241話 食料確保!
「寒いので気を付けてくださいね。それと雨が降りだしたら必ず雨宿りをしてください。この寒さの場合は、急激に体温を奪われて命に関わりますから」
「はい」
門番さんから注意をもらい、森へ出る。
今日はソラたちを思いっきり遊ばせたい。
ハタウ村に着いてから昨日まで、冬の装備の準備やギルドの用事で我慢をさせてしまったから。
それにしても寒い。
「顔が寒いです」
「確かに、顔の寒さ対策って何かあるかな?」
ドルイドさんの質問に。
「顔を布でぐるぐる巻きにするとか?」
真剣に言ってみたが。
「顔を隠したら、村から追い出されるから止めような」
「あっ、そうですね」
忘れてた。
顔を隠すことは禁止されている、だから顔を覆う事は出来ない。
もし隠したら村には入れなくなる。
そして不審者扱い間違いなしだ。
「まぁ、あまりに寒くなったら口元ぐらいは隠しても大丈夫だから。といっても、この寒さだと駄目だけど」
けっこう寒いけど、まだ駄目なんだ。
辛い。
後ろを振り返って門から随分離れたところまで来たことを確認する。
周りの気配から人がいない事も確認済み。
「お待たせ~」
バッグを開けると、ぴょんとソラが飛び出す。
次にシエル。
ソラより綺麗な着地を見せる。
そしてフレム。
いつもの如くバッグから落ちそうなので、抱き上げて地面に下ろす。
「ぷっぷぷ~」
ソラが気持ちよさそうに飛び跳ねている。
シエルも久々にアダンダラの姿に戻って伸びをしている。
「ごめんね。窮屈な思いをさせてしまって」
やっぱりソラとシエルは、森が似合うな。
フレムは……毛布の上が似合うかな。
シエルを先頭にゆっくり森の奥を目指しながら、3匹の様子を窺う。
本来の姿に戻ったシエルは、最近貫録が出てきたような気がする。
体つきが前よりガッシリしたからかな?
ソラは相変わらずシエルが大好きだ。
シエルが本来の姿に戻ると、体に体当たりしては転がっているソラ。
フレムは、シエルの背中に乗ってご満悦な表情だ。
とりあえず、ソラとフレムは自由すぎる。
「何処に行くのだろ?」
「まぁ、大丈夫だろう」
ドルイドさんと動物や魔物の痕跡を確認しながら、シエルの後を追う。
「村の周辺に大きな動物や魔物の痕跡はほとんどないな」
「そうだね。ほとんど野ネズミか野兎の痕跡ばかり」
しばらくすると、甘い香りがする場所に来る。
「こんな季節に花?」
「でも、花なんてどこにもないけど」
ドルイドさんと周りを見渡すが、花は何処にもない。
不思議に思ってシエルを見ると、シエルも周りを見渡している。
「シエル?」
何かあるのかと気配を細かく探る。
動く気配はない。
「にゃうん」
「「どうしたの?」」
ドルイドさんと声が重なって少し驚く。
なんとなくちょっと恥ずかしい気分になりながらシエルに近づく。
ソラもシエルの近くに来て、何かを見つめている。
視線の先を見ると、そこには白い小さな花。
なんだかとても可愛らしい花がある。
「ぅわっ!」
私は可愛いと思ったが、ドルイドさんは違うようで嫌そうな表情をしている。
もしかして毒でもあるのだろうか?
「ドルイドさん、この花を知っているのですか?」
「あぁ、『死者を呼ぶ花』と言われている」
使者? 死者?
私の考えていることが分かったのか『死ぬ方のだよ』と教えてくれる。
死者を呼ぶ花。
なんとも物騒な名前だけど、それは花の名前なのか?
「それがこの花の名前なんですか?」
「いや、花の名前はスノー」
随分と可愛らしい名前。
でも、死者を呼ぶ花?
