250話 紹介
「えっと、私はテイマーだと先日言ったのですが」
他人に自分のことや仲間の事を話すのは緊張する。
「言えることだけでいいよ。アイビーはどうも、正直すぎる」
「えっ?」
「冒険者や旅人には、少しぐらいあざとさが必要なんだよ」
あざとさ?
「自分が有利になるように、少しくらい貪欲になってもいいってこと。酷いのは駄目だけどね」
……えっと。
ドルイドさんを見ると、苦笑いを浮かべられた。
これって彼もそう思っているということかな?
「だから、全てを正直に話す必要は無いよ。言っただろう? 私は人を見る目があると信じていると、そして楽しい事が好きだって」
ん~、つまり、私を信じてくれているから細かい説明は要らないって事かな?
楽しい事が好きというのは……分からない。
難しいよ。
「で、鑑定系のアイテムが欲しい理由は?」
……あざといって良く分からない。
余計に説明が難しくなった。
「ローズさん、アイビーが考え込んでしまって逆効果です」
考え込んではいないと思うけど。
「そうみたいだね。もっと気軽に考えてって意味もあったんだけど」
気軽に、気軽に。
「鑑定系アイテムが欲しい理由は、魔石を復活させるスライムをテイムしていて。えっと、提供するにはレベルを知る必要があったからです」
これで、伝わるのかな?
間違った事は言っていないから大丈夫だよね?
ローズさんを見ると、何とも言えない表情をしていた。
あれ? 間違えた?
「とりあえず了解した。つまりレベルの分からない魔石があるから調べたいんだね」
「そうです!」
良かったちゃんと伝わっている。
「2人の間に大きな溝がありますよね?」
ドルイドさんの言葉に首を傾げる。
溝ってどんな?
「アイビーは可愛いね。これから悪い男には気を付けるんだよ」
えっと、何処からそんな話になったんだろう?
「大丈夫です。近づく男にはしっかり目を光らせますから」
ドルイドさん、ちょっと怖いです。
それに、なんでそんな話になっているの?
「えっと、仲間を紹介していいですか?」
皆と顔合わせしておいた方がいいよね。
協力してもらうんだし。
「本当に良い子だね」
ローズさんが、ものすごい暖かな視線を向けてくる。
その視線はなんだか背中がムズムズする。
恥ずかしいと言うか、照れくさいと言うか。
「アイビー」
声に視線を向けると、笑いを耐えているドルイドさん。
「ローズさんは、レベルの分からない魔石を持っている理由は言う必要ないって言いたかったんだよ」
「えっ?」
でも、ギルドで調べられない魔石を持っているなんて、疑われるだけだと思うけど。
「『提供したい魔石があるけれど、レベルが分からないから、レベルを調べたかった』とだけ言えばよかったんだよ」
「それだけ?」
ローズさんに急いで視線を向けると、笑っていた。
「ギルドで簡単に調べられる魔石を、個人で調べたいなんてあまり聞かないからね。魔石を持った経緯に何か理由があるんだろうとは分かる。でも、アイビーやドルイドさんの態度などを見ていると、悪人には見えない。私はそれを信じると決めたから、持っている経緯なんてどうでもよかったんだよ」
そうなんだ。
「ローズさんって、かっこいいですね」
考える前に、頭に浮かんだ言葉が口から出る。
それを聞いたローズさんは、大きな声で笑い出した。
「うれしい言葉だね」
「あの、私はローズさんに仲間を紹介したいです。皆、良い子なので」
お願い事とか全て抜きにして、ソラたちにローズさんを紹介したい。
そしてローズさんにソラたちを知ってもらいたい。
「ありがとう。ただし約束」
「はい」
ローズさんの真剣な表情にスッと背を伸ばす。
「人を信じすぎないこと。私なんてまだどんな人間かなんて理解できていないだろう? なのに魔石を復活させられるレアスライムをテイムしているなんて。襲われたらどうするんだい? しかも簡単に紹介しようとするなんて、奪われてしまったら悲しいだろ? いいかい? 『人は疑ってかかれ』これは重要だからね」
あれ?
