを待って、フレムが復活させた魔石を拾う。
今日も、復活した魔石は大量だ。
「相変わらず、凄い量だな。というか日々増えているよな確実に」
「うん。これって必要無くなったらどうなるんでしょうね?」
「……まぁ、なるようになるだな」
その通りなんだけど、不安だな。
アダンダラの姿で何処かへ遊びに行っていたシエルが帰ってくる。
「おかえり、楽しかった?」
「にゃうん」
どうもアダンダラの姿で遊べる相手を見つけたのか、随分と楽しそうだ。
その分ソラがちょっと拗ねているが。
「村に戻るから、バッグへ入る子は集まってね」
私の言葉に、フレムとソルがぴょんと私のもとへ来る。
この2匹は、自分の力で帰ろうとは一切しない。
感心するほど、潔い。
「雪で体が湿っているから拭くから待ってね」
マジックバッグからタオルを取り出して、フレムの体を拭く。
拭き終わるとバッグに入れる。
次にソル。
ソルは小さいからちょっと怖い。
でも、体はかなりしっかりしている。
ソルも拭き終わるとバッグに入れる。
その時フレムが見えたのだが、既に寝ていた。
いつもの事ながら、すぐ寝るフレムに笑ってしまう。
捨て場から村へ戻っていると、雪がちらちらと降りだした。
「降り出したな、急ごう」
門がぎりぎり見えない辺りで、ソラとスライムに変化したシエルをバッグに入れる。
挨拶して村に入ると、何やら大通りが盛り上がっていた。
「何があったんだろう?」
「冒険者たちも随分といるな」
ドルイドさんの視線を追うと、確かにいつもより冒険者の数が多い。
もしかしてこれから狩りへ行くんだろうか?
もうすでに夕方なのだけど。
不思議に思いながら、ローズさんのお店に向かって歩く。
「ベアスが狩られたんだってね」
その言葉に足が止まり、声が聞こえた方を見る。
隣を歩いていたドルイドさんも立ち止まったようだ。
視線の先には、4人の女性が嬉しそうに会話をしていた。
「あぁ、見てきたわよ。立派な大人のベアスだった」
「冒険者たちが盛り上がっている訳ね」
「そりゃそうだわ。数年ぶりのベアスだもの、きっと高値で引き取ってくれるし」
どうも、ベアスの解体が終わって情報が公表されたようだ。
「なるほど、明日からは森へ行くのを気を付ける必要があるな」
「うん」
きっとベアスを求めて多くの冒険者が森へ入る事になる。
ソラたちを見られないように、注意しないとな。