252話 大満足のフレム
フレムの魔石を復活させる姿はとても楽しそうで、正直続けさせてあげたい。
それをローズさんとドルイドさんに相談すると、今この村では赤い魔石が大量に必要なので『フレムが満足するまで復活させてもいいだろう』ということになった。
翌日、起きたばかりのフレムの前にローズさんから貰った魔力切れの魔石を置くと、眼をぱちりと開いて驚いた表情。
「お~、フレムがそんなに目を見開くのって初めてじゃないか?」
今日の夕飯の有無を伝えるために、部屋を出て行こうとしていたドルイドさんが立ち止まってフレムの表情をまじまじと観察している。
「うん」
ドルイドさんが言うように、初めて見るフレムの表情。
いつもの眠そうな表情も可愛いけど、この驚いた表情も可愛い。
彼はフレムの頭をぽんぽんと撫でると、部屋を出て行った。
「りゅ?」
その表情で体を傾げるとか可愛すぎる。
「あっ、説明しないと駄目だね。えっと、この村は赤の魔石を大量に必要としているから、この魔石を自由に使ってもいいよ。ただし、この村だけね」
大量の魔石を売っても、問題にならない肩書とかないかな?
「りゅ~、りゅっりゅりゅ~、りゅっりゅっりゅ~」
理解したのか、大興奮でプルプル揺れ出した。
その、かなりの興奮状態にソラとシエルが引いている。
正直ここまで興奮するとは思わなかったので、私も少し引いてしまった。
それにしても、これだけ興奮しているということは、やはりずっと我慢させてきたのかも。
「フレム、落ち着いて」
私の言葉に視線を向けると、目の前にいる私に向かって飛び跳ねたように見えたが、転がってきた。
フレムはうれしさを表現して、ソラがするように腕の中に飛び込んできたつもりなんだろう。
ただ大興奮ぐらいでは、フレムのどんくささはどうにもできなかったようだ。
なんとなく前より飛び跳ねる力が落ちているような気がしてならない。
まぁ、食欲も元気もあるので大丈夫だと思うが。
「フレム、自分で楽しめる範囲で復活させてくれたらいいからね。頑張って高レベルの魔石にしても要らないから。提供できないし。無理は禁物」
「てっりゅりゅ~」
まだまだ興奮状態が落ち着かない。
大丈夫かな?
ドルイドさんが部屋に戻ってくると、手に手紙を持っていた。
「アイビー。ローズさんから、明日のお昼からお店に来てほしいと連絡が届いたよ」
「了解! 思ったより早かったね」
忙しい団長さんだから1週間ぐらいかかるかもしれないとドルイドさんが言っていた。
なのにローズさんに話してから2日後だ。
「ローズさんが無理を言っていないといいがな」
それはあり得そう。
まぁ、赤の魔石の提供の事なので悪い話ではないからいいけど。
ローズさんの息子さんだから、大丈夫だとは思うけどちょっと不安だな。
「さっき、気付いたんだが」
「はい?」
「提供すると決定している魔石のレベルを、俺たちが知る必要は無いよな」
「……そうですね」
確かにレベルに関係なく提供することは、ドルイドさんと話をして決まっている。
ローズさんがレベル1もしくは2の高レベルの魔石は止めてほしいと言うので、透明度の高い魔石はレベルは分からないが除外する予定。
それ以外なので、おそらく大丈夫のはずだ……きっと。
「それに、今日の朝方に両ギルドから非常時宣言が発表されたからな。これが出た以上、魔石の値段は4種類ぐらいに分けられるはずだ」
「非常時宣言が出たの?」
「あぁ、確認したところ魔石の提供を呼び掛けていたよ。やはり相当足りないみたいだ」
気象関係で出される非常時宣言。
確か、命に関わる異常気象が予測される時に出される宣言で……なんだっけ?
