226話 爆睡です!
ん~、何か音が聞こえる気がする。
何だっけ。
コンコン
「ドルイドさん、アイビーさん、大丈夫ですか?」
大丈夫?
大丈夫だけど……誰の声だろう……。
目を開けると、見覚えがあるようでないような部屋。
「どこ、ここ?」
コンコン
音?
えっと……あっ、ハタウ村の宿だ。
という事は。
「大丈夫ですか?」
あの声は宿の店主さんだ。
「大丈夫です」
ベッドから起きて、急いで施錠を外して扉を開ける。
廊下には店主さんと旦那さん。
2人が私の姿を見てホッと安心した表情を見せた。
えっ?
何か心配することでもあったのかな?
「よかった~。2日間、まったく姿が見えないから心配していたんですよ」
「すみません。ありがとうございます」
ん?
2日間?
「えっと、昨日宿に着いたはずでは?」
昨日の夕方頃、宿について、お風呂に急いで入って軽く食べて寝たはず。
で、今日だから……ん?
「いいえ、2日前ですよ」
2日前?
窓を見ると、夕方だと分かる。
つまり丸々2日寝ていたということ?
凄い、と言うか寝過ぎだ。
あれ、ドルイドさんは?
私が使っていたベッドの隣のベッドに膨らみが。
まだ寝てるのか。
「寝ないで3日間歩き続けてきたと言うから、ゆっくり寝かせた方がいいと思ったのだけど、さすがにお腹が空く頃だと思ってね。お願いはされていないのだけど、軽めの夕飯を用意しようかと思って。あっ、これは今日の朝食の代わりだから代金は要らないからね」
なんだかすごくいい宿だな。
あれ、そう言えば旦那さんがいつの間にかいなくなっている。
先に戻ったのかな?
「ありがとうございます。2人分でお願いします」
「よかった。30分後ぐらいに用意しておくわね。楽しみに待ってて」
「はいっ!」
店主さんは嬉しそうに鼻歌を歌いながら1階に下りていく。
それを見送ってから、部屋に戻り腕を伸ばす。
まさか丸1日以上寝て過ごすなんて。
ちょっと驚きだ。
寝ていたベッドを見ると、ソラとフレムが起きてじっと私を見つめている。
「ごめんね。お腹が空いたよね」
1日ご飯抜きにしてしまった。
急いでポーションが入っているバッグを開けて2種類のポーションと剣を出す。
出したすぐから食べだす2匹。
かなりお腹が空いていたようだ。
「本当に、ごめんね」
2匹は食べながら揺れるという器用な反応を返してくれた。
ちょっと多めにポーションをバッグから出して並べておく。
シエルは部屋の中を探検中の様だ。
私が寝ている間に、していなかったのだろうか?
「う゛~」
不意に後ろでうめき声? がした。
見ると、ドルイドさんが起き出したようで布団が動いている。
しばらくすると、欠伸をしながら起きあがった。
「おはよう、早いな」
いや、早くはないよ。
「おはよう。ドルイドさん」
「んっ? もう食事?」
「うん」
ドルイドさんは窓を見て首を傾げている。
宿に着いて寝たのが夕方頃、なのに起きても夕方。
「もしかして丸1日寝てたのか?」
「いえ、丸2日です」
「ん? ……2日! えっと、本当に?」
「うん。2人揃って丸々2日間爆睡だったみたい」
「そうか。そんなに疲れていた感覚はなかったのだが」
私も疲れが溜まっている感覚はなかった。
おそらくグースのお肉のお蔭で、体が軽かったからだろうな。
とはいえ3日も徹夜をしたら、丸2日間寝ていてもおかしくないか。
「店主さんたちが心配して声をかけてくれたんですよ。あっ。夕飯を用意しておきますって」
「夕飯?」
「今日の朝食を食べなかったからその代わりにどうぞって」
「ありがたいな」
「この宿を教えてくれた、あの女性の門番さんにお礼を言いたいね」
「そうだな」
ドルイドさんがベッドから立ち上がって体を動かす。
「寝過ぎだな。体中がいたい」
「私も体がぎしぎしいってる」
