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246話 スノーの報告

宿の玄関から出ると、昨日に比べるとかなり寒い。

一瞬、宿に戻りそうになってしまった。


ソラたちが入っているバッグを見る。

寒くないかな?

ふわふわのタオルを買って寒さ対策は施してあるけど、ここまでの寒さは考えていない。


「どうした?」


バッグをじっと見つめる私を心配そうに見るドルイドさん。

何かあったのかと思わせてしまったかもしれない。


「バッグの中を暖かくする方法ってあるのかな?」


ドルイドさんは少し考えて、私のやりたいことが分かったみたいで1つ頷いてくれた。


「帰りにローズのお店によって相談してみようか?」


「うん。ありがとう」


「大切な仲間のことだからな」


ドルイドさんの言葉が聞こえたんだろう、バッグが振動を伝えてくる。

ソラかな? シエルかな?


いつもの様に大通りに出るが、人が少ない。

この寒さで多くの人が家に籠っているようだ。


「人が少ないな」


「お店も閉まっているところがあるよ」


屋台を見渡すが半分ぐらいが閉まっている。

この寒さは人の生活を変えるようだ。


「行こう」


いつもは周りを見ながら歩くのだが、今日は寒すぎる。

その為、自然とギルドに向かう足が速くなる。

急いできた冒険者ギルドの中は、閑散としていた。

こんなギルドは初めてだ。


「さすがにこんな日は人が少ないな。あそこでいいか」


カウンターに座っているギルド職員の男性。

何か作業をしているようだが、眠そうな目をしている。


「失礼」


「あっ、いらっしゃいませ。ご用件は、何でしょうか」


ドルイドさんの声にハッとした表情を見せて、慌てて取り繕う男性。

目は開いていたけど寝てたのかな?


「森の中でスノーを見かけたので、その報告を」


「ありがとうございます。詳しくお願いします」


スノーは1日で急成長し花が咲き、そして枯れて消えてしまうのだとドルイドさんに教えてもらった。

なので見つけた日が違うと同じ場所に咲いていたとしても、違う花らしい。

そして、スノーの目撃情報が多いほど、その冬は厳しい年になるそうだ。

今年どれだけの目撃情報が集まってきているかは分からないが、スノーの情報だと知った時の職員の表情。

見間違いでなければ、少し顔色が悪くなったように見えた。

もしかしたら、かなりの目撃情報が集まっているのだろうか?


