219話 中間地点
「お~、道が見えた」
森の奥にあった洞窟を出てから7日目。
ようやく村道が見える場所まで来ることが出来た。
ドルイドさんは、かなりうれしそうだ。
そんなに森の中は不安だったのだろうか?
「とりあえず、今いる場所が何処か確かめる必要があるな」
ドルイドさんがマジックバッグから地図を取り出す。
「何か目印になるモノが無いか探すね」
「あぁ、頼む」
地図で場所を確定するためには、目印となるモノを探す必要がある。
特徴的な大きな岩や、川、湖などが理想的。
それ以外にも、珍しい花や実を付ける巨木なども目印として利用される。
見通しの良い場所を探して周りを確認する。
何度か場所を移動して挑戦するが、見つけられない。
もしかして何もないのかな?
「ドルイドさん、何もないのですけど」
「そうか」
ドルイドさんの返答に首を傾げる。
今の情報では場所は特定できないと思うのだけど、特に焦っているとか困っている雰囲気は感じない。
どうするのだろう?
「ここか、ここか? いや、ここは遠すぎるからないか?」
凄いな、私の情報で場所を数ヶ所に絞っている。
地図を見ると、ドルイドさんの指は順番に3ヶ所を指していく。
そして何かぶつぶつと言っている。
ん~、小さすぎて聞こえない。
指した場所を見ると、どれも地図上では何もない場所のようだ。
目印となる石の情報や川の情報などが一切書き込まれていない。
なるほど、目印の無い場所を探したのか。
「2つの場所まで絞れたけど、どちらかは不明だ」
どうやってこの2ヶ所に絞ったのだろう?
「おそらくオール町に近い村道の方だと思う。遠い方の場所は距離を考えると難しい気がする」
地図でオール町を確認して、ドルイドさんが示す2ヶ所を確認する。
オール町に近い村道だと、おそらく余裕で来れる位置だ。
もう1つ指した村道は町を出てからの日数を考えると、少し無理がある位置だ。
「どちらの道も、少し歩けば目印があるみたいですね」
近い方の村道には川が、遠い方の村道には不思議な花が1年中咲く巨木があるらしい。
「村道を歩いてとりあえず目印を探しましょうか?」
「そうだな、場所だけ確実に掴んでおきたいから、そうしようか?」
ドルイドさんが地図をバッグへとしまう。
「では、行こう」
ドルイドさんの言葉に、シエルがアダンダラの姿からスライムに変化する。
村道を歩くときは、見られた場合の事を考えてお願いしておいたのだ。
「ありがとう」
「にゃうん」
スライムからアダンダラの可愛い声。
まだ少し違和感を感じてしまうな。
周りに人がいないか気配を探る。
魔物の気配は微かにするが人の気配は全くしない。
これだったらソラたちをバッグに入れる必要はないかな。
ソラとシエルに声をかけてから、ドルイドさんと一緒に村道を目指す。
村道に着いたらもう一度周りを確認。
やはり目印になるようなモノはなかった。
ハタウ村へ向かって歩く。
やはり整備されている道は歩きやすいな。
ソラとシエルも飛び跳ねやすいようで2匹でずっと遊んでいる。
フレムを起こしてみたが、大あくびを数回繰り返して寝なおしてしまった。
フレムは運動不足から病気になったりしないかな?
少し不安だ。
村道を歩き出してから3時間ほど、少しずつ暗くなり始める時間。
目の前に大きな巨木がある。
しかも見たことがない花が咲いている。
「……川ではなくて花ですね」
「あぁ、何時の間にあの距離を移動したんだ?」
オール町からこの花の咲く巨木まで寄り道を考えて25日程を考えていた。
今日は、町を出てから18日目。
「えっと、とりあえず場所の確認が出来たね」
「そうだな」
この場所は丁度、オール町とハタウ村の中間地点。
旅もあと半分。
「さて、そろそろ寝床を探そうか」
ドルイドさんの言葉に彼の頭の上のソラが嬉しそうに揺れる。
「ソラ、暴れるな。危ないぞ」
ドルイドさんの言葉に揺れるのを止めて、ぴょんと飛び降りるソラ。
そのまま、私たちの周りをピョンピョン飛び跳ねている。
随分ご機嫌だ。
「ソラ、寝床を探してもらってもいい?」
「ぷっぷぷ~」
ご機嫌のまま寝床を探し始めるソラ。
相変わらず迷いがない。
「さて、見失う前に行こう」
「はい」
ご機嫌のためいつもより飛び跳ね方が激しいソラの後を追う。
ときどき飛び跳ねすぎて木に激突しているが、大丈夫なのかな?
