251話 可愛いでしょ!
「それにしても、この子たち可愛いね」
ローズさんが目の前にいる3匹を見て順番に頭を撫でていく。
それに嬉しそうにプルプル揺れるソラ、シエル、フレム。
「とっても、可愛いんですよ!」
ローズさんの言葉がうれしくて、ちょっと上擦った声が出てしまった。
可愛くて大切な仲間を、本気で心配してくれる人に紹介できるのはうれしい。
本当は多くの人にソラたちを自慢したいけど、それは出来ないから。
「ふふふ、アイビーはこの子たちが大好きなんだね」
「はい。とっても」
私の表情はかなり緩んでいるだろう。
鏡を見なくてもなんとなく分かるぐらい、気分がいい。
「そうだ、いつ息子を紹介したらいいんだい?」
「団長の時間が空いた時でいいですよ。こちらは時間に余裕がありますから」
「そうかい? 悪いね」
フレムが机の上を移動して、私に向かって伸びる。
初めての態度に少し戸惑うが、抱き上げて膝の上にのせるとじっと見つめてくる。
フレムを見ながら首を傾げる。
「どうしたの?」
「てりゅ~」
何かを訴えている気がする。
だけど、理解が……いろいろフレムが求めている事を考えてみる。
「眠いの?」
反応してくれないので違うらしい。
では、何だろう?
駄目だ、考えても分からない。
「ごめんね、えっと何か助言があると分かるかもしれないんだけど」
フレムの視線が、くるっと後ろにある机の方へ向く。
黒い板?
フレムの顔を体を横に倒して覗き込む。
ん?
「魔石?」
黒い板ではなく魔石の方かな?
フレムと言えば魔石とポーションだし。
「てっりゅりゅ~」
私の言葉に上機嫌になったフレム。
良かった、魔石で正解だったみたい。
もしかして、
「フレム、赤の魔石を作りたいの?」
「りゅっりゅりゅ~」
どうやら正解のようだ、膝の上で伸び伸びと喜びを表現している。
「魔石を作ってくれるのかい?」
ローズさんがフレムに確かめる。
「りゅ~」
それに元気な声で答えるフレム。
なんだかいつもよりやる気がみなぎっているな。
「でもフレム。ここには使い切った魔石はないから。明日捨て場で拾ってくるよ」
「てりゅ~」
そんなあからさまに機嫌を下げなくても。
「灰色の石みたいになった魔石ならあるよ。あれでいいのかな?」
ローズさんの言葉に、フレムの機嫌が一気に戻る。
本当に今日のフレムは、いつもと違いすぎる。
ドルイドさんもちょっと驚いてフレムを見ている。
「フレム、大丈夫か?」
「どうでしょう? 後で疲れ果てないといいのだけど」
元気な事はうれしいが、後で疲れ果ててしまったら可哀想だ。
気を付けて見ておかないとな。
ローズさんが奥の部屋に戻って、しばらくすると少し大き目の巾着袋を持って戻って来た。
机の上に置かれる、重たそうな袋。
紐を緩めて、袋を開けると大量にある灰色の石。
何も知らなければ、道端に転がっていそうな石が詰め込まれただけの特に価値のない袋に見えるだろう。
「凄い量ですね」
「アイテムを整備して試しに動かすには魔石が必要になるからね。捨て忘れていたから、かなり溜まっていたようだ」
なるほどと周りを見る。
これだけのアイテムを試しに動かすだけでも、かなりの魔石が必要だろうな。
「てりゅ~」
フレムは机の上に置かれた灰色の石を凝視。
そして嬉しそうにぴょんと私の膝の上で飛び跳ねた。
その高さ、10㎝ほど。
あまりのジャンプの低さに、よく見ていないと気付かないぐらいだ。
フレムを袋の近くに置いてあげる。
「好きなだけどうぞ」
ローズさんの言葉に、フレムがプルプルと揺れる。
そして、袋の中のごく普通の石にしか見えない魔石をぱくりと飲み込む。
「りゅっりゅ~、りゅ~、りゅ~」
フレムの体内に入った魔石は泡に包まれて、見えなくなる。
そしてフレムの鳴き声。
ただし、その声はそれほど大きくなく近づかないと分からないほどだ。
「りゅっ!……ポン」
なんとも軽い音が聞こえて、フレムの口から赤い綺麗な魔石が飛び出す。
「こんなに早いのかい。しかも随分とまた綺麗な魔石だね」
「りゅっりゅ~、りゅ~、りゅ~」
フレムはすぐに次の魔石を飲み込んで、プルプルと震える。
様子を見るとじっと目を閉じて、嬉しそう。
「りゅっ!……ポン」
2つ目完了。
プルプルと楽しそうに揺れて、次のを咥えるフレム。
「楽しそうだな」
ドルイドさんがフレムから飛び出した魔石を手に取って、先に復活した魔石の隣に置く。
「うん、魔石を作るの、好きだったのかな?」
好きな事を我慢させていたのなら可哀想だ。
「りゅっりゅ~、りゅ~、りゅ~」
それにしても、並んだ赤い魔石を見る。
相変わらず、透明感のある綺麗な魔石だ。
「それも綺麗だね。こんな透明感の魔石って久々に見たよ。ここ数年は洞窟で取れる魔石もレベルが下がってきていたからね」
「りゅっ!……ポン」
「そうなんですか?」
ドルイドさんが3個目の赤い魔石を、前の2個と並べるように置く。
「りゅっりゅ~、りゅ~、りゅ~」
ソラとシエルが大人しい事に気が付いたので周りを見る。
あれ、いない?
