238話 ハタウ村の自警団 団長さん
宿に帰るのだと思っていたら、何故か着いた場所はローズさんのお店。
「ドルイドさん、まだ何か必要な物がありましたっけ?」
色々考えるが、何も思い浮かばない。
「洗濯を楽にするアイテムがないかとおもって」
やっぱり気にしているのかな?
今日みたいに、大量の洗濯物を一気に洗う事なんてそうそうないのに。
「ん? ボックスに何か問題でもあったかい?」
カウンター奥の椅子に座っていたローズさんが、ドルイドさんを見て眉間に皺を寄せる。
「いえ、問題なく使えました」
「そうか。だったら何か探し物か?」
本当にローズさんは人によって対応が違うな。
昨日の人は自分で捜せって怒鳴っていたのに。
「洗濯を楽にするアイテムとかありませんか? 俺がこれだからアイビーに負担が掛かっていて」
ドルイドさんが無くした方の腕を指す。
「いや、負担なんて掛かってませんからね」
即、否定する私をローズさんが笑う。
「仲がいいね」
そう言うと、何か書類のような大量の束を出して見始める。
「洗濯用のアイテムね~。あったかな?」
どうやら見ている書類は、この店のアイテムを書き込んだ物らしい。
次々とめくられていくが、探しているような物はないようだ。
「洗濯を補助するアイテムなら、汚れを落とすクリーン魔法もしくは脱水魔法?」
「そうですね。どちらかありますか?」
「ん~、何処かで見たような気はするんだけどね~」
2人の様子を見て、長くなりそうだと感じたのでお店のアイテムを見て回ることにする。
昨日は鍵付のボックスを探しながらだったため、見て回ることが出来なかったのだ。
棚に詰め込んであるアイテムを手に取る。
場所によっては少し埃がかぶっているが、どのアイテムもきっちりと整備されている。
ローズさんから見ると棚にあるアイテムはそこそこの物らしいが、私からすれば十分な物だ。
「いろいろあるな。これは『捏ねる 最適な捏ね具合』?」
何を捏ねるのかは一切不明。
首を傾げながら棚に戻す。
きっと誰かの役にはたつアイテムのはずだ。
次に気になったアイテムには、小さな四角い凸凹が並んでいる。
読み取ったアイテムの説明には『凍らせる 水分全般』と出た。
「凍らせる? 水を凍らせることが出来るのなら、夏の暑さ対策に欲しいな」
これがあれば、夏の暑い日に冷たい水が飲めるようになる。
しかも水分全般という事はこの四角の凸凹に小さく切った果物を入れたら凍らせることが出来るはず。
これはちょっと欲しいかも。
今年の夏は、例年に比べると暑さがましだと言われていたけど、私からしたら十分暑かった。
ドルイドさんに相談してみようかな?
「何かあった?」
じっとアイテムを見つめている私の元に、ドルイドさんが来る。
「ちょっと気になったアイテムがあって」
手に持っているアイテムを見せると、ドルイドさんがアイテムの機能を読んで頷く。
「夏に良いなこれ」
どうやらドルイドさんも賛成の様だ。
「王都周辺の夏はここより暑い。こういうアイテムは役立つだろう」
王都周辺は暑いのか。
初めて知ったな。
旅をしていて気が付いたのだが、私は暑さに少し弱い気がする。
だからなのか、その情報にちょっとうんざりしてしまった。
「買って帰ろうか?」
「えっ、もう買うんですか? この村を離れる時でも大丈夫だと思うけど」
「この店は人気店だから、次にきた時には売れてしまっている可能性がある」
あっ、そうか。
「とりあえずローズに『凍らせる』機能付きのアイテムが他にもあるか訊いてみるか?」
「うん」
アイテムを持ってローズさんのもとへ向かう。
その途中でもいろいろなアイテムを見るが、欲しい機能は特になかった。
「そう言えば、探し物はありました?」
洗濯に役立つ機能付きアイテム。
「残念ながらなかったよ」
「そうですか」
脱水魔法とか、面白そうだったからちょっと期待していた。
なのでちょっと残念だ。
「あれ? いないな。何処だろう」
ローズさんが座っていた場所まで来るが、姿がない。
「奥かな?」
視線を奥へと続く扉へ向けると、丁度ローズさんが出てくるところだった。
「やっぱりこの店にはないね。知り合いの店に聞いてみるから、もう少し待ってくれ」
「お手数おかけしてすみません。ありがとうございます」
ドルイドさんの言葉に首を横に振るローズさん。
「ん? それは?」
「あぁ、夏の暑さ対策に良いかと思って」
ドルイドさんが持っていた『凍らせるアイテム』を渡す。
彼女はしばらくアイテムを見てから、1つ頷く。
「この機能のアイテムは夏には売り切れてしまう事が多い。良く見つけたね」
確かに夏には絶対に売れるアイテムだろうな。
「アイビーが見つけてくれたのですよ。他にも似たような機能の付いたアイテムってありますか?」
「残念ながら、無いね」
「そうですか。ではそれを下さい」
「最後にチェックだけしておくね」
「ありがとうございます」
今は冬なので氷は必要ないが、ちょっと使ってみたいな。
どんな氷が出来るんだろう。
「はい、問題ないよ」
「代金は?」
「2ギダル」
宿に戻ったら、1回使ってみよう。
お礼を言って店を出ようとすると。
入り口で1人の男性とぶつかりそうになる。
「すみません」
「いや、こっちこそ悪かった。怪我はないか?」
視線を向けると、ハタウ村の自警団の服を着た、ドルイドさんよりかなりがっしりした身体つきの男性がいた。
「あぁ、お帰り。今日は早いね」
「早いって……家に帰るの、2日ぶりなんだけど。ただいま」
「あっ? そうだったか?」
話しぶりから、息子さんかな?
あっ、ローズさんの息子さんってこの村の自警団の団長だったはず。
ならこの男性がこの村の自警団の団長。
じっと見ていると、不意に男性の視線と合う。
ちょっと驚いたが、軽く頭を下げて挨拶をする。
「お邪魔しています」
「ん? いらっしゃい。母さんの相手は大変だろう?」
「へっ? いいえ?」
「良くしてもらってますよ」
ドルイドさんと私の態度に、ちょっと驚いたように目を見開く団長さん。
そんな驚かれることは言っていないが。
「珍しいな、母さんが子供を気に入るなんて」
子供を気に入る?
これは間違いなく私の事だよね。
「その子と話していると子供と言う雰囲気がなくてね。それに良い子なんだよ」
ローズさんから褒められて少し頬が赤くなる。
不意に褒められるとものすごく照れるな。
「本当に珍しい。あっ、俺はこの村の自警団の団長をしているタブローだ。よろしく」
「ドルイドです、よろしく」
ドルイドさんと軽く手を握ると、すっと私にも手を差し出す。
あまりこういう挨拶をしたことがないので、ちょっとドキドキする。
「アイビーです。よろしくお願いします」
軽くタブローさんの手を握ると。
握っている手とは反対の手で頭を軽くぽんぽんされる。
「なんかこう、構いたくなる可愛さがあるな」
構いたくなる可愛さ?
「でしょ?」
ドルイドさんの答えに、ローズさん、タブローさんが頷く。
何だろう、ものすごく羞恥心を感じるんだけど。
絶対さっきより顔が赤いだろうな。