「ん? ソラ待った! 捨て場がある」
ドルイドさんの言葉に視線をソラから、ドルイドさんが見ている方向へと移す。
確かに結構な大きさの捨て場がある。
「冒険者どもの捨て場だな。こんな場所に作る馬鹿がいるとは」
ドルイドさんが大きなため息をつく。
「森の中で結構な数の捨て場を見かけましたけど、駄目なんですか?」
まぁ、無断で捨てているから駄目なんだろうけど……。
「駄目だな。捨て場はなるべく町や村の近くに作る。重要なことなんだ」
そう言えば、冒険者たちがつくる捨て場も村や町の近くに多かった。
まったく違う場所にある捨て場もあったけど。
「捨て場にはいろいろな物が捨てられるだろう?」
「はい」
捨て場の近くまで来て、捨ててあるモノを見る。
確かに多種多様な物が捨ててある。
まぁ、町や村から遠いため冒険者が出すごみの方が圧倒的に多いが。
「あれ、分かるか?」
ドルイドさんが差す方向を見る。
破れたマジックバッグが捨てられている。
「マジックバッグですよね?」
「そうだ。あれには少量だが魔力が糸に編み込まれている」
マジックアイテムを動かす力は魔力。
それは旅をしていれば必ず耳に入る情報のひとつだ。
「はい。知っています」
「破れていても魔力はまだあそこに存在している」
糸に編み込まれているならそうだろう。
「その魔力を吸収する魔物がいるんだ」
魔力を吸収する魔物ってどういう事だろう。
「どの魔物も魔力を吸収するのではないのですか?」
「ん? あぁ、グルバルみたいにか?」
「はい」
「あれは溢れた魔力が多かったから、どの魔物でも吸収する事が出来たんだ。残っている魔力が少ない場合は通常の魔物では吸収できない」
そうなんだ。
まだまだ、知らないことが多いな。
「魔力を吸収するだけなら問題ないのだが、凶暴化したり突然変異する事もある」
「凶暴化ってグルバルみたいに? それに突然変異?」
それは怖い。
「あぁ、特に怖いのは突然変異だ。姿は知っている魔物なのに、力が倍増していたり使える魔法が変わっていたり、対処に時間がかかることがある」
「ゴミになったマジックバッグにそんな力が……」
「と言っても、あんなバッグ1個に入っている魔力では変異したりはしないが、ゴミは集まってくるからな」
凶暴化も突然変異もかなりの魔力が必要となるのか。
「だから、ここのように管理されていない捨て場は危険なんだ」
確かに、この捨て場にはかなりの量のゴミがある。
もしもすべてに少量の魔力が含まれていて、全部を吸収できたとしたら結構な魔力量になるはず。
「どれくらいの魔力が集まったら、突然変異するのですか?」
「色々な者たちが研究しているみたいだけど、まだ詳しくは分かっていないよ。だからギルドでも、捨て場には警戒している。数年前に突然変異した魔物に、村が1日で壊滅させられたこともあるしな」
そんな事があったのか。
「冒険者ギルドに登録する際に、ちゃんと説明を受けているはずなんだが。はぁ」
人は誰にも見られていないと思ったら、楽な方法を選んでしまう事がある。
だからここに捨て場がある。
知らなかったとはいえ、私も冒険者が作った捨て場にゴミを捨てた事がある。
これからは気を付けないとな。
「アイビー、目印になるモノがあるかな? ハタウ村のギルドに報告したい」
回りを見て少し離れた場所に川を発見。
ドルイドさんは地図に捨て場の情報を書き込んでいる。
「少し離れた所に川があるみたい」
「ありがとう。ん? ソラが捨て場の問題に挑戦中みたいだ」
ドルイドさんの視線を追うと、嬉しそうに剣を食べているソラ。
相変わらず、頭に剣が刺さったように見える食べ方だ。
「よし、書けた。とりあえず、ソラたちの食料を確保するか」
「はい」