「アイビー、ここ」
ドルイドさんの指の指す方向を見ると、彼の頭の上にソラ、肩の上にシエル。
「重くないですか?」
「ちょっとな。でも問題ある重さではないよ」
それにしてもなぜ其処なんだろう?
「りゅっ!……ポン」
4個目は少し小ぶりで3個に並べると少し濁りが強い。
「りゅっりゅ~、りゅ~、りゅ~」
「アイビー、フレムは大丈夫なのかい? こんなに魔石を作り出してしまって」
ローズさんが心配そうにフレムを見ている。
大丈夫とは何のことだろう。
「えっと、何がですか?」
「魔石を復活させるには相当な魔力が必要となる。こんなに連続で復活させてしまったら魔力切れにならないかい?」
「りゅっりゅ~、りゅ~、りゅ~」
魔力切れ?
言われて見れば、魔石の復活には相当な魔力が必要だよね。
「フレムがあまりにも当たり前みたいに20個とか復活させてるから、魔力の事を心配した事なかったな」
「りゅっ!……ポン」
「うん。でも、20個以上復活させた時も魔力切れは起こさなかったよね?」
「あぁ、問題なかったな」
「それは凄いね。アイビーは相当な魔力の持ち主なのかい?」
「「はっ?」」
あっ、ドルイドさんと声が重なった。
私が魔力が底辺だって知っているもんね。
「りゅっりゅ~、りゅ~、りゅ~」
「なぜですか?」
「だって、テイマーによってテイムした魔物の魔力は変わるだろう?」
「そうなんですか?」
「あっ、そう言えばそうだった」
思い出したのか、ドルイドさんがポンと手で膝を叩いた。
「りゅっ!……ポン」
でも、その情報は誤りではないだろうか?
私がここにいる以上説明がつかない。
「あの、私は……」
ローズさんだったら大丈夫。
ドルイドさんの頭の上に乗っているソラをちらりと見ると、私をじっと見ているソラと視線が合う。
そしてプルプルと嬉しそうに揺れる。
それに力を貰って、
「星なしなので魔力は多くないですし、強くないです」
「りゅっりゅ~、りゅ~、りゅ~」
「えっ!」
あっ、今日一番の驚き方だ。
ちょっとそれがうれしい。
「アイビー、そんな事をぽんぽんいうモノじゃないよ! 悪用されたらどうするの!」
嬉しかったけど、本気で怒られた。
眉間に皺を寄せて、ちょっと……いや、かなり怖いです。
「ぽんぽんということはないです。ローズさんは信用できると思いました、だから問題ないです」
怖いけど、ローズさんだからです。
そんなだれかれ構わず信用しません!
「りゅっ!……ポン」
「はぁ~、しかし星なしだったのかい?」
「はい」
「そうか………………アダンダラって実は相当弱い魔物なのかい?」
「りゅっりゅ~、りゅ~、りゅ~」
シエルが疑われてしまった。
急いでシエルをテイムした経緯を話す。
「何と言うか、アイビーの周りは凄い子たちの集まりなんだね」
「りゅっ!……ポン」
「あっ、アイビー、フレムが落ちた」
「えっ? あぁ、やっぱり張り切り過ぎたから」
机の上には、突っ伏して寝ているフレム。
そしてその横にはフレムが復活させた魔石がドルイドさんの手によって綺麗に並べられている。
全部で18個。
話す間も音は聞こえていたけど、聞こえていた以上の魔石が復活している。
「あ~、それは」
並んだ魔石の中でもひときわ目を引く魔石。
他の魔石と明らかに違う透明度。
「なんだい、これ」
ローズさんが手に持ってしみじみ見回している。
「おそらくレベル1か2の魔石ですね」
「レベル1か2? 初めて見るねそんなレベルの魔石は」
ローズさんは感心して、そっと机に魔石を戻した。
「さすがにそれを提供したら、騒がれるぞ」
さすがにこれは駄目らしい、残念。