281話 スライムだって生みだすのに!
タブロー団長さんとピス副団長さんが紙に魔法陣を写し、プリアギルマスさんが何かのアイテムを使って作業をし始めた。
すぐに村から仲間を呼ぶと思っていたので少し驚いた。
まさか、3人だけで始めるとは。
彼らの邪魔にならない場所まで移動して、3人の様子を見ているとタブロー団長さんがこちらに来た。
「案内していただき、ありがとうございます」
「いえ。魔法陣を見て何か分かりましたか? 先ほどかなり驚いた表情をしていましたが」
えっ、そうだったの?
まったく気付かなかった。
「隠せたつもりだったのですが……。昔、守り神を捕まえようとした者たちがいたそうです。その時に考え出された魔法陣に似ているような気がして。ただ、団長として引き継がれる書類の中でしか見たことがないので、記憶に不安があり確かめる必要がありますが。正直、違ってほしいです」
あれ?
今の情報って私たちが聞いては駄目なやつではないかな?
だって、守り神を捕まえる事が出来る魔法陣に似ているのでしょう?
確かに捕まえるための魔法陣とは断言してはいないけど……。
でも、その可能性があるのに魔法陣をしっかりと見てしまったドルイドさんと私に話すのは駄目だと思う。
「タブロー団長、俺たちのこと信用し過ぎです」
あっ、ドルイドさんも同じ意見みたい。
「えっ? あっ!」
はっとした顔をするタブロー団長さん。
まったく何も考えずに話してしまったのかな?
まぁ、聞かなかった事にしたらいいから問題ないか。
「すみません、気持ちが先走ってしまったみたいで。勝手な話なのですが、今の状況を知って気になることがあったら教えてほしいと正直思っています」
どういう事?
「実は商業ギルドの元ギルマスの問題が、まだ解決していない状態なんです。そのせいで何か大きな失敗をしてしまいそうで」
確か、商業ギルドのギルマスさんが捕まったとか聞いたような気がするな。
あの問題、まだ解決していないの?
「もしかして、元ギルマスの仲間が自警団に入り込んでいる可能性があるのですか?」
「そうです。その為、下手に仲間を呼べなくて。特にこの魔法陣は、外に情報が洩れたら守り神に危険が及びます」
なるほど、だから3人で作業を始めたのか。
裏切り者がいると、仲間を信用できなくなって大変だってボロルダさんが言っていたな。
「そう言うことでしたか」
ドルイドさんが、頷く。
「すみません。迷惑をかけるとは思うのですが」
タブロー団長さんが私たち2人に向かって頭を下げる。
「協力できることがあれば協力しますよね? ドルイドさん?」
「あぁ、もちろん」
タブロー団長さんが私たちの言葉を聞いて、ふっと力が抜けたようだった。
どうやら、彼は緊張していたようだ。
丁度その時、プリアギルマスさんが彼を呼ぶ声が洞窟に響く。
「まだ少し作業に時間が掛かりますが、村へ戻りますか?」
「いや、待ってますよ。アイビーもいいかな?」
「うん」
タブロー団長さんが、プリアギルマスさんのもとへ走って行くのを見送る。
ピス副団長は、紙への書き写しが終わったのか今は違う作業をしていた。
「そうだ、ドルイドさん。スライムは消化しか出来ないと思われているのですか?」
あっ、話し方が余所行きになってしまった。
「プリアギルマスさんが言っていたことが気になって」
自警団詰所で話し合いをした時に言っていた内容が、気になって仕方なかった。
だって、フレムのように生み出す力があるスライムだっているのに。
「『普通のレア』という言い方もおかしいが、レアの中でも比較的見つけやすいスライムがいることを知っているか?」
「うん」
確か、消化能力が高いレアスライムと特殊な物を処理できるレアスライムがいたはず。
どちらも、他のレアスライムに比べると見つけやすくテイムしやすいと本に載っていた。
「今分かっているのは10種類だったかな、その全てのスライムが消化が得意なんだよ。というか消化能力しか持っていない」
10種類も捕まえやすいレアスライムがいるの?
そんなにいたのは知らなかったな。
「見つけにくいと言われているレアスライムも、そのほとんどが消化能力しか持たないからな。スライムは消化しか出来ないと思っている冒険者が最近は多くなってきているみたいだ」
そうだったのか。
まぁ、確かに消化は得意だよね。
ソラは巨大な剣をたった数分で消化してしまうし、フレムもポーションの消化ならソラといい勝負だもんね。
「スライムの中にはそれ以外の力があるモノが確かにいる。だがここ数十年、噂にもならないからな」
なるほど。
周りにいない、噂にもならないとなれば忘れ去られちゃうか。
「ぷっぷぷ~」
「えっ?」
ソラの声に視線を後ろに向けると、ど~んと目の前に巨大なサーペントさんの顔。
「うおっ」
「おっ」
ドルイドさんも気付いていなかったのか、急な事に驚いている。
私も驚きすぎて変な声が出てしまった。
じっと見てくるサーペントさん。
「ぷぷ?」
「てりゅ?」
「にゃ?」
声が聞こえたサーペントさんの頭を見ると、3匹のスライムと黒の球体がわんさか。
どうやらみんなで様子を見に来たようだ。
これは、タブロー団長さんたちに紹介した方がいいのかな?
とりあえず、本人に確認を取ろう。
「サーペントさん、ここから見えるあの3人にあなたの事を紹介しても大丈夫? 彼らは村の自警団の団長さん、副団長さん。そしてギルドマスターさんだよ」
私の言葉に、魔法陣の周辺で仕事をしている3人をじっと見る。
そして私を見て1回頷いてくれた。
「ありがとう」
そっとサーペントさんの鼻の辺りを撫でる。
スッと細められる目が何とも可愛らしい。
「アイビーは相変わらずだな」
「相変わらずってなにがですか?」
「普通、目の前に魔物がいたら少しは警戒しないか?」
警戒?
そっとサーペントさんの頭で楽しそうにしている3匹を見る。
あれを見て警戒するのは無駄だと思う。
ドルイドさんを見ると、彼も3匹を見ている。
ソラとシエルはサーペントさんの頭の上で、自由に飛び跳ねている。
黒の球体も一緒にはしゃいでいるように見えるので、かなり頭の上が賑やかだ。
フレムは、なぜか頭をちょっと齧っているように見える。
大丈夫なのかとサーペントさんを見ると、気にしていないのか私の手に鼻を擦りつけている。
気持ちいいのかな?
「フレムのあれは良いのか?」
「気にならないみたい」
「そうか。あれを見ると、警戒するだけ無駄だと感じるな」
ドルイドさんのなんだかちょっと疲れた言い方に笑ってしまう。
さて、まずはタブロー団長さんたちを呼ぼうかな。
それから自己紹介しよう。
「タブロー団長さん、サーペントさんが様子を見に来てくれたみたいです」
私の言葉に作業をしていた3人が私たちの方を見て、固まった。
それは見事に。
ピス副団長さんが持っていた紙をばさりと地面に落とす。
「大丈夫ですよ? この子とってもいい子ですし。怖くないですよ?」
そこまで固まる必要が無い事を伝えるが、なぜか動きがない。
ドルイドさんを見ると、大笑いしていた。
なんで?
活動報告へのコメント、ありがとうございます。
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