220話 自慢の仲間
「綺麗ですね」
「そうだな」
「「…………」」
目の前に並ぶ、光り輝く青のポーションと赤のポーション。
捨て場でソラとフレムの食料を確保中に、2匹が作り出したポーションでどちらも5本ずつある。
そしてフレムの周りには赤い魔石がごろごろ。
「ぷっぷ~」
「てっりゅ~」
2匹のようすはちょっと自慢げ?
「にっ」
反対に、何故かシエルは少し不満げに見える。
何なんだ?
3匹の様子を見比べて首を傾げる。
いつもは仲がいいのに、喧嘩中なのかな?
「もしかして、悔しかったのかな?」
「悔しかった?」
誰がだろう?
「旅を始めてからずっと、シエルが先頭切って色々してくれただろ? 洞窟では収入源まで見つけてくれたし」
確かに。
そのお蔭でバッグの中身がすごい事になっている。
「ソラとフレムは自分達も役立つところを見せたかったのかもな。だからあれ」
ドルイドさんが指すのは光るポーション。
そして得意げな様子のソラとフレム。
「役立つところ……」
ソラは寝床を見つけてくれるし、フレムは魔石を復活させてくれる。
充分なのに。
「まぁ、臆測だけどな。でも3匹の様子を見ると、なんとなくそんな気がする。今度はシエルが悔しそうにしているみたいだから、次はシエルか?」
もう一度3匹を見る。
ありえるかもしれない。
「ドルイドさん、今ソラとフレムを褒めたらどうなると思いますか?」
「確実に森の奥へ誘導されるだろうな。もしくはシエル自身が、森の中からレアを持って来るかも」
それは駄目だ。
これ以上、頭が痛くなる要素を増やしたくない。
肩から提げているバッグの中身だけで十分だ。
まぁ、光っているポーションは足されることが決定してしまったけど。
これ以上は本当に勘弁してほしい。
「説得しないと駄目ですね」
「そうだな」
ドルイドさんと視線が合うと、2人して苦笑いしてしまう。
ソラもシエルも少し頑固なところがある。
フレムは2匹ほど頑固ではない……と思う。
まだ少し性格を把握しきれていない。
だが大丈夫だろ、たぶん。
そう信じたい。
どう言えばいいのかな?
悪い事をしているわけではないし。
正直に『もう充分だから要らない』と言った方がいいのか?
それであの状態の3匹を、落ち着かせることが出来るだろうか?
困ったな、良い案が思い浮かばない。
どうしよう。
それにしても、贅沢な悩みだな。
収入源となるモノを、要らないと言うのだから。
肩から提げているバッグを見る。
ドルイドさん曰く、このバッグだけで金貨がいっぱいもらえるだろうと教えてくれた。
……何度考えても怖い。
そんな物を肩から提げているとか、本当に怖すぎる。
これ以上は精神衛生上良くない。
最近は朝起きたらまず1番にバッグを確認してしまうぐらい、落ち着かないのに!
頑張って止めよう。
「えっと、ポーションをありがとう」
色々考えたけど、やはりお礼は必要だと思った。
だって2匹は悪い事をしているのではなく、旅に必要な物を生みだしてくれたのだから。
ただそれが、最上級を超える物だってだけで。
まぁ、そこが問題なのだけど。
「ソラ、フレム、シエル。いろいろ手助けしてくれてありがとう。旅の助けになるモノも沢山採ってくれたり生みだしてくれたり、本当に感謝しています」
私の言葉に3匹はそれぞれ嬉しそうな反応を示す。
良かった、ちゃんと伝わっている。
「でね、もう充分なんだ」
どう言えばいいんだ!
あ~シエルが不思議そうに首を傾げてしまった。
「えっと、バッグの中には十分な物があって、もう必要ないかな。だから採るのも生みだすのも必要がなくて」
あっ、フレムが不満そう。
やはり君も頑固なの?
