237話 上級様?
お腹が重い。
ドーナツを沢山食べた後に串肉を我慢できずにもう1口もらったのだけど、完全に食べ過ぎた。
でも、美味しかったので気持ち的には満足。
ただ体がどーんとしている。
「ちょっと食べ過ぎたな」
ドルイドさんはちょっとではないと思うけどな。
ドーナツを同じ量を食べて、そのあと2口もらったとはいえ串肉を6本完食しているのだから。
あの串肉、塊肉が3つずつ刺さっていたからね!
彼の体を見る。
筋肉質でがっしりしていて、頼もしい。
女性なのでこうはなれないが、私はどうも筋肉がつきにくいようで全体的に細い。
もう少し頑張って食べたら、筋肉は増えるだろうか?
最近はちゃんと食べられる様になって、少し身長も伸びたのだけど。
ギルドに着くと、前に対応してくれた女性を探す。
私達が見つけたのと同時ぐらいに、女性がこちらに気が付いてくれた。
「いらっしゃいませ。何かお手伝いする事はありますか?」
あれ?
なんだか昨日とは対応が違う気がする。
ドルイドさんを見るが、特に気にしている様子はない。
気のせいかな?
「マジックボックスの登録をお願いしたいのですが、出来ますか?」
「もちろんです、少しお待ちください。でも珍しいですね、ボックスの登録はなかなかしていただけなくて」
「手間が少しかかりますからね」
わざわざギルドにボックスを持って来る必要があるからね。
手間と言えば手間かな。
「確かにそうですね。でも、何かあった時は役立つんですけどね」
「何かあってから、それに気が付くのでしょうね」
後から悔やんでも遅いけどね。
「ふふふ、そうですね。でも、その時では遅いのですが。はい、登録が終わりました」
えっ、もう?
黒い板の上に乗っけただけなんだけど。
「あっ、残っていた2つの鉱物の金額が朝方確定しましたので、振込をさせていただきました。こちらが書類となります。ご確認いただけますか?」
ドルイドさんが書類を受け取って確認するとサインした。
「ありがとうございました」
「こちらこそ、お手数おかけして」
「いえ。ではまた何かありましたら、よろしくお願いします」
丁寧に1つ大きく頭を下げる女性に首を傾げる。
やっぱり違う。
「ありがとう」
「ありがとうございます」
女性から離れて入金の確認と記帳をしに、ギルドの隅にある個室へ向かう。
「あの女性の対応が、昨日より丁寧になってない?」
「たぶん、上級の取引相手という事になったんだろう」
上級の取引相手?
「もう、取引する物もないのに?」
「それをギルド側の者たちは知らないし、この冬に何もないとも限らないからな」
何もない方をお願いしたいけどな。
冬ぐらいはゆっくりと落ち着きたい。
ドルイドさんが金額の確認と服代と宿代を引き出してくれた。
昨日すっかり宿代を引き出すのを忘れてしまっていたのだ。
宿に帰ってから2人してそれに気が付いて、苦笑いしてしまった。
「無事に全て売れたな」
「うん、良かった。残りの2つはどれくらいだった?」
「白い方は思ったより安かったが、もう1つの方が高かったからほぼ予想していた通りの金額だったよ」
良かった。
まぁ、1つぐらい大きく外しても今なら問題ないけど。
「さて、次は服屋だな」
「はい。外套楽しみです。借りてきたこのコートも温かいですが、ちょっと短くて」
私の体に合う外套がなかったので、着れるコートを借りてきたが少し私には小さかった。
その為、少し窮屈だ。
袖も短いしね。
大通りを歩いていると、出ていた太陽が雲に覆われていた。
先ほどまであった温かさが消えて、風が先ほどよりかなり冷たく感じる。
「いらっしゃいませ」
足早に進んでいたら、いつの間にか服屋に着いていたようだ。
「先に服代を払ってもいいか?」
「はい。ありがとうございます」
バルーカさんが奥に声をかけると、大きな箱を持って1人の男性がでてくる。
小さく頭を下げると、嬉しそうに挨拶してくれた。
「はい、確かに。商品はこちらです」
バルーカさんが1つ1つ、商品を見せながら直した個所の説明をしていく。
その辺りは全てドルイドさんに任せてしまったので、何を話しているのか分からない。
でも、ドルイドさんの反応を見て満足していることは分かった。
「今から着ていきますか?」
「えぇ、お願いします。アイビー、上のコートを脱いで買ったこっちのコートを着ていこう」
「うん」
ドルイドさんが手渡したコートを貰ってちょっと固まってしまった。
あれ?
私は真っ黒のコートをお願いしたけど、これは薄めの青。
森の中では少し目立ちそうだったから、気に入ったけどやめた色だ。
「ドルイドさん?」
「気に入った物を買わないと」
「でも、森で目立ちますよ」
「冬だから大丈夫だと思うぞ」
そうかな?
雪に紛れるって事?
「もし目立ってどうしても気になるなら、2着目を買えるように狩りを頑張ろうな」
「もう」
でもこの色やっぱり可愛い。
「ありがとう」
腕を通すと、ピタッと体にフィットしてとても着やすい。
首元にある毛皮も毛足はそれほど長い物ではないが、首元をしっかり守ってくれている。
「似合ってますよ。すごく可愛いです」
バルーカさんの言葉にちょっと頬が赤くなる。
恥ずかしい。
「おっ、いい感じだな。体にぴったり合っているし、さすが腕がいいな」
「ありがとうございます」
ドルイドさんも借りていたコートを脱いで、買ったコートを着て見せてくれた。
なんだかすごくかっこいい。
さすがドルイドさんだ。
着てきたコートなどを綺麗に畳んでもらい、マジックバッグに仕舞う。
購入した他の服もバッグに入れる。
あれ、昨日確認した枚数より1枚増えているような気がする。
バッグの中の服の枚数を数える。
やっぱり多い、それにこれ……。
ドルイドさんを見ると肩をすくめた。
「ありがとう」
「よかった。怒られるかと思ったよ」
正直『あ~』とは思ったけど、増えた1枚が何か判明したので怒れなくなってしまった。
それは、襟元と袖にとても可愛い花の刺繍がしてあり、ついつい手に取ってしまったシャツだ。
でも、森の中を歩くには不向きなデザイン。
だからそっと元に戻した。
棚に戻す時、ちょっとがっかりしたのを覚えている。
その服が、バッグの中にあった。
見られていないと思ったのに、しっかり見られていたようだ。
「町や村に入ったら、1回はおしゃれしてお父さんとデートしよう」
「デート?」
「そう」
楽しそうに話すドルイドさん。
「ドルイドさん、あっ、お父さんとデート。ふふっ、楽しみ!」
そっか。
ドルイドさんはお父さんだ。
へへっ。
「可愛い」
「はい?」
ドルイドさんが何か言ったようだが、声が小さすぎた。
もう一度言ってほしいと聞き返すが、首を横に振られた。
良く分からないが、重要な事ではないのかな。
バルーカさんにお礼を言って店を出る。
とその前に。
「春物はこの寒さが一段落する少し前から店に並びますので、よろしくお願いします」
宣伝されてしまった。
そしてその言葉にドルイドさんが食いついている。
冬も頑張って狩りをしよう。
今度は私がお父さんにプレゼントしたいな。