「何か制限があったりしたっけ?」
経験したことがないから、わからないな。
「制限は今のところなかったが、これから外出などに掛かってくる可能性があるな。あと俺たちに関わってくるとしたら、赤の魔石、暖房アイテム、それと各ポーションの提供かな」
「ポーションは無理ですね」
ポーションの提供は無理だろうな。
ボックスを見る、中にあるポーションを思い出して諦めた。
「あと、魔石の値段が4種類って何?」
「いつもだったら提供する魔石にそれぞれ個別に金額が付く。提供の場合は通常の価格の60%での買い取りだ。だが、非常時宣言が出ている場合、他の村での分け方なんだが、レベル1から4、5から6、7から8、9から10と4種類に分けられて、それぞれ金額が決まっていたんだ。個別での判断はしない。この村でもおそらく同じだと思う」
「そうなんだ」
「ところでアイビー」
「…………うん」
ドルイドさんの視線を追うと、魔石を復活させ続けているフレム。
楽しめる範囲でと言ってあるので、問題はないだろう。
それにしても楽しそうだ。
その雰囲気につられてソラとシエルも楽しそうに、復活した魔石を転がして遊んでいる。
「……あれは、良いのか?」
「えっと……」
ソラとシエルが遊んでいる魔石。
2匹は、先ほどの話を理解して必要とされている魔石には手を出さないようにしてくれたのだろう。
つまり提供できない魔石で遊んでいるのだが……。
2匹の間を行ったり来たりしているキラキラと光り輝く魔石。
他の人が見たら目を疑う光景だろうな。
「あれは提供しない魔石なので」
ドルイドさんは苦笑いを浮かべる。
「確かにな。あっ、増えた」
ソラとシエルの間の、キラキラした魔石が1個から2個に増えている。
2個に増えても器用に相手に向かって転がす2匹。
……楽しそうだし、この部屋にはドルイドさんと私しかいない。
なので大丈夫ということにしておこう。
「そう言えば、高レベルの魔石は提供できないよと言っておいたんですが、もしかしたらフレム自身では調整は出来ないんでしょうか?」
「その可能性は、あるかもしれないな」
調整できないなら、復活は程々にしてもらわないと大変なことになるよね。
高レベルの魔石が増えるのはちょっと遠慮したい。
マジックボックスが埋まるだけと言われれば、そうなんだけど。
「りゅ~!」
フレムが満足そうに鳴いた。
見ると、ようやく満足したのか魔石の復活作業が止まっていた。
フレムの周りを見渡す。
なんだか転がっている魔石の数が、今までより一段と多い気がするけど気のせいかな?
「フレム、また今日は多いな。全部で28個。透明度が高いのは3個だ」
「てっりゅりゅ~」
「楽しかったか?」
「りゅ~!」
ドルイドさんの言葉に大きな一声。
部屋に音の遮断アイテムを施しておいてよかった。
「りゅ~……」
今まで元気で機嫌がよかったフレムの声が、何故か一気にしぼんだ声になる。
フレムを見ると、眠そうな表情で大きな欠伸を数回繰り返している。
「フレム、頑張りすぎ。でもありがとう」
大きな欠伸をしたと思ったら、そのままコテンと顔を前に倒して寝だした。
「急だな」
ドルイドさんの言葉に、苦笑が浮かぶ。
転がっていた魔石を1つの袋に入れていく。
「明日、団長さんに渡す魔石が出来ましたね」
「まぁ、少し様子を見て判断だな」
そうなの?
ローズさんの息子さんだから、問題ないと思っていたけど。
「アイビー、信用しすぎるとローズさんに怒られるぞ」
考えが読まれてしまった。
「アハハハ、でもローズさんの息子さんだし」
「それを正直に言ったら、間違いなく説教だな」
確かに、ローズさんの前で項垂れている自分が想像できてしまう。
「ちゃんと人となりを確かめてからですね。はい」
ソラにお願いして助けてもらおう。