見た目は地面から15㎝ほどのところで5枚の白い花びらが揺れている。
花自体もとても小さい。
「どうして死者を呼ぶ花と呼ばれているんですか?」
「この花が咲く年は雪が多くて、死者が増えるんだ」
だから死者を呼ぶか。
「どうしてそうなったんでしょうね?」
「えっ?」
「だって、このスノーはわざわざ教えてくれているんですよ。今年は雪が多いから気を付けろって」
「気を付けろ?」
「うん。この花を見た年は雪が多くなるから対策をしろよって事でしょ?」
「あっ、そう言えばもう1つ呼び名があったな、確か『知らせの花』だったはずだ」
「私はそっちの方が好きだな」
死者なんて呼び名は嫌だ。
こんなに可愛い花なのに。
「強く印象に残る方が広がったんだろうな」
確かに死者の方が印象は強い。
仕方ないのかな。
それにしても、この花が咲いているという事は今年の冬は雪が多く厳しくなるのか。
「今の対策で問題ないですか?」
「宿に戻ってとりあえず確認してみよう。あと、ギルドにこの花を見かけたことを報告だな」
ギルドに報告をしておけば、対策をしっかりしてくれるかな?
まぁ、それはこの村のギルマスさん次第か。
「シエル、教えてくれてありがとう」
「にゃうん」
ドルイドさんが花の咲いている場所を確認してから、今日の目的の捨て場へ向かう。
しばらくすると、捨て場が見える。
「あれ? この村の捨て場は他に比べて小さいですね」
「そうだな。村の規模から行くと2倍ぐらいあってもいいと思うが。村お抱えのテイマーでもいるのかな?」
想像していたより比較的小さな捨て場。
ポーションがあるか不安に思うが、パッと見た印象では問題なく捨てられている。
良かった。
「ソラとシエルはあまり離れて遊ばないでね。あとポーションも魔石も今は必要ないからね! フレムもお願いね」
3匹にお願いしてから、必要な物を拾って行く。
「剣はどれくらい必要になる?」
ドルイドさんの言葉に昨日の夜、確認した剣の数を思い出す。
1日2本あげているので後10日ほどは問題ないが、どれだけ拾えば安心だろう。
「宿には10日分があります。雪が降らなければ特に問題ないけど」
「雪が降ったら、埋もれてしまって拾えないからな」
そう、捨て場にも雪が降り積もるため、雪の量にもよるが拾えなくなる可能性がでてくる。
「拾えるだけ拾って行くか? 無駄になる事はないだろう」
確かに、ソラが剣を無駄にする事はないか。
「うん、そうする」
剣はドルイドさんに任せてポーションを拾って行く。
バッグの中身がいっぱいになったので終了。
あと1回、雪が積もる前に拾いに来れば冬を越せるぐらいにはなるかな?
宿に戻ったら数を確認しなくちゃ。
「お待たせ、とりあえず30本以上は拾えたと思う」
「ありがとう」
ドルイドさんが持っているマジックバッグも一杯のようだ。
「さて、今日は大人しくしてるかな?」
「大丈夫だよ。お願いしてきたし」
ドキドキしながらソラたちのもとへ向かう。
「お待たせ、皆のご飯拾ってきたよ」
ソラとフレムの周りに視線を走らせるが、何も落ちていない。
それにホッと体から力が抜ける。
良かったボックスの中身が増えなくて。
「にゃうん」
「ん? どうしたの?」
シエルが近づいて来て、頭に顔をすりすりと擦りつける。
これは『少し離れるよ』という合図。
「ご飯を食べに行くの?」
「にゃうん」
「気を付けてね。この辺りにどんな魔物がいるか分からないから」
頭を撫でると目を細めて気持ちよさそうな表情を見せる。
「アダンダラより強い魔物の情報はなかったが、気を付けろ」
ドルイドさんは軽くポンと頭を撫でて手を挙げた。
「にゃうん」
私達の言葉に尻尾を楽しそうに振ってから、颯爽と森の奥へと走り去った。
「速いよな~」
思わずドルイドさんが言ってしまうほど、シエルが本気で走るとあっという間に見えなくなる。
さて、シエルが戻ってくるまで森を探検しようかな。
ソラはさっきからうずうずしているみたいだし。
「ソラ、森を探検しようか?」
「ぷっぷぷ~」
「……りゅ~」
フレムはもう充分と言う態度で不服そうに鳴く。
「フレムってものぐさだよな」
ドルイドさんの言葉にフレムは体を縦にグーッと伸ばす。
もしかして抗議?
そうだとしたら、可愛らしい抗議だな。
「ぷっぷぷぷぷぷ~」
「分かってるから待って!」
フレムを抱き上げてソラのもとへ向かう。
シエルが帰って来るまで、何か見つけられるかな?