255話 話をしよう
「本当にすみませんでした」
タブロー団長さんが、立ち上がってドルイドさんと私に深々と頭を下げている。
「もういいですよ」
「しかし、かなり失礼な態度を。本当にすみません」
赤い魔石の事は、タブロー団長さんがしっかり対応してくれることになった。
そして新しく復活させた魔石は、ローズさんから渡してもらうことで話がついた。
で、新しくお茶を入れてもらって飲んでいたら、タブロー団長さんが立ち上がって深く頭を下げて謝ってきたのだ。
「タブロー団長さん。もう謝罪は受け取りましたから。ありがとうございます」
私の言葉に、少し驚いた表情を見せた彼はようやく椅子に座ってくれた。
「あの、聞いていいですか?」
話を蒸し返すことになるが、確かめないと。
「何でしょうか?」
「どうして、今日は会った時から疑っていたのですか?」
最初に挨拶をした時は普通だった。
なのに今日は会った瞬間から既に疑われていた。
つまり数日の間に、私たちが何か疑われるような事をしたということだ。
では、それが何か?
また同じことを起こさないように知っておきたい。
「商業ギルドのギルマスが犯罪に手を染めていると言う噂が密かにあるんです。まだ俺と数名の者しか知りませんが」
「そうなのかい?」
ローズさんは、知らなかったのか驚いている。
「あの、話していいのですか? 知り合ったばかりの私たちに」
そんな重要な事をさらっと話してしまうなんて、心配だ。
「アイビー、それは自分の事を言っているのかい?」
ローズさんになぜか呆れられた。
「えっ?」
どうして?
あっ、もしかしてソラの事?
いや、タブロー団長さんの話の方が重要だよね?
「今の質問だけで、アイビーさんたちが信用に値すると分かります。それにこんな高レベルの魔石をポンと差し出す人が悪い人だったら、俺たちはお手上げです。この魔石1つでいろいろ出来るのにしないのだから」
ポンと差し出してはいないだろう。
提供は、私たちにもちゃんとお金が手に入るのだから。
それにしても魔石1つで何が出来るんだろう……何も思い浮かばないけどな。
「話を戻しますが、奴が仲間と話しているのをこちらの仲間が聞いたんです。『無断で鉱石を金に換えた裏切り者がいる。探し出せ』と」
犯罪組織にありがちな裏切りか~。
というか、また犯罪組織に巻き込まれているのなんで?
気を付けていたのに。
「そこで商業ギルドを調べたところ、高額な鉱石を匿名で売った人物がいたので調査に入りました。そこで浮かび上がったのがドルイドさんたちです」
「あの鉱石で、疑われたんですね」
「なるほどね」
ドルイドさんとお茶を飲みながら話していると、タブロー団長さんが神妙な表情でこちらを見てくる。
「えっ、それだけですか?」
「それだけとは?」
意味が分からずドルイドさんと首を傾げる。
「無断で調べてたんですよ?」
「それが自警団の仕事でしょう? それに無断で調べるのなんて当たり前ですよ」
私が言うとドルイドさんも頷いている。
「それはそうですが……はぁ、あなた方を調べていた自分が馬鹿みたいです」
「アハハハ、時間の無駄だったね。ところでタブロー、ギルマスが言っていた鉱石って、2人が売った鉱石で間違いないのかい?」
「その時は間違いないだろうと、プリアと判断しました」
プリアさん?
「プリアっていうのは冒険者ギルドのギルマスだよ。タブローの幼馴染って奴だ」
幼馴染か。
ドルイドさんとオール町のギルマスさんみたいな関係かな?
あっ、でもローズさんは嫌っているような雰囲気だったよね。
「今は判断を間違えたと思っています。言い訳になりますが、ずっと冬の対策の事でバタバタしていて寝不足が続いていて、情報も錯綜していたのでどこかで必要な情報を見落としたのだと思います」
寝不足は確かにおかしな判断をしてしまうよね。
雨が続くと寝る場所が確保できずに歩き続ける事があったけど、2日も続くとおかしな高揚感に包まれて判断力が落ちた事があったな。
……魔物の有無を調べずに住処に突撃してみたり、あの時は危なかったな~。
「そう言えば、アイビーたちが売った鉱石ってどんな物だったんだい?」
「「…………」」
売った鉱石ってあれだよね?
