231話 1回で十分
ドルイドさんと旅費を貯めようと作った家族口座の残高を確認する。
たった今入金された115ラダルに元から入っていた190ラダル。
合計金額は305ラダル。
……金貨305枚か~。
「さすが仕事が早いな。ん? どうしたアイビー?」
「いえ。何と言うか現実味がなくて」
なんだか、足元がふわふわしている気がする。
もう一度残高を確認する。
……305ラダル……。
「大丈夫か?」
「いえ、いや」
返事を返したつもりが、何を言っているのか自分でもわからない言葉が出た。
とりあえず落ち着こう。
「ふ~、大丈夫。大丈夫」
「まぁ、驚くよな。オール町からハタウ村の間で、100ラダルを貯めたんだから」
こういう時、ドルイドさんと私の金銭感覚の違いを感じるな。
ドルイドさんは短い期間で100ラダル以上のお金が貯まった事を驚いている。
私もそれには驚いているけど、それよりも恐怖を感じている。
手の中に300ラダルを動かせるカードがある事に!
バッグの中身も怖かったけど、カードも怖い。
まぁ、カードにしたら引き落とせる人が限られているからマシなのかな。
絶対にこのカードを落とさないようにしないといけないな。
……駄目だ、やっぱり怖い。
ドローさんが金額を提示した後、少し2人で話す時間をもらった。
そこでハタウ村に来るまでに手に入れた、黒石以外の鉱石を全て売りに出すことにした。
理由はポーションや魔石だけでも気が重いのに、そこに確実ではないが黒の宝珠が加わった。
これ以上肩から提げているバッグの中身に心労を感じたくなかったためだ。
「確認いただけましたか?」
後ろからアジルクさんの声が掛かる。
振り向くと、最初に対応してくれた女性の姿もあった。
「えぇ、仕事が早くて驚きました。ありがとうございます」
「ありがとうございます」
ドルイドさんに続いてお礼を言って軽く頭を下げる。
「こちらこそ、いい取引が出来ました。残りの分は値段が確定次第、お知らせしたらよろしいですか?」
今回売りに出した中に、すぐに値段が決まらなかった鉱石が2種類あった。
何でも、値段の変動が激しいらしく売り手が決まるまで値段が分からないらしい。
「その事なのですが、値段はいくらでも構いませんので売ってください」
「いいのですか?」
「はい。よろしくお願いします」
アジルクさんは少し驚いた表情をしたが、すぐに了承してくれた。
「では、売れましたら金額は振り込んでおきます。書類関係があるのでお金が振り込まれたら、取りに来てください。彼女に書類は渡しておきますので」
「分かりました。今日はこれで失礼します」
ドルイドさんが頭を下げるので、一緒に下げる。
アジルクさんも軽く下げてくれた。
隣の女性が何か驚いた表情をしてアジルクさんを見ていたけど、何だったのだろう?
商業ギルドを出てしばらく歩くと、体から力が抜けた。
やはり緊張していたようだ。
「なんかすごい事になったが、とりあえず終わったな」
ドルイドさんも疲れているようで、声に張りがない。
「そうですね。これから、知らないモノを売る時は1個からにしましょうね」
「あぁ。ただ、こんな事は1回で十分だけどな」
「確かに。それにしても、誓約書なんて良く思いつきましたね」
今回洞窟の鉱石を売るにあたってドルイドさんは、ドローさんとアジルクさんにある事を求めた。
それが売った側の情報を秘匿する事。
「この村の冒険者や貴族に知られたら、煩そうだからな。予防線を張っただけだよ」
ドローさんたちは少し驚いていた。
なぜなら、自慢こそすれ隠す必要は全くないからだ。
理由を訊かれたドルイドさんは『騒がしいのが苦手』と笑顔で答えていたけど、納得していない様子だったな。
次に冒険者ギルドに向かう。
森の中で見つけた捨て場の報告をするためだ。
報告だけなので簡単だったが、対応してくれた人がちょっと切れていて怖かった。
やはり無断で捨て場を作るのは相当駄目なことらしい。
冒険者ギルドを出ると肩から力が抜けた。
「どうした?」
「いえ、お腹すきましたね」