「えっと……ドルイドさん」
説得ってどうやればいいのかさっぱり分からない。
「なんて言えばいいんだろうな? つまり、旅費にするには十分すぎるぐらいもう集まっているんだよ。これ以上は今は必要ない状態。だから鉱物などを採るのも、ポーションを生みだすのも控えてほしいんだ」
「ぷ~」
ソラが不満げに鳴く。
他の2匹も同じだ。
フレムの視線が私とポーションとを行き来している。
もしかしたらもっと作りたいのかな?
それは本当に止めてほしい。
それにしても今分かった事だけど、私もドルイドさんも説得が下手だ。
ここは正直に気持ちを話した方が伝わるかもしれない。
「あのね、私は皆とのんびりと旅をしたい。その為にはあまり目立つ行動はしたくない。ソラもフレムもレアスライムで、かなり珍しい力を持ってるの。誰かに見られたら騒がれる可能性がある。それはシエルも一緒。アダンダラはその存在だけでもかなりレア。それがテイムされているとなったら相当な話題になる」
「もし、目を付けられたら冒険者たちが押し寄せるだろう。王都から使者が来る可能性もある。そうなると皆でのんびりと旅を続けることは無理になる」
ドルイドさんが説明を続けてくれたけど、王都から使者?
えっ、何それ?
ドルイドさんから飛び出した言葉に驚いて、彼を凝視してしまう。
「ぷ~」
「てりゅ~」
「にゃうん」
3匹の寂しそうな声に慌てて視線を戻すと、困った表情というか情けない雰囲気が伝わってくる。
もしかしたら伝わったのかな?
「採るのも、生みだすのも加減をしてくれる?」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「にゃうん」
良かった。
本当によかった。
「ありがとう。今まで皆が私にくれたモノは少しずつ売って旅費にするね」
その言葉に嬉しそうに揺れるソラとフレム。
尻尾が暴走しているシエル。
「何とか分かってもらえたな」
「はい。って王都からの使者ってなんですか?」
「ソラの力がばれたら、間違いなく王都から遣いが来る」
「そうなんですか?」
「あぁ、王から直々の手紙をもってな」
「うれしくないです」
「ぷっぷ~」
ソラを見ると少し不安そうだ。
「大丈夫だよ。ソラは私がテイムしているんだもん、ずっと一緒だよ」
「ぷっぷぷ~」
周りを見ると暗くなりつつある。
「さて、急いで寝床を探してほしいな? ソラ?」
「ぷっぷぷ~」
「お~ソラ頼もしい。今日もよろしくな」
ソラが勢いよく周りを飛び跳ねている。
どうやらドルイドさんの言葉がうれしかったようだ。
「てりゅ~」
フレムを見ると、ソラをじっと見て小さな声で鳴いている。
「フレム?」
「りゅ~」
何とも力の無い鳴き声が返って来た。
ん~、どうしたのかな?
ソラとフレムを交互に見る。
あっ、もしかして。
「行こうか?」
ドルイドさんの声にフレムを抱き上げ、ソラの後を追う。
「フレム。ソラは寝床を探すことが出来るけど、フレムにはポーションを生みだすことも魔石を復活させることも出来る、だから自分とソラを比較して落ち込まないで。フレムにはフレムの良い所があるんだから」
「りゅ~?」
フレムが腕の中で私を見上げている。
それを優しく撫でる。
「ソラもシエルもフレムも皆、私の自慢の仲間なんだよ。世界中の人に自慢したいぐらい」
「てりゅっ」
あっ声に元気が出てきた。
「自慢したいけど、皆でゆっくり旅を続けたいから内緒なんだよな」
ドルイドさんが残念だと、私の腕の中にいるフレムの頭をそっと撫でる。
「そうなんですよ。本当は声を大にして私の自慢の仲間たちと叫びたいのに」
ハハハとドルイドさんに笑われる。
でも、自慢したいのは本当の話。
だれかれ構わず、私の自慢の仲間と紹介したいと思ってしまう。
まぁ、無理だけど。
それにしても、役立つところを見せたいなんて……。
私の接し方が悪かったのかな?
後でドルイドさんに相談してみよう。