2人には話していいのかなっという想いでドルイドさんを見る。
彼はいつもの優しい笑顔で頷いてくれた。
「森の守り神の住処になっている洞窟で、シエルが見つけた鉱石です」
「「………………………………」」
あれ?
2人とも固まってしまった。
「大丈夫ですか?」
「……あの鉱石を売ったのがドルイドさんたちだったのか」
どうやら鉱石については知っていたようだ。
まぁ、守り神の住処にある鉱石だもんね。
この村にとってはかなり特別な物なんだろうな。
「数年ぶりに取引があったと噂になっていたけど、まさかアイビーたちが元だとは。驚きだよ」
ローズさんが既に冷えているだろうお茶を飲んで大きく息を吐き出した。
やはり相当特別な鉱石だったようだ。
売ったりしない方がよかったかな?
もう遅いけど。
「誰に対応をしてもらったんだい?」
ローズさんがお茶を淹れ直しながら訊いてくる。
先ほどからローズさんもタブロー団長さんも、よくお茶を飲むな。
「鑑定士を取りまとめるドローさんです」
ドルイドさんの言葉にタブロー団長さんが驚いた表情を見せる。
えっ、もしかして問題のある人だった?
「彼は、こちらの協力者だ」
ドローさんは協力者なのか。
不思議なところでタブロー団長さんと繋がっていたんだな。
「それだったら鉱石を売った人物を探している時に、アイビーたちの事は出なかったのかい?」
「出なかったが。あっ、そう言えば重要な話があると内密に執務室に来て、話し始めようとしたら、急にギルマスの奴がきて、話をする前に帰ってもらった事が」
「それがアイビーたちのことだったのではないのかい?」
「そうかもしれない。その後はどうも奴の仲間が俺の周りをうろうろしていて、なかなか話をする機会が持てずにいて、忙しさにも拍車が掛かって……」
いろいろと問題が重なってしまった結果、疑われることになったみたいだな。
時期が悪かったって事なんだろうな。
「それにしても、たったそれだけでドルイドさんとアイビーを疑った理由はなんだい?」
「アイビーさんの名前がちょっと」
私!
「プリアも俺も、『アイビー』という名前を犯罪関係の資料で読んで覚えていたので」
あれ、それってもしかして。
「変わった名前だし、それにちょっと色々あって覚えていたんです。ただアイビーさんはまだ幼いから、疑問はあったのです。だから今日は2人の様子を見るつもりで会うつもりでした。なのにここに来る前にギルマスの奴が、冒険者から赤の魔石を脅して提供させたと聞いてイラついてしまって。すまない、関係ないのにぶつけてしまった」
少し成長したのに、幼いって言われた。
いくつに見られているのか、そっちも気になるな。
「なるほど、私の判断も疑ったわけだ」
「少し前に、犯罪者集団に手を貸した者達が大量に出ただろう、あの時俺も含めて誰も気付けなかった。だから母さんを騙せる人物もいると思っていたし、早くその……問題がある人物なら引き離したかった。父さんから母さんが珍しく気に入っていると聞いていたから」
「ローズさんが心配だったんですね」
ドルイドさんの言葉に、タブロー団長さんの顔が真っ赤に染まる。
ローズさんを見ると、こちらもうっすら顔が赤くなっていた。
そんな2人を見ていたら、少し恥ずかしくなってきたのでお茶を飲んで一息つく。
「ごほっ、しかしアイビーと犯罪組織を勝手にくっつけるんじゃないよ」
「犯罪組織? あぁ、違う。そっちではなく功労者の一覧で」
「功労者の一覧?」
ローズさんが驚いた表情を見せる。
「えぇ『タブローやはり間違いなかった! アイビーという名は功労者の方に載っている!』功労者の方……」
誰かがいきなりお店の扉を開けて飛び込んできた。
叫んだ内容から考えて、もしかしたらプリアさんかな?