222話 体調管理
ふっと意識が浮上する。
目を開けると、薄暗く自分が何処にいるのか分からない。
寝ている状態で周りを見るが、暗すぎて良く分からない。
なんとか目を凝らして見えたのは、ごつごつした岩の壁。
「洞窟?」
ゆっくりと起き上がると、少し離れた所にマジックアイテムの灯りが確認できた。
「何処だろうここ? あれ? そもそもどうして私寝ていたんだっけ?」
えっと確かハタウ村に向かって村道を歩いていて。
それで、ソラとシエルが競っているから……なんだっけ?
おかしいな、記憶があやふやだ。
「てりゅ~」
ん?
フレムの声がしたような気がする。
周りを見渡すが、残念ながら暗すぎて見つけられない。
聞き間違いだったのかな?
「フレム?」
「てりゅ~」
あっ、やっぱりフレムだ。
声を頼りに視線を向けると、うっすらとその存在を確認することが出来た。
と言っても輪郭だけなのだけど。
「おはようフレム。此処はどこだろう。知ってる?」
私が声をかけると、コロコロと転がって私のもとまで来る。
それで、ようやくその姿をしっかりと見ることが出来た。
フレムをそっと抱き上げて、転がった時に付いた土などを払って膝にのせる。
膝の上のフレムはプルプルと揺れて嬉しそうだ。
あれ?
そう言えば、朝から感じていた体の重さが消えているような気がする。
寝不足だったのかな?
腕を伸ばしながら体の調子を見ていると、暗かった空間が明るくなる。
「起きたか?」
声に視線を向けると洞窟の出入り口と思われる場所から、灯りを持ったドルイドさんが入ってくるところだった。
「はい。えっと私どうして寝ていたの?」
色々考えたがやはり思い出せなかった。
こういう時は訊くのが1番。
「熱が出たのを覚えているか?」
熱?
そう言えばドルイドさんと熱の話をしていたような。
確か、そうだ私に熱があるとか……あっ、もしかして。
「話をしていると熱が上がったのか、急に倒れたんだよ」
やっぱり!
「ごめんなさい。迷惑かけて」
朝から体が重かったのは、熱のせいだったのか。
「謝るな、誰だって体調を崩す時はあるから」
「うん。ありがとう」
ドルイドさんがスッと手を額に当てる。
ぽかぽかした暖かさが伝わる。
「熱は引いたな。しんどくないか?」
自分でも額を触って熱を確かめる。
掌から伝わる熱は、平常通りだ。
「大丈夫。あの、私ってどれくらい寝てたかな?」
ここ数日の朝の冷え込みかたから、急いだ方がいいかもしれないと話をしていたのに。
「2時間ぐらいだと思う」
「2時間……よかった」
私がホッと胸をなでおろしていると、ゆっくり頭が撫でられる。
見るとドルイドさんが苦笑いしている。
「旅の予定は余裕を持って考えているから焦らなくて大丈夫。それと今日と明日はここでゆっくり体を休めようと思う」
「でも」
「大丈夫。シエルのお蔭で、ここまでくる日数が知らない間に短縮されていたのは覚えているだろう?」
「うん」
森の中を突っ切ったからなのか、旅に出る前に立てた予定より早く、折り返し地点に到着していることは知っている。
でも、私のせいで。
「アイビー」
「はい」
「もう少し気持ちに余裕を持って旅をしよう」
余裕を持って?
「たぶん1人で旅をしていた癖が抜けていないんだろうな。1人で何でも背負い込もうとしている」
そうかな?
「俺やソラたちに、もう少し頼ってくれてもいいと思うぞ。それと旅の予定は狂うのが当たり前だから、気にしないこと」
頼っていると思うけど。
それより旅の予定は狂うモノなの?
「旅は自然の環境に影響を受けやすいからな。まぁ、それも見越して予定を立てるんだけど予定通りの方が少ないから」
そうなんだ。
でも、今回は私のせいだし。
「すみません」
「謝る必要は無い。ん~、それでも気になるなら体の調子が少しでもいつもと違ったら教えてくれるか?」
「えっ?」
体の調子がおかしくなったら?
「朝起きてちょっと喉が痛いとか、頭が重く感じるとか」
「そんな事でいいんですか?」
「あぁ、俺も体調がおかしかったら相談する、な」
相談?
「休憩を増やすとか、その日はそれ以上体調を悪化させないために、休憩日にするなどの対策だな」
「……分かった」
えっと、つまり今日のように体が重たく感じたら相談するって事だよね。
でも、相談してまた休憩日になったら。
「アイビー、体調を悪化させる方が大変なことになるから、忘れるな」
見透かされた気がする。
「はい」
そう言えば、1人の時は体調がどんなに悪くても移動し続けていたな。
だって、森の中でゆっくり休憩するとか危なくて出来ないし。
それだったら移動を続けて、少しでも早く村や町の広場を目指した方がいい。
その方がゆっくり出来るから。
「そうだ、今回の熱。フレムの作ったポーションを1口飲んだらあっという間に治ったぞ。やはりあの光るポーションの効果は凄いな」
フレムのポーション。
あの赤い奴か。
「フレム、ありがとう」
「てりゅ~」
フレムをそっと撫でると嬉しそうにプルプルと揺れている。
可愛いな。
「ドルイドさん、ここは何処ですか?」
洞窟の中にいるため、場所がさっぱり分からない。
「アイビーが倒れた場所から、それほど離れていない場所だ」
話を聞くと倒れた私をアダンダラに戻ったシエルが運んでくれたらしい。
そう言えば、シエルの姿もソラの姿も無い。
何処にいるんだろう?
「あの、シエルとソラは?」
「それがいつの間にか2匹ともいなくなっていて。フレムに聞いたら狩りに行っただけらしいんだが」
そう言えば、シエルの前の狩りから3日目か。
そろそろシエルのお腹が空く頃だな。
「フレム」
「てりゅ~」
「シエルの狩りに、ソラも一緒に行ったの?」
「てっりゅりゅ~」
本当なのか。
今まで一緒に狩りに行くことなんてなかったのに。
大丈夫かな?
「あの2匹なら大丈夫だろう。それよりもう少し寝ていた方がいい」
「大丈夫だよ。体も軽いし」
「そうか? 無理はするなよ」
「うん」
なんだか前回の熱で倒れた時も思ったけど、心配されるのってこそばゆいな。
2人と1匹でゆっくり話をしていると、洞窟の外から何か物が落ちる音がした。
「なんでしょうか?」
あっ、焦って言葉が元に戻ってしまった。
「言葉も無理しなくていいから。それより見てくるな」
「私も行きます……行く!」
膝の上にいたフレムを、毛布の上に置いて立ち上がる。
「大丈夫か? ふらついたりしないか?」
立ち上がった私の背中を支えながら、ドルイドさんが訊いてくる。
そう言えば、彼はものすごく心配性だった。
……当分の間、旅の休憩回数が増えるかも。
「大丈夫です!」
「本当に?」
「うん。本当に」
目をじっと見て伝えるが、心配な雰囲気が全く消えない。
これは確実に休憩回数が増えるな。
あまり増やさないように説得しないと。
背中を支えられながら、洞窟を出る。
「にゃうん」
「ぷっぷぷ~」
洞窟から出るとソラとシエルが嬉しそうに迎えてくれる。
「よかっ……」
2匹の姿にホッとして声をかけようとするが、視界に入った物体で体が固まる。
ソラとシエルの後ろに大きな何か。
毛が見えることから動物か魔物だと思うけど。
えっ、狩りの成果を持ってきたの?