何処かで似たような事を言われたような。
何処だっけ?
あれは……師匠さんの言葉だ。
そう、師匠さんにも似たような事を言われた。
「あの、ローズさんに話したのは間違いではないです。仲間とも相談して大丈夫と判断しました」
そんな説教をしてくれる人が、悪い人なわけない。
私はそう判断する。
「アイビーの気持ちは凄くうれしいよ。でも、不安が残るね~。アイビー、笑って近づく人間こそ注意が必要だからね!」
「はい、でも私のテイムしたソラというスライムは人を判断出来る能力のある子でして」
「アイビー、言っている傍から!」
「でも、ソラはローズさんのこと大丈夫って」
さっきから紹介してほしいのか振動が激しくなってバッグから出ようとしているし。
「はぁ、そう言ってくれるのは本当にうれしいんだよ。でもね~」
ローズさんが何だか疲れた表情でドルイドさんに視線を向けると、ドルイドさんが噴き出した。
「とりあえず、皆をバッグから出しますね」
バッグからソラとシエル、それにフレムを出す。
「ぷっぷぷ~」
「にゃうん」
「てっりゅりゅ~」
3匹が机の上で、それぞれローズさんに挨拶する。
「何と言うか、アイビーのテイムしたスライムって感じだね」
どう言う印象なんだろう?
3匹を見るけど、特におかしなところはない。
いつも通りだ。
「とりあえず、お茶でも飲んで落ち着きましょう」
ドルイドさんが場を収めてくれたので、椅子に座ってお茶を飲む。
それからソラのこと、シエルのこと、フレムのことを説明していく。
ポーションを作れると言うと、ローズさんはかなり驚いていた。
色々な経験をしているローズさんを驚かせるって、やはりすごいことなんだな。
もう1つ、シエルは本来の姿がアダンダラなんですと説明すると、シエルを見て首を傾げている。
「アダンダラがどうしてスライムに」
「変化する能力がある魔石をフレムが作ってくれて、それでその大きさに」
ローズさんは、私の頭に手を伸ばして優しく撫でてくれる。
「話してくれてありがとう」
その言葉にホッと体の力が抜ける。
大丈夫と分かっていても、仲間の紹介は緊張するな。
「よし! 話を進めるかい」
「はい」
「アイビー達は『極秘に魔石のレベルを調べたい』ということでいいんだね?」
「そうです。誰かいますか?」
調べるとなると鑑定スキルを持った人物となる。
ローズさんを見ると、複雑な表情をして首を横に振った。
「そうですか」
「この村は洞窟から色々な魔石が採れていたから、鑑定スキル持ちは他の町や村より多いと思う。だが全員がギルドに登録していたはずだ。旅をしている鑑定士はちょっと信用できないしな」
そうなんだ。
「あのローズさん、お願いがあるのですが」
ドルイドさんが真剣にローズさんを見つめる。
それに頷いて先を進める彼女の目も真剣だ。
「自警団の団長、息子さんを紹介していただけませんか?」
そういえば、ドルイドさんの目的はそれだったな。
「それは構わないけど、ギルマスの方がいいのでは?」
紹介してくれるんだ。
そんな簡単でいいのかな?
でも、ギルマスの方がいいってどういう事だろう?
「ギルマスの方が魔石の扱いは上手いだろう。元々扱っているのだから」
「そうなんですが、知らないので」
「紹介してやろうか?」
「確かに魅力的ですが、噂で商業ギルドと冒険者ギルドのトップが仲が悪いと聞きまして。俺たちは商業ギルドの方に知り合いがいるので、冒険者ギルドのギルマスの紹介は少し遠慮したいですね」
「なるほど」
えっ!
両ギルドのトップって仲が悪いの?
そんな村があるんだ。
「分かった、息子を紹介しよう。あれならレベルを調べられる奴が知り合いにいるだろう」
なんとか話はまとまったみたいだ。
良かった。