247話 フレムのよだれ問題
宿に戻ると、じんわりと体に染み込む暖かさ。
その暖かさに寒さで固まっていた体がゆっくりとほぐれていく。
「おかえりなさい」
2階に上がろうと階段に足をかけると、後ろから声が掛かる。
「ただいま戻りました……えっ!」
振り向くと、全身が濡れているサリファさん。
「どうしたのですか?」
ドルイドさんが、玄関横に置いてあるタオルを急いで取ってきて彼女に渡す。
このタオルは、宿に泊まっている者ならだれでも使っていいと聞いている。
「えへっ、ちょっとお風呂場で転んじゃって」
恥ずかしそうに笑っているが、大丈夫なのか心配になる。
「大丈夫ですか? 怪我とかしてませんか?」
「アイビーさんは優しいわね。大丈夫よ、よくある事だし。転び方には自信があるわ」
えっと、転び方に自信?
「それよりも! 寒かったでしょう。お風呂は何時でも使えますからね」
「ありがとうございます。でもまずはサリファさんが入ってください。風邪ひきますよ」
「大丈夫よ」
「駄目です。ドラさんが心配しますよ」
「確かに心配かけちゃいそうね。分かった、お風呂に入るわ。あっ、ドルイドさんとアイビーさん。今日も夕飯は別だったわよね?」
「はい。それが何か?」
ドルイドさんが不思議そうに首を傾げる。
「ちょっと皆さんに話が有って、今日の夕飯の時にしようかと思っていたのですけれど」
全員に話?
「それでしたら、話をする時間に食堂に行きますよ」
「お願いできるかしら?」
「はい。アイビーもいい?」
「もちろん」
皆がいる時という事は、何か重要なことだろう。
私達にも関係しているのだから、協力は当たり前。
時間を聞いてから部屋に戻る。
ソラたちをバッグから出して、ローズさんのところで購入したバッグを取り出す。
「ぷっぷぷ~」
「にゃうん」
「てっりゅりゅ~」
どうやら話を聞いていたようで、新しいバッグに興味津々だ。
「寒くても、このバッグなら暖かく過ごせるよ。外に出るとバッグの中も寒かったでしょ」
「ぷ~」
私の言葉に、プルプルといつもより小刻みに揺れるソラ。
寒くて震えているという事かな?
もしそうなら、このバッグを購入して正解だな。
「先にお風呂に行こうか?」
「うん! あっ、でもその前にソラたちの体を拭いちゃいますね」
タオルをお湯で濡らしに行こうとすると、ドルイドさんに止められる。
「今日は外で遊ばせていないし、綺麗じゃないか?」
「いえ、あの」
「何?」
「フレムのよだれが皆に……」
「ぷ~!」
「にゃ!」
「…………てりゅ」
毎回思うけど、フレムの口はもう少ししまりが良くならないかな?
バッグに皆を入れていると、全員に被害が出てしまう。
「なるほど。俺が拭くよ」
「ありがとう」
濡らしたタオルをドルイドさんに渡して、私は使っていたバッグを整理する。
フレムのよだれを吸ったタオルを、洗い物を入れてあるカゴにいれ、バッグの内側を丁寧に拭いて干しておく。
新しいバッグの暖房アイテムの上によだれ対策のタオルを敷く。
「よし」
「こっちも終わったよ」
3匹を拭いたタオルを洗い物のカゴにいれるドルイドさん。
「ありがとう。バッグの準備も完了です」
「じゃ、風呂な。3匹は大人しくな。音は防いでいるけど、誰かが部屋に入って来たらすぐに隠れろよ」
「ぷっぷぷ~」
「にゃうん」
「てりゅ」
いつもと違う短い挨拶をしたフレムを見る。
じっと見ると、ちょっとふてくされているような雰囲気。
もしかしてよだれの事を言ったから拗ねたのだろうか?
