286話 ソルの食事
雪の上に新しい足跡を付けながら、捨て場に向かう。
シエルは元の姿に戻り、雪に大はしゃぎ。
ソラも楽しそうに、はしゃぐシエルに体当たりをしては転がされる。
いつもの遊びなのだが、今日はシエルが興奮しているからいつもより激しい。
ソラが四方八方に跳ね飛ばされている。
「ソラって結構シエルに凄い事されているよな。あっ、飛んでった」
飛ばされた方を見ると、木にぶつかり転がった。
そして、その上に大量の雪が降り注いだ。
「えっ、ソラ!」
慌てて駆け寄って雪をどかそうとするが、雪がぶるぶると振動してポンとソラが飛び出してくる。
そしてその勢いのまま、またシエルに突進していく。
「大丈夫みたいだな」
「うん。ソラって何気に日々強くなってるね」
「みたいだな。まぁ、日々あんな遊びをしていたら強くなるしかないよな」
確かに、遊びにしては凄いもんね。
ときどき『本当にそれは遊びなの?』と確かめたくなる時がある。
それぐらい2匹の遊びは日々凶暴……進化している。
最初の頃は、前足で転がされるぐらいだったのにな。
「フレムとソルはバッグの中から出てこないみたいだな」
「うん。確認したけど出る気が全くないみたい。2匹とも寒がりなのかな?」
「ん~、スライムは暑さ寒さには強いと言われているが、通常のスライムの常識が通じないからな」
「あははは」
そうなんだよね。
スライムのことを調べても、ソラたちが全く当てはまらない。
やはり文献で調べた方がいいのかな?
「ドルイドさん。文献って誰でも見る事が出来たりしませんか?」
「文献なら、王都や大きな町にある図書館で見る事が出来るはずだ。ただし機密扱いの文献は無理だけどな」
図書館があるんだ。
大きな町ということは普通の町には無いのかな。
というか、大きな町って王都周辺しかないよね?
探せるのはもっと先になるな。
「ただし、魔物について全ての文献が読めるわけではないからな」
「そうなの?」
「あぁ、例えばこの村の守り神。巨大なヘビの魔物だが、守り神となっているから村の重要な存在として関連する文献全てが重要機密として隠されているだろう。他にも村にとって重要だと判断された魔物の文献は見られない事の方が多い」
なるほど。
もし村にとって重要なスライムの場合は、その村に行かないと分からないということか。
いや、行ったとしても見られない可能性が高いのか。
「捨て場も真っ白だな」
あっ、本当に雪景色で何も見えないや。
というか、あまりにも違う景色に捨て場に着いている事に気付かなかったな。
「捨て場もこうなると綺麗ですね」
真っ白の広大な広場みたいに見える。
「下にあるモノが分かっているから微妙だけどな」
罠に必要なモノを書いた紙を確かめる。
捨て場で見たことがあるモノばかり。
なので、後は見つけるだけ。
頑張りますか!
捨て場に入って、雪をどかそうとするとドルイドさんに止められた。
「待った! 待った! さすがにそんな方法を取っていたら風邪をひくから、アイテムを使おう」
アイテム?
首を傾げながらドルイドさんのもとに戻ると、手に棒を持っている。
それを捨て場に積もった大量の雪の上に置く。
しばらくすると、その棒を中心に雪が融けていく。
「凄い! 雪が融けてる」
「村や町の大通りなどの雪を融かす時に使うアイテムなんだ。まぁそれの小型版だけどな」
しばらく見ていると雪の下のゴミが見えてくる。
ドルイドさんはそれを確認すると、棒の位置を変えてその下の雪が融けるようにする。
「大通りなどを融かす棒はもっと長いし、もっと広い場所の雪を融かすことが出来るんだけど、これはこれが限界」
融けた部分を見ると大人が両手を広げたぐらいの雪が融けている。
「いえいえ、これで十分だと思う。というか、凄く助かる」
「それにしても、アイテムを準備している間に手でしようとするから焦ったよ」
「こんな便利なアイテムがあるなんて知らなくて」
私の生まれたあの村では、こんなアイテムは見たこと無かったから仕方ない。
何度か棒の位置を変えて雪を融かしていく。
ある程度の場所の雪が融けたら、必要なモノを拾っていく。
「一番重要なのは縄だな」
「うん」
ドルイドさんが教えてくれた、冬にしか現れない魔物は今までの獲物より大きい。
なので今までより丈夫な縄がいる。
「なかなか長いのがないな」
「長くなくていいですよ。繋ぎ合せればいいだけなので」
「それだと強度が弱くなったりしないか?」
強度が弱く?
けっこう丈夫に繋げているけどな。
「強度が弱かったら2本使いにするとかで、どうにかなりませんか?」
「そうだな、話していた罠なら大丈夫かな?」
縄にカゴに縄袋などなど、必要なモノを拾っていく。
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
……あれ?
いつの間にフレムとソルはバッグから出てきたんだろう?
荷物を置いた木の下を見る。
スライム専用のバッグの口が大きく開いている。
おかしい。
私は絶対にあんな風にはバッグを置かない。
視線をソラたちの声が聞こえた方へ向ける。
シエルの姿がないが、スライムの姿が3匹。
「アイビー、拾う前にバッグを開けておいたのか?」
「開けてないですよ。そんな事したらバッグの中が冷えるので、寝ている2匹が可哀想です」
「そうだよな」
そう、なのにバッグの口は全開。
そう言えば、朝もソルはバッグにいたな。
「もしかして、ソルがバッグを開けたのかな?」
「そうかもしれないな。今度のスライムはバッグを開けるスライムか」
いなくなったら全てのバッグの中を確かめないと駄目なのかな?
それはちょっと大変そう。
後で入って良いバッグを、教えておこう。
「りゅっ!」
ポン
なんとなく聞きなれた音に視線を向ける。
フレムが楽しそうに魔石を復活させている。
ソラは剣を大量に食事中。
ソルは……ん?
「ドルイドさん、あれ、何ですか?」
「えっと。いや、さすがに俺でも分からない。あんなモノは見たことがないから」
ソラとフレムから少し離れた場所にいるソル。
そのソルの周りに黒いモヤモヤしたモノが浮かんでいる。
ちょっと不思議な光景をドルイドさんと見ていると、ソルの触手がおもむろにその黒いモヤモヤしたモノを掴み、そして食べた。
「「………………」」
あまりの衝撃な光景に一瞬言葉を失ってしまった。
が、次々に黒のモヤモヤしたモノを食べるソルを見てそれが食事だと気が付いた。
「あれがご飯?」
「みたいだな」
そうかあの黒いモヤモヤしたモノがご飯か。
ソルは空中に浮かんだ黒のモヤモヤしたモノを全て食べると、ぴょんと飛び跳ねて場所を変える。
そしてしばらくするとソルの周りにまたあの黒いモヤモヤしたモノが大量に何処からか浮かび上がる。
そして触手を使って食べ始めるソル。
「あの黒いモノって、どうやったら持って帰れると思います?」
「……瓶詰かな? って、その前にあれが何か知らないと駄目だろうな」
「やっぱりそうですよね」
とりあえず、ソルが食べられる物が捨て場にあることが分かったのでよかった。
……よかったのかな?