ドルイドさんが腕を伸ばしたり足を伸ばしたりする柔軟運動をし始めたので、私も真似てみる。
丸2日寝ていたためか体が硬く伸ばすと痛くて、でも気持ちがいい。
「さて、顔を洗ってそろそろ1階に降りようか」
「うん」
「ん~、この格好ではちょっと駄目だな、着替えるか」
「あっ、洗濯しないともう服が無いや」
「俺もだ」
なんとか綺麗に見える服を探して着替える。
明日は洗濯しないとな。
ソラとフレムは食事が終わると、シエルと一緒に部屋の中を探検しだした。
「俺達が寝ている間にしていなかったのか?」
「たぶん。一緒に寝ていたのかも」
「ありえるな。お~い、ご飯を食べてくるから静かにな」
ドルイドさんの声に3匹が揺れる。
「ドルイドさん、声が洩れないようにするマジックアイテムがありましたよね?」
「あぁ、後で部屋に設置しないとな。あの3匹の声が聞けないと寂しい」
部屋をしっかりと施錠してから1階へ降りる。
「おっ、来たな。席は空いてるところに座ってくれ。すぐに持って来る」
「こんばんは。先ほどはありがとうございました」
「ハハハ、気にするな。疲れはとれたか?」
「はい」
旦那さんはちょっと強面だけど、おおらかな人って感じだ。
食堂を見渡すと、親子連れが3組。
若い夫婦が2組。
格好から全員冒険者だろう。
空いてる席に座ると、しばらくして夕飯が運ばれてくる。
「どうぞ。今日はハタウ村名物の特製スープと白パンだ」
白パン!
やった、これはうれしい。
「珍しいですね。白パンを出すなんて」
「奥さんがパン好きなんだよ。しかもここの白パンは奥さんの手作りだから特別だ」
「えっ。このパン、店主さんの手作りなんですか?」
「あぁ、凄いだろう」
旦那さんがちょっと恥ずかしそうに、でも嬉しそうに奥さんのことを自慢する。
「凄いです。白パン大好きなので、凄くうれしい」
「おっ、期待していいぞ、奥さんのパンは美味いからな。じゃ、ごゆっくり」
旦那さんは、凄く店主さんを愛しているんだろうな。
奥さんと言うたびに嬉しそうだ。
仕事に戻る旦那さんを見送ってから。
「「いただきます」」
白パンを食べる。
ふっくらしていてしっとりしていて、本当に美味しい。
「美味しい」
「美味いな」
次にハタウ村名物の特製スープ。
白いスープで、少しとろみがついている。
大き目に切った野菜とお肉が入っていて、美味しそう。
スープを飲むと、野菜の甘みとお肉の旨味が出ていて本当に美味しい。
どうやら『あやぽ』は、料理上手な宿でもあるようだ。
本当にこの宿を推してくれたあの門番さんには、しっかりとお礼を言わないとな。
綺麗に全てを食べ切ってから、部屋に戻る。
「ドルイドさん、ベッドのシーツとか勝手に洗っていいのですか?」
「長期滞在の場合は、その棚の中にある物を自由に使っていいんだが、そこにシーツがあれば洗濯は俺達が自由にしていい、無い場合は宿の人に言って換えてもらうんだ」
棚にシーツ?
棚を開けると色々な物が詰まっている。
えっと、大き目のタオルが6枚、小さいタオルが10枚。
他には、コップにこれは……お茶かな?
で、シーツ……シーツ。
「あった!」
「あった? だったら、シーツは俺たちが勝手に洗っても問題になる事はない。ただし、お願いして洗ってもらう事も出来るはずだ。ただ、宿によっては代金が掛かる場合があるから確認してからだな」
「了解! 明日は洗濯三昧だ。服の汚れがシーツに付いちゃったし」
「体は洗ったけど、服の替えはなかったもんな」
途中で洗濯をする予定だったが、寒さのため洗濯より村を目指すことを優先した。
が、朝の冷え込みで霜がおり、服が湿ったため着替えなければならずいつの間にか全て使用済みの服になっていた。
ベッドに入る前に頑張って払ったが限界があり、ベッドのシーツを汚してしまった。
明日は朝から洗濯だ!
その前に、今日これから寝られるかな?