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230話 目標達成!

「すみませんね。お呼び立てしてしまって」


今いる場所は商業ギルドの2階の個室。

私たちの前の机にお茶を置くのは、メガネをかけた男性でアジルクさん。

とても紳士的な方だ。


「いえ」


もう1人、目の前のソファに座っている人は鑑定をする人たちのまとめ役でドローさん。

少しお腹が出た50歳ぐらいの男性だ。

この人、何故か先ほどから鼻息が荒い。


「この、この鉱石は何処で手に入れましたか!」


お茶を飲もうと手を伸ばすと、ドローさんが不意に体を前のめりにして大声で訊いてくる。


「ひっ!」


その迫力に口から小さな悲鳴が上がり、隣に座っていたドルイドさんにしがみ付いてしまう。

ドルイドさんは、そんな私の頭を優しく撫でて落ち着かせてくれる。

彼を見ると、眉間に皺を寄せてドローさんを思いっきり睨みつけていた。


「ドロー、怖がらせてどうする! すみませんね」


アジルクさんが、ドローさんの頭を勢い良く叩く。

いい音がしたので、ちょっと痛そう。


「すまん。ちょっと興奮しちまって」


「いえ、それで鉱石とはどれの事ですか?」


目がちょっと血走っている人を前に、冷静に対応できるドルイドさんはやっぱりすごいな。

それにしてもドルイドさんの声がいつにもまして低い。

ちょっと怒っているみたい。


「こちらの4種類なんですが」


アジルクさんが机に鉱石を並べる。

どの鉱石も森の奥の洞窟で採取した物だ。

黄色の鉱石に水色に茶色が混ざり込んだ鉱石、緑の斑点がある鉱石に一見岩にしか見えない鉱石。


「なぜこれらの鉱石の事を聞くのか、説明いただけますか?」


硬い声で質問するドルイドさん。

さすが元冒険者だけあって迫力ある声だな。

ドローさんもちょっとたじろいでいる様子。


「えっとですね」


「ドローのせいですよ。娘さんを怖がらせるから」


私?

そう言えば、まだドルイドさんにしがみ付いたままだった。

ちょっと恥ずかしくなって座り直す。


「大丈夫か?」


「うん。ありがとう」


私が座り直すと、何故かドローさんとアジルクさんがホッとした表情を見せた。


「えっと、鉱石の事ですが、この4種類はハタウ村を守る神の住処にある鉱石だと言われているんです」


うわ~、凄い鉱石を持って来てしまった。

と言うか住処?

もしかして森の奥の洞窟のこと?

もしそうなら無断で持って来てしまった事になるな。

でも、サーペントさんは怒った様子はなかったけど……。


「すみません。我々はこの村の守り神について詳しくは知らないのですが、住処とは洞窟の事ですか?」


ドルイドさんの質問にアジルクさんが頷く。


「そうです。森の最奥にあると言われています。何度か探したのですが、魔物が多くたどり着けませんでした」


そんなにあの洞窟、森の奥にあったかな?

足下ばかり気にしていたから、覚えていないな。

それに魔物?

