244話 冷えすぎ注意
門番さんに挨拶をして村に入る。
太陽が陰ったのか、寒さが増している。
昨日よりかなり寒いような気がするけど、気のせいかな?
「このままギルドに行くの?」
「いや、今日は宿に戻って体を温めよう。冷え過ぎだ」
確かに指先と足先の感覚はない。
宿に戻ると、ドラさんが迎えてくれた。
何故か安堵の表情を見せる。
「おかえりなさい」
「ただいま戻りました。何かありましたか?」
「先ほどギルドから、今夜はかなり冷え込む可能性があると連絡がありまして」
「そうなんですか。そういえば、今日の寒さは体に堪えますね」
あっ、私の気のせいではなく本当に昨日より寒いのか。
「そうなんですよ、まだこの寒さになるには早いんです。だから心配で」
「もしかして、まだ誰か帰って来ていないのですか?」
「ドルイドさんの隣の部屋の、お子さん連れの旅の方達がまだなんです」
ドラさんが扉の外に視線を向ける。
確か隣は、ご夫婦に私と同じ年ぐらいの男の子と少し大きい男の子の4人家族だったはず。
大丈夫かな?
「あぁ、引き止めてしまってすみません、お風呂に入って体を温めてください。風邪をひいてしまう」
ドラさんに挨拶をして、部屋に戻ってお風呂の準備をするとすぐにお風呂に向かう。
足先と指先から冷えが伝わって、今では体全体が寒い。
「ゆっくり体を温めてくること」
「了解!」
ドルイドさんと別れて女風呂に向かう。
ボタンをはずそうと動かすが、困った。
指がかじかんで動かない。
悪戦苦闘していると、
「大丈夫?」
柔らかい女性の声が聞こえた。
視線を向けると、お風呂から上がってきたのか湯気をまとった40代ぐらいの女性が私の手元を見ている。
「ボタン、手伝いましょうか?」
「えっと、大丈夫です」
「遠慮しないで。そんな状態だと風邪をひいてしまうわよ」
スッと伸ばされる手に、緊張で背筋が伸びる。
それに気が付いた女性はちょっと躊躇したが、さっとボタンをはずしてくれた。
「はい、これで大丈夫」
「ありがとうございます」
「どういたしまして。私は3階に泊まっているルーシャ。よろしくね」
「2階に泊まっているアイビーです。よろしくお願いします」
頭を軽く下げて挨拶する。
それを嬉しそうに笑ってルーシャさんも頭を下げてくれた。
「ささっ、お風呂に入ってらっしゃい。風邪をひいてしまうから」
「はい」
ボタンが外れてしまえば、指が少し動かしづらくても脱ぐことは出来る。
タオルや石けんを持ってお風呂に入る時、後ろを確認すると脱衣所から出て行くルーシャさんの後ろ姿が目に入った。
「いい人だったな」
冷えすぎるとお湯が痛いという経験をしながら、しっかりお湯に浸かって体を温める。
寒さで固まっていた筋肉が、ゆっくりほぐれていくのが気持ちいい。
ぐ~……。
「お腹空いた」
体も温まったし、もういいかな。
ぐ~……。
よし、上がろう!
体を拭いて、脱衣所から出るとパンの香りが漂ってくる。
この宿に泊まっていると、太りそうだな。
2階に上がる時、ドラさんがまだ宿の玄関にいるのが見えた。
まだ最後のお客さんが戻ってきていないようだ。
「おかえり」
「ただいま」
部屋に戻ると既にドルイドさんがソラとシエル、2匹と遊んでいた。
……いや、2匹の玩具になっていたかな?
ベッドにうつ伏せに寝ているドルイドさんの腰の上で、ソラとシエルが体をぶつけ合っている。
「痛くないの?」
「ん? 全然、振動が気持ちいいんだよ」
……これが持ちつ持たれつ?
ちょっと違うかな。
それにしても、気持ちいいのかな?
「ソラたちの体は拭いておいたから、フレムは拭いてベッドの上な」
「ありがとう」
私のベッドを見るとフレムが寝ている。
そっと様子を窺って、すぐにタオルを準備してそちらに移動させる。
フレムは相変わらず口が緩い。
あと少しで布団によだれが染み込むところだった。
「あっ、3階に泊まっているルーシャさんにちょっとお世話になったんだ」
「ん? 何かあったの?」
「指がかじかんでボタンが外せなかったから、外してもらっちゃった」
「そうだったのか、少し温めてからお風呂に入ればよかったな」
「ドルイドさんは大丈夫だったの?」
「ボタンの無い服を着てたから、大丈夫だった」
そういえば、無かったな。
森に行く寒い日は、ボタンがある服を着ないようにしよう。
「そうだ、少し温めるってどうやるの?」
「ん~、手をこすりあわせたり、宿で蒸しタオルを貰ってもいいな」
蒸しタオルは良いかもしれないな。
今日の寒さでは、手をこすりあわせるぐらいでは追いつかなかったからな。
ぐ~……。
「「…………」」
「えっと、夕飯作ってきますね」
あっ、ソラたちのご飯もまだだった。
先に用意しよう。
「手伝うよ。この寒さの中を歩き回ったから、お腹が空いて、空いて」
「ドルイドさんも?」
「あぁ。風呂に入ってる最中にお腹がなって、一緒に入っている人がいたから恥ずかしかったよ」
ドルイドさんの話に笑いながら、ソラたちのポーションをバッグから出す。
それに気が付いたのか、ドルイドさんの腰から勢いよく飛び跳ねるソラ。
「ぐっ、ソラ今のは駄目だ」
痛かったようだ。
フレムもポーションに気が付いたのか、ベッドからコロコロ転がってポーションのもとへ。
「夕飯作ってくるね。ソラ、フレムはゆっくり食べてね。シエル、遊ぶのはご飯を食べ終わるまで待ってあげてね。じゃ、行ってきます」
「ぷっぷ~」
「りゅ~」
「にゃうん」
2階の調理スペースを借りて、夕飯作りに取り掛かる。
今日は森へ行く予定にしていたので、朝のうちにスープを準備しておいた。
なので温めるだけ。
簡単にサラダを作って、後は宿で焼きたてのパンを貰って完成。
今日はゆっくり食べたかったので、部屋に移動。
ベッドを見ると3匹が並んで寝ていた。
フレムだけタオルの上に移動させておく。
「「いただきます」」
寒い日は、やはりスープが美味しい。
大き目のお肉もいれてあるので食べごたえも抜群だ。
「森へ行く日はスープを作っていくのがいいな、帰って来て温めたらすぐに食べられる」
「そうだね」
ひゅ~、ガタガタガタ
「わっ!」
風の音が大きくなったかと思ったら窓が大きく揺さぶられたので驚いた。
「風が強くなってきたな」
「うん」
窓が風で煽られてガタガタ言うのを聞きながら夕飯を食べる。
美味しいのにちょっと落ち着かない時間が過ぎた。