218話 サーペントさん
「ドルイドさん、この巨大なヘビの種類が何か分かりますか?」
「ん~、真っ黒な体に白い模様だよな?」
「はい、頭の上にも何か模様がありますよね?」
残念ながら私の身長では見えないが、先ほど巨大なヘビが頭を動かした時にちょこっとだけ見えた。
「あぁ……黒の球体でほとんど見えないけど、模様らしき物はあるな」
巨大なヘビの頭にも球体が乗っているため、模様が見えないらしい。
「駄目だ、分からん。そもそもハタウ村の周辺に黒いヘビがいるなんて聞いたことはないんだが」
ドルイドさんがお手上げと、首を横に振る。
巨大なヘビの全体を見られる様に少し移動して体にある模様を見る。
えっ!
「……あのドルイドさん、巨大なヘビの背中でソラが飛び跳ねています」
「えっ?」
黒の球体に紛れてソラが楽しそうに飛び跳ねている。
……あれ?
目をこすってもう一度見直す。
そしてさっきシエルがいた場所を見る。
……いない。
「ドルイドさん、シエルがスライムになって参加しています」
「はっ? あっ、本当だ」
私たちの視線の先には黒の球体に紛れる2匹のスライム。
楽しそうだ。
巨大ヘビの様子を見る。
首を後ろに回して、ソラたちを見ているようだ。
ちょっとヒヤリとしたが、特に反応を示すことなく視線を私たちに戻した。
体の上で、遊んでいるけど許してくれるのかな?
「えっと、ソラとシエルが体の上にお邪魔しています。許してね?」
私の言葉が通じたのか微かに顔が上下に動いた。
たぶん、私の願望ではないはず。
「ヘビの種類は分からないがこいつはかなり長生きだ」
「長生き?」
「あぁ、ヘビは長く生きるほど巨大化する魔物だから。このサイズだとおそらくサーペントだ」
「サーペント?」
「ヘビの中で一番でかいサイズになる」
一番大きいサイズ。
確かに目の前の巨大なヘビは、私が見てきた中でも一番大きい。
それほど多く見たわけではないが。
「それにしても、ここまでデカいヘビは久々に目にするな。昔討伐したサーペントがいたが、それより大きいかもしれない」
「……討伐ですか?」
「あぁ、洞窟から出て来ては近くの村民を襲って食っていたからな、討伐依頼があったんだ」
なるほど、それなら討伐も仕方ないか。
目の前の巨大なヘビを見る。
そしていっぱいいる黒の球体を見る。
似たような子がいっぱいいるため、拾った子がどの子かは既に分からない。
ちょっと残念、もう少し遊びたかった。
それより先ほどのドルイドさんの言葉が気になる。
『村民を襲った』。
視線を上に向けると、まだ私とドルイドさんを見ている巨大ヘビ、改めサーペント。
じっと見ているけど、まさか狙っているわけではないよね?
「サーペントさん、私たちを襲いますか?」
とりあえず、意思を聞いてみよう。
「ヘビに訊くのはどうなんだ?」
ドルイドさんがちょっと呆れた声を出す。
が、ヘビは私と視線を合わせて顔を左右に振ってくれた。
先ほどのように微かな動きではなくしっかりと。
「襲わないようですよ」
「……あぁ、まさか意思疎通が出来るとは……。それを普通に受け止めているアイビーも、やっぱり普通ではないよな」
ドルイドさんが何か言っているが、意思疎通が出来たうれしさで聞き逃してしまった。
まぁ、問題ないとしておこう。
「あの黒の球体は子供たちですか?」
質問にこくんと1回顔が下がる。
「そっか。もしかして探していました? 私たちが連れ出して迷惑かけちゃいましたか?」
ヘビの首が横に振れる。
よかった、迷惑はかけなかったようだ。
「すごい大きいですね。かなり長生きなんですか?」
意思疎通がしっかり出来るうれしさからどんどん訊いてしまう。
ヘビの方も私の質問に付き合ってくれるので、うれしい。
「ドルイドさん、百年以上生きているんだって! ソラたちは問題ないって!」
「みたいだな」
ドルイドさんの方を見ると何故かものすごく感心した表情で私を見ている。
何かあったかな?