確かに居るにはいたけど、みんなシエルが追い払っていたからな。

どんな魔物がいたのか知らないな。


「なるほど」


ドルイドさんが神妙に相槌を打っている。

どうするのだろう。

下手な事は言えないよね。


「すみませんが、その洞窟が何処にあるのか私にも分かりません」


「えっ、ですがこの鉱石は」


「途中で道に迷いまして、気が付いたら洞窟に辿りついていました」


んっと、口を挟まない方がいいだろうな。

ドルイドさんが何を言っているのか不明だし。

表情が動かないように注意だけしておこう。

私の様子で嘘だとばれたら、大変だ。


「迷った?」


「えぇ、途中で羅針盤を落としてしまいまして」


羅針盤は、方角を指すアイテムで旅には必需品の1つだ。

ただ、私は持っていないけど。

ドルイドさんの羅針盤を見せてもらったが、ハタウ村に来る旅では1度も活躍しなかったな。

シエルの後について行く旅では、出番がない。


「羅針盤を! それは大変だったでしょう」


「えぇ、途中で村道を外れて少し薬草を採りに行ったのですが、そこで迷ってしまって」


薬草を採ったのは本当。

これもシエルが誘導してくれた森の奥なのだけど。

珍しい薬草の宝庫で、ついつい時間を忘れていっぱい採ったな。

採った薬草の半分ぐらいは、乾燥させて調味料として使ってます。

あっ、残った薬草をギルドで売る予定にしていたのだけど、すっかり忘れていたな。


「この子が……アイビーがいたので焦りました。6日ほど森をさまよった時に洞窟を見つけたんです」


「6日も! それは大変心配でしたね」


「えぇ、何処にいるのか全く分かりませんでしたから」


ドルイドさん、演技が上手いな。


「では見つけた洞窟で鉱石の採掘を?」


「まさか、洞窟の奥になんて怖くていけませんよ。入口の近くで夜を明かしたんですが、その近くに落ちていたのを拾ったのがそれらの鉱石です」


洞窟の奥にガッツリ入ったよね。

シエルが色々誘導してくれたし、途中でソラたちも自由に探検していたし。

後でドルイドさんから聞いたけど、洞窟はかなり危険な場所で絶対に自由行動は駄目らしい。

私もソラもシエルも、ドルイドさんの話にちょっと驚いたんだよね。

その様子を見たドルイドさんは、項垂れていたけど。


「では、どのようにこの村に!」


ドローさんがまた興奮し始める。

やっぱりちょっと怖いな。


「洞窟の近くに大きな動物か魔物が通った痕跡を見つけまして、最後の手段だと思いその痕跡を辿ったら、ハタウ村とオール町の中間あたりに出ました。あの時は本当にホッとしましたよ」


痕跡?

そう言えば、冒険者の人たちが守り神の痕跡が見つかったとか言っていたな。

それを利用したのか。

凄いな。


「洞窟の近くから村道に痕跡が、おい」


「駄目です」


ドローさんが何か言う前にアジルクさんが止めた。

それにドローさんの表情が歪む。


「なぜだ? 守り神の住処が分かる可能性があるのに」


「今年の冬は危険すぎます。既にこの寒さで死者が出ているんです」


えっ、死者が?

確かに、異様な寒さだもんね。


「くっ、しかし。痕跡が消えてしまうかもしれない」


「既にないと思いますよ。分かっているでしょう」


アジルクさんが、ため息をつく。

痕跡がない?

ドルイドさんの話が本当なら、まだ痕跡は消えるほど時間が経っていないと思うけどな。

木に付いた痕跡だと、数ヶ月残っていることもある。

まぁ、話は嘘だからそもそも痕跡はないのだけど。


「なぜ、痕跡がないと? まだ残っていてもおかしくないですよね?」


ドルイドさんも不思議に思ったようだ。


「守り神の痕跡は2日ぐらいで消えてしまうんですよ」


2日で?

そうなんだ。


「そうでしたか。では俺達は運がよかったんですね」


「そうなりますね」


「ところでこの鉱石は買い取ってもらえないのでしょうか?」


あっ、守り神の住処の鉱石だったら無理なのかな?

もしそうなら予定が狂うな。


「買い取ります! というか、もしまだ他にもあるなら全て買い取らせてください」


ドルイドさんの言葉にドローさんがバンと机に手を置いて断言する。

そして頭を下げる。

なんだかドローさんは1つ1つの行動が大げさだな。


「えっと、あと少しならあります」


ドルイドさんはドローさんの迫力にちょっと引いている。

先ほどとは反対だな。


「ありがとうございます。あとどれぐらいありますか? いや~、またこの鉱石を目にすることが出来るとは、素晴らしい!」


ドローさんの気分が高揚したのか、頬が赤くなっている。


「お渡しする前に、それぞれの金額を教えてもらえますか?」


「ん? あぁえっとですね。右からそれぞれ1個2ラダル、1ラダル、1ラダル、3ラダルです」


やっぱり5個ずつではなく2個ずつにすべきだった。

金額は黄色の鉱石が1個2ラダル。

水色に茶色が混ざり込んだ鉱石が1個1ラダル。

緑の斑点がある鉱石が1個1ラダル。

一見岩にしか見えない鉱石、この中で一番安そうなのに1個3ラダル。

全て5個ずつあるから35ラダル。

目標金額達成、早かったな。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 677話に一人旅をしている頃に 羅針盤を使っていたとあるので 持ってない、と云うのが気になりました。 [一言] いつも更新を楽しみにしています。
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