270話 また、あった
「全部で71個で、渡せない魔石が5個だな」
キラキラ眩しい魔石が今日は5個もあった。
復活出来る魔石は選べないみたいだから、これは仕方ない事なんだろうけど。
その隣にある光るポーションを見る。
……マジックボックスがいつか2つになりそうで怖いな。
まだまだ余裕はあるけれど。
それにしても、フレムが1回に復活させる魔石の量が増えている。
復活させるたびに、フレムの体力も上がっているみたいだし。
ものすごく不思議。
前にドルイドさんと話したけど、通常のスライムにはそんな現象はないらしい。
レアスライムだけの特徴なのか、フレムだけのことなのか。
ソラもそうだけど、フレムも分からない事だらけだな。
「よし、帰りにローズさんの処に寄って、こちらの方を渡そうか?」
そう言って、レベル3以下の魔石の袋を持ち上げる。
「うん。朝も渡したのに、また持って行ったら驚くだろうね」
「そうだな」
バッグに全てを詰めて、捨て場から出る。
周りの気配を探るが、まだシエルの狩りは終わらないらしい。
「そうだ、ドルイドさん。雪が降って身動きが出来なくなったら、シエルの狩りはどうしよう」
お腹を空かせている状態は可哀想だ。
といっても、シエルが満足できる量の肉の確保は難しい。
「ん? 村のはずれに移動してシエルに壁を越えてもらうしかないだろうな」
壁を越える?
というか、えっと?
「一緒に外に出られないのは寂しいが、仕方ないよな」
「村を守る壁には、何か魔法が付与されていると聞いた覚えがあるのだけど」
村や町を守る壁には、魔法が発動するように組み込まれていると聞いたことがある。
だから誰にもばれずに、入ることも出ることも出来ないと。
でも、今のドルイドさんの言い方だと壁を越える事が出来てしまうのだろうか?
「確かに壁の上1mぐらいは防御の魔法や攻撃の魔法があるが、その上は大丈夫だ」
その上?
そんな上からシエルが出入りできるかな?
なんとなく出来る気がするけど、とりあえず帰って来たらシエルに確認だけはしておこう。
「あっ、帰ってきたよ」
森の中の大木を避けながら、駆けてくるシエルの姿が見える。
走る姿はいつみてもかっこいい。
「「おかえり」」
「にゃうん」
ざっとシエルの全身を見るが、怪我はない。
良かった。
「にゃうん」
「どうしたの?」
近付いてきたシエルの頭を優しく撫でる。
しばらく撫でていると、ごろごろと喉が微かになっている音が聞こえた。
嬉しくなって少し手に力を籠めると、ごろごろという音が大きくなった。
もしかして、ちょっと強めの力で撫でる方が好きなのかな?
「にゃ」
撫でていると、すっと顔を遠ざけるシエル。
不思議に思って見ていると、おもむろに口から魔石を吐き出した。
驚いてそれを見ていると、ドルイドさんがその魔石を拾ってじっと見つめる。
「どうしたんですか?」
「この魔石、2色だ。ほら」
ドルイドさんの手の中を覗きこむ。
確かに緑色と黄色の2色の魔石だ。
「珍しいんだよ」
「私、初めて見ました2色の魔石なんて」
こんな魔石があるんだ。
「にゃうん」
今までシエルが狩りに行っても、魔石を持って帰ってきたことはない。
ドルイドさんに聞くと、魔物は魔石も食べるそうだ。
魔石にある魔力を自分の力にするために。
「ありがとう、見せてもらえてうれしかった」
おそらく珍しいから見せてくれたのだろうと思い、色々な角度から魔石を見て満足してから、シエルに返そうとすると首を横に振られてしまった。
「えっ? 返すなってこと?」
「にゃうん」
シエルを見ると、どこか不安そうな表情で私を見つめている。
どうしてそんな表情をしているのだろう?
自分の行動を少し顧みる。
何も、悲しませる要素が思いつかない。
えっと……もしかして魔石を返そうとしたから?
「この魔石、貰ってもいいの?」
「にゃうん」
シエルの表情がパッと明るくなる。
そうか、この珍しい魔石はプレゼントだったのか。
「ありがとう、シエル」
笑顔でお礼を言うと、シエルの尻尾がバタバタと振られ風が巻き起こる。
相変わらず、シエルの尻尾は凄いな。
「シエル、ちょっと落ち着こう。それにそろそろ村に戻らないとね」
私の言葉を聞くと、すぐにスライムに変化するシエル。
「ありがとう」
帰り道、雪が降って身動きが出来なくなった時は、村の壁を越えて狩りに行けるかどうか確認した。
特に問題なく出来るようで、普通に返事を返された。
良かったけど、ここ数日の間悩んでいた私は何だったんだろう。
門に近づく前にみんなをバッグに入れる。
蓋がしっかりと閉まっているのを確認して、門番さんに挨拶をして村に入る。
ローズさんの店に向かう途中、冒険者たちが何かを見ながら喜んでいる姿が目に入った。
声が大きいので少しだけ話の内容が耳に届く。
どうやら、妹さんに子供が出来たという連絡らしい。
嬉しそうな彼らを見ていると、こっちまでうれしくなる。
「あ゛っ!」
ほっこりした気分でいると、隣から焦った声がした。
見ると、ドルイドさんが青い顔して慌てている。
「どうしたんですか?」
「連絡し忘れてた」
連絡?
何のことだろう。
「村に着いたら、父さんたちに無事に着いたと連絡してほしいって言われていたんだった」
「…………えっと、もうすでに到着して数週間……」
「………………」
「急いで連絡を入れないと」
「そうだな」
あれ?
でも連絡なんてどう取るんだろう。
手紙かな。
「この時間なら、ギルドはまだ大丈夫だな」
「届くのは数週間後ですか?」
「えっ?」
私の言葉にドルイドさんが少し驚いた表情を見せる。
どうやら間違った事を言ったようだ。
「手紙を送るんじゃないの?」
「あぁ、手紙だと思ったのか。確かに手紙だけどギルド同士には『ふぁっくす』という物があって、少し時間はかかるけど、その日のうちに届けられるマジックアイテムがあるんだ」
ファックス?
何だろう、頭に箱型の物に数字のボタンが付いた物が浮かび上がったけど。
これがファックス?
でも、これって前の私の記憶だよね?
前の私の世界にもファックスがあるって事?
なんだか、面白いな。
名前も一緒みたいで違和感を覚えないし。
「アイビー、ギルドに寄ってもいいか?」
「もちろん」
帰り道にある冒険者ギルドで、無事な事や最近の事を書いてゴトスさんに届くよう手配していた。
「あれ? 家族にじゃないの?」
「あ~、ゴトスに伝言をお願いするよ」
どうも家族に直接ファックスを送るのは、恥ずかしいみたいだ。
笑うと、こつんと頭を小突かれた。
ドルイドさんを見ると、耳が赤くなっていたのでぷっと笑ってしまった。
「あ~も~、依頼してくる」
拗ねてしまった。
戻って来るまでに、気を引き締めておこう。
それにしても、『米』『ポン酢』『ファックス』。
前の私の世界と似た名前がどんどん出てくるな。
なんだか、ちょっと怖いな。