「ありがとうございました」


「いや、報告は多いのか?」


ドルイドさんが訊くと、1つ小さく頷く。

その表情は苦渋に苛まれていた。


ギルドを出る。

これからローズさんのお店に行くのだが、太陽が少し雲で隠されてしまった。

太陽の暖かさがなくなると、本当に凍えるような寒さだ。


「本格的な冬になったら、森へ行くのは危ないかもしれないな」


「宿でのんびりするしかないですね」


「そうだな」


命を危険にさらしてまで森へ行く必要は無い。

シエルが森の中で生活をするなら、ちょっと無理をしてでも行くが。

今は一緒にいる。

本当に変化の魔石を作り出したフレムには感謝だ。


足早にローズさんのお店に行く。

いつもより早足なのに、いつもより店が遠く感じた。

人の感覚って当てにならないな~。


「いらっしゃい。すぐに扉を閉めておくれ寒いからって、アイビーたちじゃないか」


ローズさんのお店の扉を開けると、すぐに声が掛かる。

ちょっと不機嫌そうな声だったけど、私たちと分かった瞬間から雰囲気が変わる。

それに少し苦笑してしまう。


「ローズさんに相談がありまして」


「なんだい?」


この店に来る前に、私がテイマーでスライムをテイムしている事までは話すと決めておいた。


「テイムしたスライムがバッグにいるのですが、この子たちが寒くないようにバッグに入れられる防寒アイテムか暖房アイテムなど、ありませんか?」


「アイビーはテイマーだったのかい?」


「はい」


ローズさんが私が肩から提げているバッグを見る。

1つだけマジックバッグではないので、すぐにソラたちがどこにいるのか分かったようだ。


「バッグの中を暖めるグッズ……ん~、どこかで見たような……」


アイテムが載っている書類を次々とめくっていくローズさん。


「あった! やっぱりあった。これはどうだい?」


ローズさんは少し嬉しそうに、見つけた書類を差し出す。

受け取って説明文を読んでいく。

『火魔法の魔石を使用し、バッグの内側を暖める暖房アイテム。専用バッグと一緒に使えば寒さ対策効果がなんと2倍~3倍。だから使うなら一緒に使う方が断然お得!』

……?

なんだろう、このちょっと独特なお薦めと言うか販売の常套句と言うか。

まぁ、分かりやすいと言えば分かりやすいのだけど。


「すみません、この実物を見たいのですが……あれ?」


読み終わってローズさんを見ると、目の前に居るはずなのに居なかった。


「あれ? ローズさん?」


「機嫌よく奥に行ったぞ。たぶん探してくれているのだろう」


動きが早いな。


「あったよ。これだ、これだ」


持って来てもらったアイテムを見ると一部分に穴の開いた厚めの木の板。

今使っているバッグより少し大き目。


「これで本当に暖かくなるのか?」


ドルイドさんが不思議そうに木の板を見ている。


「説明ではそうなる。で、こっちがアイテムの効果を倍にする専用バッグだよ」


ローズさんが持っているバッグを見る。

アイテムが底にすっぽり入る大きさなので、今のバッグより大きめになる。


「試しにアイテムを動かしてみたらどうだい? どれくらい暖かくなるかは書類からでは分からなかったからね」


ローズさんが火魔法を強化する赤の魔石を1つ貸してくれたので、書類から起動方法を探す。

起動には、木の板にある穴に魔石を入れてバッグの底に敷き、板の側面にある出っ張りを1回押す。

これだけ。

使う魔石は、それほど大きい物やレベルの高い物は必要がないみたいだ。

しばらくすると、じんわりとバッグの中が暖まってくる。


「凄い、結構暖かくなるんですね」


バッグの中に腕を入れて暖かさを確かめる。

続いて、ドルイドさんとローズさんもアイテムの効果を実際に手を入れて確かめている。


「確かに暖かいな、これでいいんじゃないか? あっ、バッグを換えることになるのか……」


ドルイドさんがソラたちが入っているバッグを見る。

そういえば、前に大切な人にもらったバッグだと説明した事がある。

なのでバッグを換えることを迷っていると思ったのかもしれない。

確かに少し迷ったけど、ソラたちと安心して一緒にいるためならバッグを換えることに迷いはない。


「夏用のバッグと冬用のバッグですね。なんだか贅沢ですが」


ドルイドさんに安い贅沢と笑われた。

それほど安いとは思わない金額だったけど。


「ここは私が払います!」


「いや、旅に必要な物なのだから共同口座のお金を使うべきだ」


「いえ、これは私が支払います。ソラたちの物なので」


「「………………」」


睨み合っていると、何故か大きなため息をつくドルイドさん。


「アイビーは頑固者だからな」


「え~、ドルイドさんだって頑固ですよ!」


私達のやり取りを見てローズさんが笑い出した。


「本当に仲がいいね。アイビー、買ってもらったらどうだ?」


「ローズさんまで。あの、買ってもらうのに慣れてしまうと、見境なくなって我が儘放題になってしまうかも」


「「それはない」」


何故か2人同時に同じ言葉を言われた。


「……ソラたちにはお世話になっているから、何かしてあげたいんです」


ソラやフレム、シエルには本当にお世話になっている。

だから彼らの環境をよくするための物は、私が買ってプレゼントしたい。

この言葉が効いたのか、ドルイドさんが引いてくれた。

ただし、次にソラたちの物を購入する時はドルイドさんが支払う事になった。


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