276話 あれ? おかしい?
村の門が見えてくると、中から数人の門番さんが顔を見せた。
「よかった~。雨が降っても帰ってこないから心配してたんです。大丈夫でしたか?」
「体が冷えているでしょう。温かいお茶でもどうぞ」
「よかった。心配していたんです」
次々に掛けられる言葉に少し驚く。
まさか、ここまで心配をかけているとは思わなかった。
「すみません。雨が降る直前に雨宿り出来る大きな穴を見つけることが出来たので、そこに避難してました」
ドルイドさんが頭を下げるので一緒に下げる。
「そうだったんですか。よかった」
あれ?
この女性の門番さんは、この村に来た時に対応してくれた人だ。
はいと渡された温かいお茶を受け取って、一口飲む。
体がじんわりと温かくなる。
ん~、気付かないうちにかなり冷えていたみたいだ。
そんなに森の中には、いなかったのにな。
生きかえる。
門番さんたちが休憩する場所で少し体を温めてから村に入る。
温めた体がもう一度冷えると、寒さが余計に身に染みる気がするのは気のせいかな?
「アイビー、体は大丈夫か? 問題なければ、このままギルドに行ってタブロー団長に会いたいんだが」
「大丈夫。それに、急いだ方がいいからね」
「あぁ」
ギルドに向かうため大通りを歩いていると、人の姿がちらほらあった。
興奮しているのか、声が大きく自然に話している内容が耳に入ってくる。
どうやら、雪に変わった事を喜んでいるようだ。
このままこの状態が保てればいいけどな。
ギルドに入ると、人数は少ないが任務に行く準備をしている冒険者の姿があった。
雨が降っている時は、ほとんど見かけなかった姿なので少し嬉しくなる。
「タブロー団長に会えるように依頼してくる。ここで待っててくれ」
ドルイドさんがカウンターに向かう。
ん?
どうしたんだろう、さっきからバッグがずいぶんと揺れている。
ソラかな?
「ごめんね。ギルドでタブロー団長さんに話を……?」
あれ?
何かがおかしい。
ギルド?
タブロー団長さん?
何がおかしいのだろう。
周りを見回す。
ここはギルドで、ここにはタブロー団長さんに会いにって!
「ドルイドさん、待って!」
そうだ!
ここギルドだ。
タブロー団長さんは自警団だからここじゃない!
カウンターで話をしようとしているドルイドさんの腕を引っ張る。
「どうした?」
「ちょっと話が。すみません」
カウンターの奥で驚いている表情の男性に頭を下げてから、ドルイドさんを人のいない場所に引っ張る。
何だろう、さっきから頭がずきずきする。
でも、まずはドルイドさんと話さないと。
「大丈夫か、アイビー。顔色が悪い」
「それより、ドルイドさん」
「それよりって……本当に」
「今は良いんです。あのですね、ここギルドに誰に会いに来たんですか?」
「タブロー団長だけど、どうしたんだ?」
ドルイドさんの表情を見る限り、何も疑問に思っていない。
やっぱりおかしい。
いつものドルイドさんだったら気付くはずなのに。
「ドルイドさんここはギルドです。タブロー団長は自警団です」
「ん? ギルド? 自警団?」
ドルイドさんが首を傾げる。
意味が理解できていないようだ。
どうしよう、どうしたらいいんだろう。
「あっ、痛っ」
ドルイドさんが、頭に手をやり痛みに耐える表情を見せる。
これって私と同じ症状?
「あ~、ちょっと待ってくれ整理する」
「うん」
「……やられた。あの魔法陣だ」
「魔法陣?」
サーペントさんを閉じ込めていた魔法陣?
「この頭の痛みは覚えがある。魔法陣の干渉を無理やり消した時に現れるんだよ」
「そうなんだ」
干渉を無理やり消したって事は、もう大丈夫だと思っていいのかな?
