249話 厄介なアイテム
太陽が出ている時は少しだけ寒さが緩和する。
その時をねらって、ローズさんのお店に向かう。
「いらっしゃい」
「失礼します」
「おや? まだ何か必要な物でもあったのかい?」
連日訪れる私たちに不思議そうなローズさん。
それに苦笑いで答える。
「ちょっと、どうしても欲しいアイテムができてしまって」
「なんだい?」
「魔石のレベルを調べられるアイテムは、ありませんか?」
ローズさんが驚いて目を見開く。
「魔石のレベル? ギルドに行けば簡単に調べてもらえるだろう」
その通りなんだけど、やはり駄目かな?
「少し個人的に調べたいのです。ありませんか?」
ドルイドさんがにこりと笑い説明しているが、ローズさんの眉がちょっと上がった。
これは疑われている?
「……犯罪関係ではないね?」
「もちろんです」
ローズさんとドルイドさんを交互に見る。
二人とも真剣に向き合っている。
異様な緊張感があって、心臓がドキドキとうるさい。
「ふ~、まぁいいだろう」
「ありがとうございます。で、ありますか?」
「ある事はある。だが、鑑定スキルのように細かいところまでは分からないよ、それに問題がある」
問題?
「見せてもらえますか?」
「あぁ、少しお待ち」
ローズさんが奥の部屋に行くのを見送ると、ドルイドさんがため息をつく。
「緊張した~」
「お疲れ様です」
そういえば、アイテムの機能を読み取るマジックアイテムがあるけれど、あれで魔石のレベルは見られないのかな?
「あの、これでは魔石のレベルは見られないのですか?」
近くにあった、機能を読み取るマジックアイテムを手に取る。
「それでは魔石のレベルは調べられないんだ。それに出来たとしても俺たちでは買えないぞ」
「買えない?」
「そのマジックアイテムは試験を受けて資格を取った者で、なおかつアイテムを売っている店を持っている者だけに所持が許されているんだよ」
「試験? 資格?」
「アイテムの中には、扱い方によっては危険なものもある。だから知識が必要となるんだが、しっかり管理しないとその知識に偏りが出来るだろう?」
確かに。
「その為、ある一定以上の知識を全員が持っていることを調べるための試験がある。確か5回落ちると、一生資格は貰えないんじゃなかったかな」
凄く厳しい世界だな。
そういえば試験と聞いた瞬間、凄い拒否感を感じた。
私は試験というモノが大変とは理解しているけど、実際にどんなモノか分かっていない。
たぶん、前の私の感覚がよみがえったんだろうな。
最近は静かだったから、ちょっと驚いた。
「待たせたな。これだ」
ローズさんが手に黒い板を持って戻ってくる。
「これなんだが、魔石を置くとレベルが表示されるはずだ。たぶんな」
いつも自信のあるローズさんなのに、このアイテムの説明は少しいつもと違う。
不思議に思いつつ黒い板を見ていると、ローズさんが魔石を1つその黒い板に載せた。
レベルが表示されるのを待つが、変化が無い。
「「?」」
「あ~、駄目か」
「えっ?」
ローズさんの言葉に視線を向けると、眉間に深い皺。
「どう言う事ですか?」
「見ての通りだよ。この鑑定スキル系のアイテムは本当に厄介なんだ」
「壊れやすいという事ですか?」
「いや、これは壊れているわけではない。ただ、反応しないだけだ」
壊れていないのに反応しない?
えっと、それは壊れていると言うのでは?
「このアイテムは気分屋で、動く時と動かない時があるんだよ。原因は不明。私も色々調べているが、まったく分からない」
ローズさんが、黒い板に載っている魔石を他の魔石に替える。
が、無反応。
何度か違う魔石を使用して調べてくれているが、反応はない。
やっぱり壊れているのでは?
