282話 守り神ですか?
沈黙が続く事、数分。
さすがに心配になってきたので、3人の名前を順番に呼ぶ。
「タブロー団長さん、ピス副団長さん。プリアギルマスさん!」
名前を呼ばれた順に体をビクつかせるが、とりあえず動き出してくれた。
よかった、このままでは話が進まない。
チラリと隣を見ると、随分と落ち着いたがまだ笑っているドルイドさん。
「ドルイドさん、笑いすぎ!」
「ごめん、ごめん。想像通りの反応が返ってきたからさ」
想像通り?
あの3人の反応が分かっていたっていうこと?
「アイビー、不思議そうな顔をしているけどあれは普通の反応だからな」
普通?
「あんなに驚く事かな? あっ、不意打ちだったから?」
「まぁ、それもあるけど。どう見ても強大な力を持つ魔物が、急に目の前に現れたら恐怖を感じるから」
恐怖?
少し後ろにいるサーペントさんを見る。
最初に出会った時は、確か……私も固まったな。
うん、怖いよね。
「そうですね。私も初めての時は恐怖で固まりました」
「うん。まぁ、アイビーの場合は速攻で慣れて、話しかけていたけどな」
そうだったかな?
確か、ソラたちが特に警戒をしていなかったから大丈夫だと判断したはず。
「ソラたちのお蔭ですね」
「それだけじゃなく、アイビーの性格もあると思うけど」
私の性格?
「私は慎重だと思うけど」
「いや、それは無い」
ものすごく速攻で否定された。
なんだかショック。
えっ、私って慎重派だよね?
えっ、違うの?
「アイビーさん」
自分の性格を思案していると、そっと小さな声で呼ばれる。
視線をそちらに向けると、ものすごい緊張しているタブロー団長さんたち。
「あの、そこまで緊張する必要はないですよ。サーペントさんはとても優しいので」
「あっ、はい。そうみたいですね」
3人の視線がサーペントさんの頭の上にいく。
私もそちらを見ると、ソラとシエルと黒の球体たちがサーペントさんの頭から次々と消えていく。
何をしているのか、ちょっと気になってサーペントさんの横が見えるように移動すると、滑っていた。
サーペントさんの頭から胴体に向かって、ソラたちは次々と滑って遊んでいた。
「サーペントさん、嫌だったらちゃんと拒否してね」
私の言葉に、ちょこっと頭を動かして頷く。
どうも、滑りやすい角度にしてあげているようだ。
優しいな。
でもいいのかな、もしかしたら村の守り神なのかもしれないんだよね?
「あの、サーペントさんはやはり守り神なんですか?」
ゆっくりと近づいてサーペントさんを見ていたピス副団長さんが、ちょっと頬を赤くして何度も頷く。
「この体に入ってる模様からして、間違いないと思います」
やはり守り神で間違いないのか。
チラリとソラたちに視線を向ける。
止めた方がいいかな?
でも、サーペントさんを見ると楽しそうな雰囲気。
まぁ、いいか。
本人が嫌がったら止めよう。
「まさか、こんな近くで守り神に出会えるなんて。アイビーさん、ありがとうございます」
「へっ? いやいや、私は何もしていないですからね」
なんで私にお礼を言うのだろう?
隣にいたドルイドさんを見ると……いない。
どこに行ったのか視線を彷徨わせると、勢いがつきすぎてサーペントさんから落ちてしまった黒の球体をサーペントさんの体の上に戻してあげていた。
あっ、ドルイドさんの頭の上に黒の球体が数匹乗ってる。
彼の頭は、乗ってみたくなる何かがあるのかな?
「なんだか不思議な空間に入ってしまった気分です」
タブロー団長さんが、困惑気味にサーペントさんとドルイドさん、ソラを見て最後に私を見る。
どうも私もそれに含まれているみたい。
少しだけだけど離れているのにな。
「噛んだりしないですよね?」
プリアギルマスさんの質問に『大丈夫』と頷く。
彼は恐怖で固まっていたが大丈夫とわかり、少しずつサーペントさんに近づいている。
ただ、近付くたびにサーペントさんが彼に視線を向けるので、その度に体をビクつかせてしまっている。
彼らの動きがおかしくて、ドルイドさんとピス副団長さんが口元を手で隠して笑っている。
肩が揺れているのですぐにばれると思ったが、プリアギルマスさんはそれどころではないらしい。
「さっき話した魔法陣から解放されたサーペントさんです。で、周りにいるのは子供たちです」
とりあえずサーペントさんと子供たちのことを紹介しておこう。
でも、サーペントさんの名前が分からないから残念だな。
「子供? あの黒い球体が?」
ピス副団長さんが驚いた表情をしている。
まぁ、確かにこの巨大なサーペントさんから考えると、小さすぎるよね。
しかも見た目が全く違うし。
でも、前に聞いた時に『そうだ』と頷いてくれたから間違いないはず。
「どうやってあの球体が子供だと分かったんだ?」
「サーペントさんに聞きましたけど?」
「「意思の疎通が可能なのか?」」
凄い、幼馴染だからなのか息がぴったりだ。
というか、先ほどから何度かサーペントさんとやり取りをしているのだけど、気付いていないの?
「質問したら、頷いてくれるので意思の疎通は出来ますよ」
ねっと、サーペントさんに話を振ると小さく頷いてくれる。
まだ滑って遊ぶのは継続中みたいだ。
微妙な角度になるように調整しているけど、しんどくないのかな?
「凄いな。俺が話しかけても反応してくれるだろうか?」
タブロー団長さんが私に訊いてくるけど、それは私に言われても。
なので首を傾げると、なぜか彼も首を傾げた。
「あの、直接サーペントさんに聞いたらいいのではないですか?」
「そうだな。悪い」
タブロー団長さんは、小さく深呼吸してからサーペントさんに近づく。
「初めまして、ハタウ村の自警団の団長をしているタブローです。村の守り神様で間違いないでしょうか?」
うわ~、凄く丁寧な言い方してる。
もしかして、私もサーペントさんに話しかける時は気を付けた方がいいのかな?
でも、今までの事があるから素が出ちゃいそうだな。
あれ?
サーペントさん反応しないな?
「……俺では無理なのかな?」
凄い落ち込んだ声がタブロー団長さんから聞こえた。
見ると、後ろ姿でも分かるほど落ち込んでいる。
「サーペントさんはハタウ村の守り神ではないの?」
私の質問に首を少し横に傾ける。
これって、分からないって事かな。
「あっそうか。守り神って人が勝手に付けた名称だから、サーペントさん自身がそう呼ばれている事を知らないのではないですか?」
「……勝手……」
これだったら首を横に傾げた意味が分かる。
知らないのだから聞かれても答えようがないよね。
ん?
今タブロー団長さんが何か言ったような気がする。
彼に視線を向けると、先ほどより落ち込んでいる。
な、何があったんだろう?
「そうかもしれませんね。ハタウ村の者が勝手に言い出したと言われればその通りなので」
ピス副団長さんがちょっと苦笑いした。
え~っと、なんとなく微妙な空気。
私のせいかな?
自分の話した言葉を思い出すが、どれだろう?
分からないし、諦めよう。
「サーペントさんはハタウ村では守り神って呼ばれているそうだよ」
私の言葉に小さく頷いたので、理解してくれたかな?