261話 仲良し兄妹
「本当に『こめ』食べるんだよね? 嘘じゃないよね?」
「はい」
私もドルイドさんも少し困惑気味に頷くと、にやりと笑う女性。
関わった事を後悔しそうな笑みに、1歩後ろに下がって距離を開ける。
「何をしているんだ?」
後ろから声がするので振り向くと、女性に似た男性の姿。
きっと食品屋の店主さんで、女性のお兄さんだと思う。
顔立ちが良く似ている。
「いたわよ! 『こめ』を食べる人! この賭けは兄さんの負けだからね!」
えっ?
米を食べる人がいるかいないかの、賭けをしていたの?
それで勝ったからあの不気味……ちょっと引くような笑みを?
「はぁ? 俺の負け?」
「この人たちが仲間だもん!」
確かに米を食べる仲間なんだけど、どうしてだろう素直に頷いていいのか迷うな。
「嘘だろ!」
お兄さんの声が店に響き渡る。
そしてパッと私たちに視線を向けるので、思わず頷いてしまう。
「まじか……」
お兄さんがものすごい表情をするのを見て首を傾げる。
そこまで米を食べることが衝撃だろうか?
「よく分からないけど、面白い兄妹だな」
ドルイドさんが私の耳元でそっと呟く。
確かにちょっと迫力が怖いけど、2人のやり取りはとても面白い。
「アルーイ、仕込んだわけじゃないだろうな!」
「ひどい兄さん。そんな卑怯な事を私がする訳ないでしょ! 兄さんじゃあるまいし」
えっとお肉は?
「はぁ?」
「何よ、したじゃない! 忘れたとは言わせないわよ!」
「……あれは、まぁ」
仕込んだ事があるのか。
それは卑怯だ。
というかこの兄妹、そんなに頻繁に賭けをしているのかな?
ところで、私たちはそっちのけ?
「あっ、ごめんなさい。えっと、お肉だったよね」
良かった、思い出してくれたみたい。
「仲がいいんですね」
ドルイドさんの言葉に、
「「いいえ、まったく!」」
「「…………」」
仲、いいよね?
声の音の高さも、一緒だったよ?
「えっと、お肉は先ほど教えてくれた2種類を下さい」
ドルイドさんが口元を押さえて希望を伝える。
肩が微かに揺れているので、笑いだしそうなのを頑張って止めたみたいだ。
「了解。グラムは?」
「それぞれ、1キロでお願いします」
「はい。聞きたいのだけど、『こめ』に混ぜるって言っていたけど、どうやって食べているの?」
お肉を量りながら、アルーイさんが質問をしてくる。
「『こめ』を炊いて煮込んだ具と混ぜて、山型に握っておにぎりにしているんですよ」
ドルイドさんが簡単に説明をしたけれど、なじみがない人にそれで通じるのかな?
「……山型に握る? おにぎり?」
やはり少し無理があるよね。
なんて説明したら分かりやすいかな?
「それって」
「おい、アルーイ。今日はその辺にしておいた方がいい」
「なによ!」
「雨が降りそうだ。2人が風邪でも引いたらどうする?」
お兄さんの言葉に窓の外を見る。
確かにやばそうだ。
「本当だ。お兄ちゃん、この村のソースも欲しいみたいだから持って来て」
「そうなのか? 4種類あるけどどれだ?」
4種類もあるの!
「えっと、味の違いってなんですか?」
「簡単に言えば、甘さだな」
甘さなんだ。
この村の人たちって、甘い味が好きなのかな?