「ここまで反応がないと、壊れていると思われそうだね」
ちょっと視線が彷徨ってしまった。
「それにしても、今日はまた本当に反応しないね~」
ローズさんが大きなため息をついた。
「とりあえず、これが魔石のレベルを調べるアイテムだよ。私からしたらお薦めできないアイテムの代表さ」
ドルイドさんと視線を交わす。
確かにこれでは役に立たない。
全部調べ終わるのにどれだけの時間がかかるか分かったものではない。
……本当に動くのかも不安だし。
「ローズさんの言うとおりだね。これはちょっと」
「そうだな。無理だな」
「すみません、ローズさん。せっかく出していただいたのに」
私が謝ると、ニヤッと笑って頭をちょっと強い力で撫でられる。
「気にする必要はないよ。それよりどうしてこんなモノを欲しがったんだい? ギルドに立ち入り禁止にでもなっているのかい?」
「いえ、それはないです」
「だったら問題ないだろう。魔石のレベルを調べるならギルドが一番だよ」
確かにそれは分かっている。
でも、調べる魔石の方に問題が……。
ん~どうしようかな。
「アイビー」
「はい?」
ドルイドさんを見ると、何か真剣に考えているようで表情が険しい。
「どうしたのですか?」
その表情を見て、少し気持ちを引き締める。
「ローズさんに相談をしてみないか? 顔が広そうだし、それに俺たちの事を信用してくれた」
そういえば、さっき詳しい話を何もしていないのに信じてくれた。
ローズさんを見ると、肩をすくめた。
そして、黒い板の周りに転がっている魔石を板に載せては降ろすを繰り返している。
どうやらローズさんはまだ諦めていないようだ。
「そうですね。それに今のドルイドさんの言葉に反応しましたから。話していい、皆?」
肩から提げているバッグが、振動を伝えてきた。
それに笑ってしまう。
いつもより振動が大きい。
私達の会話を聞いていたローズさんが首を傾げている。
周りから見たら意味が分からないのは当たり前だろうな。
「えっと、ちょっと内緒の話がありまして」
「それを聞いた上で協力をしていただけるか判断してほしいのですが」
ドルイドさんと私の顔を見て、ローズさんは笑って頷いてくれた。
「ちょっと待ってな、店を閉めるから」
「えっ、いいのですか?」
「誰かに聞かれるのは嫌なんだろう? それに話の途中で邪魔が入るのは、私が嫌だね」
えっと、良いのかな?
ドルイドさんを見ると『俺たちでは止められないな』と苦笑を浮かべた。
確かに無理だ。
お店を閉めている彼女の顔が、ものすごく楽しそうだから。
「よし! あとは音を遮断しておくか」
さすがアイテムには精通しているだけあって、あっという間に準備が整った。
「で、私は何を協力すればいいんだい?」
「話を聞いてからの判断でいいのですが?」
「私は楽しそうな事が好きだからね」
そんな感じでいいのだろうか?
何かに巻き込まれて大変な目に遭ったりしないのかな?
「アイビー、そう心配そうな顔をしなくても大丈夫だよ。色々な人間を見てきたからね、人を見る目は肥えているさ」
「はぁ」
ローズさんに勧められてドルイドさんと並んで椅子に座る。
前の席は彼女なのだが、机の上には黒い板と魔石。
まだ、諦めていないようだ。
「あっ、出たよ!」
「「えっ!」」
黒い板が淡く光るとローズさんが嬉しそうな表情を浮かべた。
しばらくすると黒い板には『魔法強化? 赤の魔石 レベル 7~8』と表示されていた。
壊れていなかったのか。
それにしても何とも微妙な説明だな。
「相変わらず煮え切らない説明だよね」
ローズさんの言葉に笑ってしまう。
確かに火魔法の強化とは説明していないし、レベル7~8って随分大雑把だな。
魔石ってレベルが1つ違うだけでかなり溜まっている魔力量が違うって聞いたけど。
「これではちょっと無理だな」
ドルイドさんも、表示された説明に首を横に振った。
「言っておくが、このアイテムはまだレベルの高い方だからな。この下のアイテムなんてもっと大雑把だ」
アイテムって奥が深いな。
色々な意味で。