「そう言えば、お昼まだだったな」
そう言えば食べてないな。
朝から服屋にいって、予想以上に時間がかかって。
次のギルドでも、思いのほか時間がかかってしまった。
大通りを宿に向かって歩きながら周りを見る。
やはり目に入るのは色とりどりのスープ。
「食欲は失せる色なのに、気になりますよね」
ちらりと見えた青色のスープ。
隣には薄桃色のスープまであった。
「確かにな、まったく味の推測がつかないから気になるんだよな」
ドルイドさんも気になるようだ。
少し立ち止まって、青色のスープ屋さんの様子を見る。
「……今日は、ちょっと予想より多くお金が手に入ったし」
いや、ちょっとではないと思う。
「そのお祝いって事で」
お祝いに、青色のスープとかちょっと嫌だ。
「……試すか」
「……1個だけ」
「もちろん」
青色のスープを売っている店は今確認できただけで3つ。
味が同じなのかは不明だが、とりあえず目の前のスープ屋で購入してみることにした。
「いらっしゃい」
「1個、頼む」
「はいよ。器は返しに来てくれよ」
「あぁ、値段は?」
「800ダル」
お金を渡し、スープの入った器とスプーンを受け取る。
近くの椅子に座って、2人でまじまじとスープを覗き込む。
「じゃんけんしようか」
「うん」
2人でスープを前にじゃんけんをする。
予想以上に食べる気が失せたせいだ。
「あっ」
負けてしまった。
ドルイドさんの顔を見ると、口元がにやついている。
本気でうれしいようだ。
「どうぞ」
「う~」
仕方ないので、1口スープを口に入れる。
「…………どうだ?」
「ん~」
何だろう、甘ったるい。
まったく推測していなかった味と言うか甘味。
「えっとですね、甘いです」
「甘い?」
「うん」
「甘いだけ?」
「うん」
具は入っているのにスープが甘すぎて、食材の味を一切感じない。
買ったのが1個でよかった。
ドルイドさんにスプーンを渡すと、おそるおそるスープを口にした。
「うっ」
口にいれた瞬間ドルイドさんが呻いた。
どうやら駄目な甘さだったみたいだ。
そう言えば、ドルイドさんはあまり甘い物を口にしなかったな。
食べてもサッパリ系の甘さの物ばかりだ。
「苦手な甘さでしたか?」
「ちょっとな。しかし、凄い味だな」
なんとか頑張って1個のスープを2人で食べ切る。
こんなに頑張ってスープを口に入れたのは初めてだ。
器をお店に返して、大通りを気分転換に歩く。
「あの店のスープが甘かっただけか?」
「どうでしょうか? あの店のスープ屋さんと同じ匂いのスープ屋さんが多いので、もしかしたら他のお店のスープも甘いかもしれませんよ」
食材が違えば、香ってくる匂いは違う。
でも、先ほどのスープ屋さんと似たような匂いをさせているスープ屋が多い。
なのでもしかすると、この町のスープは甘いのが主流なのかもしれない。
「もしそうなら、この村のスープは二度と買えないな」
「そうですね。私もちょっと。あっ、でも宿で出た白いスープは甘くなくて美味しかったですね」
「そう言えばそうだな、特製スープは美味かった。やはり選んだ店を失敗しただけなのか?」
あの店だけなのだろうか?
もう一度スープを試す勇気はないので、宿の人に確かめよう。
あれ?
「ドルイドさんは、前にもこの村にきた事あるんですよね?」
「何度かあるが、毎回2時間ぐらいしかこの村にいないからな。詳しくないんだ」
そうだったのか。
「あっ、そうだ。冒険者のアイテムを売っている店に行きたいが、疲れていないか?」
「大丈夫だけど、何か買うの?」
「あぁ、鍵付のマジックボックスを買おうかと思ってな」
鍵付のマジックボックス?
「大切な物を入れておくのに必要かと思って」
大切な物……見られたら騒がしくなるだろうポーションとかかな?
確かに光っているから間違ってバッグから出してしまうと、目立ってしまう。
鍵付なら、防げるのかな?
「他にももう少し機能が付いたマジックバッグも見てみたいし」
機能の付いたマジックバッグ?
なんだか面白そうだな。
ワクワクしてきた!