そっと頭を撫でると、ぷいっと横を向いた。
……拗ねているフレム、可愛い。
「お風呂に行ってくるね。帰って来たらご飯にするね」
お風呂をあがって部屋に戻ると、入り口前に何かが置かれている。
周りを見ると、他の部屋の前にも同じような物が置かれている。
これは各自使っていいと言う事だろうか?
とりあえず、部屋に入れておこう。
扉を開けて、置いてある物を入れているとドルイドさんが帰って来た。
「それは?」
「部屋の入り口の前に置いてあったので、使っていいモノかと。何か分かりますか?」
「あぁ、それは暖房アイテムだよ。赤の魔石を使って部屋全体を暖めるんだ」
「? 部屋は既に暖かいですよね?」
「あぁ。夜はこれの説明かな?」
そういえば、今日は話があると夕飯時に食堂へ行くことになっていたな。
なるほど、このアイテムの説明か。
「どうする? 約束の時間までに夕飯をすませておくか?」
「うん。時間的に夕飯が食べ終わるころだから、先に食べよう?」
集まってほしいと言われた時間は、いつもだったら食後にゆっくりとくつろいでいる時間。
なので、少し早めに夕飯を食べておく必要がある。
時計を見ると、少し早いけどゆっくり休憩していたら、すぐに時間になるだろう。
部屋に戻ると、マジックバッグからお肉を取り出す。
今日のお肉はピリ辛タレに朝から漬け込んだモノ。
後は野菜と、米!
今日は炊き立てのご飯です。
ほかほかのご飯にピリッと辛みの効いたお肉、最高。
2階の調理場に必要な物を持っていき料理開始。
まずは何と言っても米を研ぐことから。
次に、火にかけて炊き始めたら他の料理に取り掛かる。
米の火加減はドルイドさんが見てくれているので安心。
今日の野菜は、辛めのお肉に合わせて少し薄味。
野菜スープに蒸し野菜の付け合せ。
後はタレ付けのお肉を焼く。
お肉を焼いている間に米は炊けているので、お肉が焼けたら完成。
「美味そうだな」
「ふふっ、食べましょう」
今日は調理場にある机を借りて夕飯。
「「いただきます」」
蒸した野菜はどれも甘味が有って美味しい。
そこにピリッと辛いお肉。
で、炊き立てご飯。
うん、美味しい。
「アイビー、この肉美味い」
良かった、口にあったみたい。
「ここだ~」
食べ進めていると、調理場に顔を出す1人の男の子。
たぶん同じ階に泊まっている子供だ。
「どうした坊主」
「お腹が空く匂いがして気になって……それ?」
男の子が指すのは、ドルイドさんがフォークで刺しているお肉。
ものすごく凝視している。
「ぷっ、もう少ししたら夕飯の時間だろう? この時間に食べたら怒られるんじゃないか?」
「そうなんだけど……」
かなりお腹が空いているのか、お肉をじっと見ている。
これにはドルイドさんも少し困った表情だ。
「こらっ! グッティ」
「げっ、兄ちゃん」
どうやらお兄ちゃんが、迎えに来てくれたようだ。
それにドルイドさんと一緒にホッとする。
別にグッティ君におすそ分けする事は問題ないのだが、親の許可が必要だろう。
「すみません。弟が」
「いや、大丈夫だよ」
「あの同じ階に泊まっている、ルイディです。こっちが弟のグッティです」
「ありがとう、ドルイドだ」
「アイビーです。よろしくお願いします」
挨拶すると、グッティ君が手を振ってくれる。
ルイディ君は大きなため息をついて、邪魔をしたことを詫びて弟を引きずって帰っていった。
「なんか、やんちゃそうな弟君だな」
ドルイドさんが苦笑を浮かべている。
確かに、そういう印象だった。
お兄ちゃんは、大変そうだったな。
活動報告で発表しましたが、書籍化します!
しかもコミカライズも!!
こんな幸運に恵まれたのも、皆様のお蔭です。
本当に、本当にありがとうございます。




