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236話 ドーナツに串肉

「この店みたいだな」


お店に着いて少し驚いた。

甘いお菓子のお店なので、可愛らしい外観を想像したが装飾などがない素朴な作り。

周辺にはドーナツの甘い香りが漂っていて、食欲が刺激される。


「良い匂い」


ただ、お腹が空いている今はちょっと辛い。

それにしても、まだお昼前だと言うのに既にお客が並んでいる。

人気店だとは聞いていたけど、凄いな。


「楽しみだな」


「うん。すごく楽しみ!」


最後尾に並んで、ワクワクしながら順番を待っていると1分もしないうちに後ろに人が並ぶ気配を感じた。

本当に絶えずお客が増えている。


しばらく待つと、お店の中に入ることは出来たがお店の中も人が並んでいた。

店は外観同様に素朴な印象で、装飾品は少ない。

商品を探すと、最前列の人の前にずらーっとドーナツが綺麗に並んでいるのが見えた。

見ていると、商品を自分で取るのではなく、お店の人に取ってもらうのがこのお店の決まりらしいと分かる。


「ドーナツの生地に7種類の味があるみたいだぞ」


ドルイドさんが壁に貼られている商品の説明書を指す。


「7種類もあるんですか?」


教えてくれた説明書を読むと、生地だけでなく上のクリーム1つ1つにもこだわりがあるようだ。


「いらっしゃいませ、ご注文をどうぞ」


ゆっくり進み、商品の前まで来ると可愛らしい女性が声をかけてくれた。


「ご注文はお決まりですか?」


「全種類を1個ずついただけますか?」


ドルイドさんが注文してくれたが、それを聞いた目の前の女性が困惑した表情をする。


「えっ、全種類ですか?」


「はい」


「ちょっとお待ちくださいね」


少し慌てた様子で女性がお店の奥へ行ってしまう。

それを不思議に見ていると、中から男性を連れて出て来た。


「すみません。本日既に3種類が売り切れでして」


まだお昼前なのに売り切れがあるのか。

本当に人気があるんだな。


「あ~、では売り切れ以外を1個ずつでお願いします」


「すみませんね」


「いえ、人気店なのだから仕方ありません」


少し待つと、女性がドーナツを詰め布を載せたカゴを渡してくれる。

受け取ると、ドルイドさんがお金を渡す。


あっ、並んでいるドーナツに気を取られていて値段を見てなかった。

お店に貼られている値段表を見る。

1個80ダル。

……高いな。

えっと、22個購入したから1760ダル。

思いのほか高価なご褒美になってしまった。


「行こうか」


「うん。ご褒美、ありがとう」


「俺の方こそ、ありがとうな」


ドルイドさんは私がどうしてご褒美を求めたのか分かっているんだろうな。

私の気持ちを尊重してくれて、こちらこそ『ありがとう』。


「少し歩くと公園がある、今日は少し寒さがましだからそこで食べようか」


「うん」


久々に太陽が顔を出した。

そのお蔭でここ数日続いていた寒さが少し緩和されている。

太陽の力は凄いな。

と、思ったけどやはり寒いので途中で暖かい飲み物を購入した。

太陽は暖かいが、やはり風は冷たかった。

サリファさんが、私たちの格好を見かねて貸してくれた冬用の外套は暖かいが頬に当たる風までは防いでくれないようだ。


ちょうど日が当たっている場所に椅子があるのでそこに座る。

ドルイドさんと私の間にカゴを置いて、載せてある布を取る。


「こんなに種類があると迷いますね」


カゴの中には綺麗に並べられた様々なドーナツ。

見ただけでは味の想像がつかない物ばかりだ。

でも、どれも美味しそう。


「ドラがお薦めしていたのはこれだと思うぞ」


ドルイドさんがカゴの中の1つを指す。

確か『ここら』と言う名前だったかな。

見ると、こげ茶のクリームが塗られたドーナツで上に木の実の砕いた物が乗っている。


「貰っていいですか?」


「もちろん。はい」


ドルイドさんがタオルを水で濡らして渡してくれる。

こういう時、水魔法が使えると便利だなっと思う。


「ただし、絞ってから使ってくれ」


タオルを受け取ると少し水分が多いようで、水が滴っている。

それを絞って手を拭く。

次にドルイドさんの手を取って拭く。


「ありがとう」


「いえいえ。私は『ここら』を貰うけど、ドルイドさんは?」


「ん~」


ドルイドさんは甘すぎるのは苦手だからな。


「酸味のある果物が乗っているドーナツなら、大丈夫じゃないかな?」


酸味で甘さもスッキリするはずだし。