首を傾げて彼を見ていると、苦笑された。
「さすがソラの主だと思ってな」
「ん?」
「あっ、ソラ! さすがにそこは怒られるぞ」
ドルイドさんの視線の先には、サーペントさんの頭の上で飛び跳ねるソラ。
さすがに怒るのではとサーペントさんを見るが、私と視線が合うと首を傾げた。
よかった。
このサーペントさんはとっても優しい。
「ごめんなさいサーペントさん、ソラが頭の上で暴れてしまって」
時間にして5分ほど、ソラとシエルは満足したのか私たちの元に来る。
「ぷっぷ~」
「にゃうん」
「お帰り、サーペントさんにお礼を言うんだよ」
私の言葉に2匹がサーペントの前で1回、飛び跳ねた。
2匹なりのお礼なのかな?
サーペントを見ると大きく1回頷いている。
すごい、分かりあっているようだ。
「さて、俺達は寝床を探すか」
あっ、寝床を探している最中だった。
ドルイドさんに言われるまで、すっかりと忘れていたな。
「そうですね。この周辺を探してみますか?」
「あぁ、そうするか」
「ぷ~」
探すために動き出そうとするとソラが不満の声を出す。
「どうしたの? ソラ?」
名前を呼ぶがなんだか怒っている。
何だ?
あっ!
もしかして。
「ソラ、寝床を探してください」
「ぷっぷぷ~」
私の言葉に一気に機嫌が直ったようだ。
「調子がいいなソラは」
ソラの様子を見ていたドルイドさんがちょっと呆れ気味だ。
ソラが飛び跳ねると、サーペントさんの体がスッと動き出す。
「あっ、行っちゃうみたいですね」
「そうだな」
体の上に黒い球体をいっぱい乗せた状態なのに、そんな事を感じさせない流れるような動きで森の奥へと入って行く。
「さようなら。ありがとう」
ソラとシエルがお世話になりました。
という気持ちを込めて手を振る。
その声に反応したのか、サーペントさんの動きが止まる。
そして、しばらくそのまま動かない。
「何かあったのかな?」
どうしようかと思っていると、サーペントさんが首を後ろに回す。
そしてまた視線が合う。
「「…………??」」
困惑していると、ぐっとサーペントさんの顔が近くなる。
不意のことだったので、体が少し後ろにのけ反ってしまった。
「びっくりした。ん?」
小さく息を吐き出すと、目の前に黒の球体。
サーペントの舌に乗っている。
どうしていいのか考えていると、舌が伸びて球体がぐっと押しつけられる。
手にすると先ほどとは違い、手に伝わる温度は冷たい。
どうやら子供ではないようだ。
「くれるの?」
舌が口の中に戻るとまたじっと私を見つめて、しばらくすると森へと戻っていった。
「貰っちゃいました」
「あぁ。それなんなんだろうな?」
「冷たいので生き物ではないみたいです」
ドルイドさんが手に持って目の高さまで持ち上げる。
そしていろいろ見回す。
「まったく何か分からない」
「仕方ないですよ」
それにしてもかっこよかったな。
黒の体に白い模様で、心が広くて優しい。
ドルイドさんとサーペントさんが消えた方向を見る。
短かったけど不思議な出会いだったな。
しばらくすると少し離れた所からソラの声が森に響き渡る。
しまった、寝床を探してもらっていたのに放置してしまった。
慌てて、ソラを探すといつもより目が吊り上っているソラ。
「ごめん」
「ぶ~」
怒りで『ぷ』が『ぶ』になってしまっている。
「悪かった」
「ぶ~!」
どうやって機嫌を直してもらおうかな?