「一番甘さが軽いソースでお願いします」
「分かった」
お兄さんがソースを取りに行ってくれたので、もう一度外を見る。
時間から考えれば空はまだ明るいはずなのに、黒い雲に覆われて村全体が薄暗くなっている。
まだ降ってきてはいないが、時間の問題だ。
「ごめんなさいね。冒険者だよね? 宿はすぐ近く? 遠かったら雨が止むまで待っていてもいいのだけど」
「すぐそこなので、大丈夫ですよ。ありがとうございます」
お兄さんが持ってきたソースと、お肉をドルイドさんが受け取り代金を払う。
「よかったら『こめ』について話しに来てね。おねがい」
「はい。では、また来ます」
「「ありがとうございました」」
急ぎ足で宿まで歩く。
「ふ~、間に合ったな」
宿に戻りホッとすると、雨の音が外から聞こえ始めた。
本当にぎりぎりで宿に戻れたようだ。
この寒さで雨にあたったら、病気になる可能性が高いだろう。
「大丈夫でしたか?」
宿の玄関から外を見ていると、サリファさんがタオルを持って慌ててやって来る。
自由に使っていいタオルの補充の様だ。
「大丈夫ですよ。降られる前に宿に戻って来られたので」
「それは良かったわ。この冷たい雨に当たったら病気になってしまうもの。でも体は冷えたでしょう? お風呂に入って体をしっかり温めてくださいね」
「はい。ありがとうございます」
「あ~! あのね、少しお願いがあるのだけど」
「はい? なんでしょう?」
「ドラが持って来てくれた『こめ』料理でえっと何だったかしら……お肉がのった……名前が思い出せないのだけど」
「牛丼ですか?」
数日前にドラさんが興味を示してくれたので、牛丼を渡したことがある。
「そうそう、確かそんな名前! で、その作り方を私にも教えてもらえないかしら?」
「それは構いませんが、『こめ』に抵抗ないのですか?」
「少しあったのだけど、あのおいしさの前では霞んでしまったわ」
ぐっと握り拳を作ったサリファさん。
かなり、味を気に入ってもらえたようだ。
それにしても、今日はやたらと米の話題がでるな。
部屋に戻りお風呂で体を温めてから、2階の調理場を借りて明日の準備を始める。
2種類のお肉は小さ目に切って、半分を甘辛く煮て完成。
もう半分は、甘辛い味付けに薬草を足してピリッとした味の変化を付けて完成。
それにしても、醤油を数本購入しておいてよかった。
でも、このままの早さで使い続けたらあっという間に無くなってしまうな。
この町でも醤油を探そうかな。
あっ、この世界ではポン酢と呼ばれているんだった。
記憶の名前と違うから、間違いそう。
気を付けないとな。
あとは、ご飯はローズさんのところで炊くから……準備はとりあえず終了かな。
そして今日の夕飯は『オムライス』。
久々に記憶の中に浮かんだご飯。
真っ赤なお米が卵に包まれているのが美味しそうだった。
記憶の中にある食材と、この世界で手に入る食材は違うから完璧に再現することは出来ないが。
「真っ赤なお米はトーマ味みたいだから、煮詰めたトーマソースを使用したらいいかな?」
フライパンに細かく切ったお肉と野菜を入れて炒めて、煮詰めたトーマソース、そして炊いたご飯を入れて炒める。
ん? 記憶より水分が多すぎるな。
これ……卵で巻ける?
とりあえず見よう見まねで、1つ目を完成させてみるか。
……う~ん、失敗。
卵が水分で薄まって、綺麗にご飯を包んでくれない。
「どうした?」
「ちょっと失敗してしまって」
「そうか? 美味しそうだけど」
「いえ、卵で綺麗に包みたかったから」
「別に包まなくても、上にのせてもいいんじゃないか?」
確かにそうなんだけど、記憶の『オムライス』に近づけたいというか。
ちょっとした意地というか。
よし2つ目だ!
……包むのは見た目以上に難しいね。
「食べようか?」
落ち込む私の頭を軽く撫でてくれるドルイドさん。
でも、笑っているの知ってるもん!
味はトーマ味の米とふわふわの卵が美味しかった。
ただトーマ味は少し薄いと感じた。
トーマソースをもっと煮詰めて使ったらいいかな?
そうすれば余分な水分も出ないだろうし。
また挑戦しよう。