迷っているドルイドさんを横目に見ながら、手に持っていた『ここら』に齧り付く。

口に広がるほろ苦い甘さ。

しかも木の実がいい。


「美味しい。ドルイドさんこれ、ほろ苦くて美味しいよ」


「ほろ苦いの?」


「うん。このクリームが甘さを抑えてくれているから、食べやすい」


「他のも同じ味かな?」


「どうだろう? でも、このクリームなら、ドルイドさんでも美味しく食べられるかも」


私の言葉に手に持っているドーナツを見てカゴの中から1つのドーナツを取りだす。

そして、そのまま彼はドーナツを口に入れる。

口に合わない甘さだったらどうしようと、ちょっと不安になって彼を見つめてしまう。

が、次に見せた表情でホッと体から力が抜ける。


「口にあった?」


「あぁ、このクリーム想像以上に旨いな。上のソースみたいなのは少し甘めだけど、大丈夫だ」


良かった。

それぞれ順番に取っていって、食べ進める。

さすがドラさんがお薦めするだけあって美味しい。

ただ、やはり22個は多かった。


「無理はせずに残して、次のおやつにしようか」


「うん。ドルイドさんは足りた?」


「ん? あぁ、大丈夫」


本当かな?

私と同じ量しか食べていないのに。

もしかして甘い物だから、それほど入らないのかな。

でも、量的には絶対に足りてないと思う。


「あっ、ドルイドさん、あそこでスープじゃなくて、隣のお肉とかどうですか?」


寒い時期はスープがうれしいけど、当分この村のスープは遠慮したいかな。

あっでも、とりあえずドラさんにはお薦めのスープ屋さんだけ聞いておこうかな。

ドラさんのお薦めなら、外れないだろうし。


「肉か。確かに、ちょっと甘味以外の物がほしいかな」


やはりドルイドさんには甘味だけと言うのは無理みたいだな、覚えておこう。

そう言えば、スープ屋の多さと色に目を奪われて、他の屋台を確認していないな。

どんな肉が売られているのか、ちょっと楽しみになってきたな。


「行こう」


公園を出て肉屋に向かう。

店の看板には串肉焼きとあり、『ほるす』と『たいん』と言う2種類のお肉があるらしい。


「聞いたことがないお肉だ」


「『ほるす』と『たいん』は、確か酪農で育てているモウの種類だと聞いたことがある。この村は酪農が盛んだから」


そうなんだ。

それにしても『ほるす』と『たいん』?

なんだか何処かで聞いたことがあるような気がするのだけど。


「アイビーも少しは食べるか?」


「味は気になるけど、お腹に余裕がないです」


ちょっと、余裕を残しておけばよかった。

屋台の前に来たら香ばしいかおりが食欲を刺激するが、残念ながらお腹はいっぱいだ。

あ~、でも美味しそう。


「そうか。一口だけでも駄目か?」


そんなに物欲しそうな目で、お肉を凝視していたかな?

でも、一口と言われるとものすごく惹かれてしまう。


「いいのですか?」


「もちろん。一緒に食べた方が美味しいだろ?」


あっ、ふふ。


「うん」


ドルイドさんは串肉の2種類をそれぞれ3本ずつ購入。

串肉は結構な大きさなので、ちょっと驚いてしまう。

やはり甘味だけでは、相当足りなかったんだ。


「ドルイドさん、足りない時は足りないってちゃんと言ってくださいよ」


「いや、さっきまでは本当に足りていると思ったんだが、肉の焼ける匂いで何だかお腹が空いて」


甘さに、お腹いっぱいだと錯覚する事とかあるのかな?

まぁでも、この香ばしいかおりはお腹がいっぱいの私でも、ちょっとふらふらしちゃうな。

肉を受け取り、先ほどまで座っていた椅子に戻る。


「どっちを食べる?」


「ん?」


「『ほるす』と『たいん』。柔らかいのは『たいん』らしい」


「えっと、『たいん』の方を」


串を受け取って肉に齧り付く。

肉の旨味とタレの旨味が、甘じょっぱくて美味しい。


「ドルイドさん、これ美味しい」


「よかった。もういいのか?」


「うん。本当にお腹いっぱいで」


「そうか」


串を私から受け取ると、美味しそうに食べだすドルイドさん。

やはり少しお腹に余裕を残しておくべきだったな。


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― 新着の感想 ―
ホルスタインですか。 少しだけお肉固そうですね。 そのうち『ジャー』と『ジー』とか、 『クロゲワ』と『ギュー』とか、 『ジャークロ』とか出てくるんですかね♪
[一言] 要するに、牛肉?(_’
[一言] ほるす・と・たいん・ホルスタイン 笑った
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