「アイビー、バッグの中に3匹がいるか確かめてくれ」
「えっ?」
「いつから干渉されていたのか分からないから」
もしかして、ソラたちを置いてきてしまった可能性があるってこと?
でも、さっきバッグが揺れたからいてくれるはず。
周りを見て、大丈夫な事を確かめてからバッグを開ける。
「……よかった。皆いる」
「「はぁ」」
ドルイドさんと同時に、大きなため息が出る。
「とりあえずは最悪の状態ではないな」
ドルイドさんの言う最悪の状態が良く分からないけど、3匹がいるなら大丈夫。
「うん」
「「…………」」
サーペントさんは本当に魔法陣から解放されたのかな?
それに、黒の球体たちは本当にいた?
駄目だ、疑問に思いだしたら止まらない。
「とりあえず、自警団の方へ行こう。これは普通じゃない」
「うん。サーペントさんは大丈夫かな?」
もしもまだ捕まっていたりしたら。
「何か変化があった事は確かな事だと思う」
「どうしてですか?」
「冒険者が雪になって喜んでいるからな」
ドルイドさんの視線を追うと、冒険者の人たちが楽しそうに雪が降っていることを話している。
そうか、雨が雪に変わった事は本当のことなんだ。
「まぁ、完全に安心はできないが」
「うん」
「行こうか」
「はい!」
ドルイドさんとギルドを出ようと歩き出す。
それにしてもよかった、ここでタブロー団長さんに会いたいなんて言わなくて。
う~、頭が痛いな。
あと少しだから、頑張ろう。
「ドルイドさん、アイビーさん?」
「えっ?」
名前を呼ばれたので、後ろを振り返るとプリアギルマスさんが心配そうな表情でこちらを見ていた。
そして、何か気まずそうな表情になる。
「あの、以前とても失礼な事を言ってしまい。すみませんでした」
以前?
えっと、何のこと?
ドルイドさんを見るが、彼も首を傾げている。
プリアギルマスさんは、私たちを見て不思議そうな表情をする。
「困った」
ドルイドさんの言葉に視線を向けると、手で顔を押さえている。
何が困ったのだろう。
「アイビー、彼は誰だっけ?」
「えっ? プリアギルマスさんですけど」
「あぁ、そうだったな」
「ドルイドさん?」
何だろう、なんだか怖い。
だって、ドルイドさんがプリアギルマスさんを忘れるとは思えない。
「プリアギルマス、失礼しました。ちょっと記憶が混乱してまして」
「いえ、大丈夫ですか? 2人とも顔色が悪いですが」
「大丈夫です。謝罪は良いですよ。もう気にしていないので。急いでいるので失礼します」
ドルイドさんはそう言いきると、私の手を取って歩き出す。
そのちょっと無理やりな態度に首を傾げる。
えっと、ドルイドさんだよね?
「ドルイドさん」
「あの魔法陣、かなり危険だ」
「えっ?」
「俺の中から少し記憶が消えている可能性がある。アイビーは大丈夫か?」
うそ!
記憶が消える?
えっと、私は……分からない
「アイビー、落ち着いて。ゆっくり考えればいいから」
ここ数日の事をゆっくりと思い出す。
特におかしな記憶はないと思う。
「大丈夫だと思うけど、分からない」
「そうか。とりあえずタブロー団長のところへ行こう」
足早に自警団を目指すため大通りに出る。
そして2人で立ち止まる。
あ~、場所が分からない。
ドルイドさんも困った表情をしている。
「アハハハ、どこだっけ?」
「笑い事じゃないけど、もう笑うしかないですよね」
どうやら私も少し記憶がないようだ。
まさかの事態に、2人でギルドの前で笑ってしまう。
とりあえず、少し落ち着いてから自警団の詰め所を探さないとな。
「2人とも、大丈夫ですか?」
プリアギルマスさんの声に驚いてそちらを見る。
どうやら私たちの様子がおかしいと感じて、追って来てくれたようだ。
「頼るか?」
「うん。色々急いだ方がいいかもしれないし」