215話 旅の常識
黒石を採った後、シエルは他の鉱石の場所も教えてくれたのでその都度バッグへと入れていく。
と言うか、この洞窟凄い。
そしてバッグの中身が怖い。
採った物を今から行く村で全て売ると、間違いなく目立つとドルイドさんが言っていた。
「シエルってすごいな」
ドルイドさんが採ったばかりの透明な石?を見ながらしみじみ感想を口にした。
確かにと思いシエルを褒めたら、次の場所へ誘導されそうになったので慌てて止めた。
さすがにこれ以上バッグの中身に恐怖を感じたくない。
「もう十分すぎるぐらいだから。ありがとう」
「にっ」
何故か不服そうに鳴かれた。
でもさすがに、これ以上は心の平穏のためにも無理です。
それにそろそろ寝床の場所を探す必要がある。
「ドルイドさん、今日の寝床を探さないと駄目ですね」
「そうだな。そろそろここから出るか。それとアイビー口調が戻ってるよ」
頭をポンと撫でながら言われた。
「えっ?」
また元に戻ってた?
癖を直すのって難しいな。
「ソラ、今日はどこがおすすめ?」
「ぷっぷぷ~」
ソラがぴょんと飛び跳ねて、洞窟の中を移動する。
ソラを追いかけると、洞窟の一番大きな通路から少しそれた場所にある穴に入って行く。
「今日の寝床はあそこがおすすめみたいですね」
ソラに続いてそっと中の様子を見る。
入口は少し狭いが中はかなり広い。
「ドルイドさん、ここでいいですか? あっ、ここでいい?」
「…………」
「ドルイドさん?」
「あっ、あぁ洞窟の中か」
「はい?」
「いや、大丈夫だ。ソラが大丈夫って言ったんだしな」
ドルイドさんの声が小さすぎて聞こえない。
大丈夫かな?
ソラが入った穴に入り、魔物の痕跡などを調べていく。
少し痕跡があるが問題ないようだ。
寝床の用意をしようとバッグを下ろす。
ドルイドさんに視線を向けると、フレムと何か話をしていた。
彼はフレムと意思疎通が出来るようになったのだろうか?
「ドルイドさん、準備しよう?」
「あっ、悪い。手伝うよ。洞窟内だから火は使わない方がいいだろうな」
「うん」
洞窟内で火を使うと危ないと冒険者が話しているのを聞いたことがあるため、私も火は使わないようにしている。
ただ、何が危ないのか理由は知らない。
「どうして洞窟内で火を使うと危ないのですか?」
あっ、しまった口調が。
私の表情を見てドルイドさんに笑われてしまった。
どうやら顔に出てたらしい。
「魔物を興奮させたり、呼び寄せたりするからな。ここだと逃げ場がないだろう? あと酸欠になる可能性もある」
なるほど。
前に『火に魔物が興奮して襲われそうになった』と言う話を聞いたことがある。
動物は火を見て逃げるが、魔物はそうとも限らないから気を付けろだったかな。
周りを見て、入口は1つ。
あそこを魔物に占拠されたら逃げられないか。
「それにしても、こういう洞窟内で2人なのは初めてだな」
「どういうこと?」
「あぁ~、普通は入口に魔物がいるような洞窟内では寝ないから」
「あの魔物たちはもう大丈夫ですよ?」
伏せをして完全にシエルが上だと認めていた。
なので襲われる事はない。
「あの魔物を抑えられる魔物が一緒の冒険者チームなんて俺は知らない」
「……探せばいるかも」
「噂になるからな。そう言う冒険者たちは」
もしかして私って、かなり他の冒険者たちとは違う事をしているのだろうか?
「ドルイドさん、私の旅って」
「旅に正解も不正解も無いから自由でいいと思うぞ」
……やっぱり、他の人とは違うのか?
ドルイドさんを見ると苦笑い。
「もしかして、そんなに違います?」
えっと、ちょっと不安になってきた。
ラットルアさんたちと旅をしたけど、町に戻るために村道を歩いただけだったし。
普通の旅が分からない。
「ちょっと……結構、違うかな」
言い直された!
「そうですか」
「あぁ、それより遅くなるから寝床と夕飯の準備をするぞ」
2人で寝床を作る。
シエル用のマットも準備完了。
それを見てシエルが嬉しそうに尻尾を揺らした。
夕飯は久々に干し肉と果物。
そう言えばここ数日は、簡単な物だけど作っていたから干し肉とか久しぶりだ。
最初の頃の旅に比べると、かなり豪華になったな。
「で、ドルイドさん。私の旅と他の冒険者の旅って何が違うんですか?」
「ん~、そうだな。他の冒険者と一緒になる時もあるからな、頭に入れておいた方がいいか」
「お願いします」
ずっと2人だけの旅だとは限らない。
他の冒険者がいる時に、間違って行動しないように注意しないと。
「とりあえず、さっきも言ったように魔物がいる洞窟内で寝る準備はしないかな。永遠の眠りになるからな」
この点についてはシエルに本当に感謝だな。
「あと、森の奥に入るのに軽装備過ぎる。人もこんな少人数では入らない。ついでにこの場所が地図上の何処なのか分からない時点で問題だ。なにより、スライムが寝床を探すなんて聞いたことがない」
そんなに?
……1つ1つ考えていこう。
えっと、森の奥に入るのに軽装備?
周りを見る、旅に必要な物が詰まったマジックバッグ、ソラたちの食事が入っているマジックバッグ。
森の中で手に入れた物を入れたマジックバッグ。
ソラたちが入るバッグ。
正規品のマジックバッグは有能だ。
アレが無ければ、かなりつらい旅だっただろうな。
って、今はそれは関係ないな。
軽装備なのかな?
「装備と言うのは、戦うための装備の事だからな」
なるほど、今考えたモノは全く当てはまらない。
戦うための装備?
視線をドルイドさんの横にある剣に向ける。
魔石が綺麗に光っている。
これだけだ。
「確かに軽装備かもしれませんね」
「森に入るにはそれなりの装備が必要だから、間違っても剣1本は無いかな」
あ~、もしかしたらドルイドさんには不安があったのかもしれないな。
申し訳ない事をしてしまった。
次が少人数だっけ?
「森に入るにはどれくらいの人数が普通なんですか?」
「ここはおそらく森の奥。それもかなり奥深い場所だろう」
確かにドルイドさんの言うとおりだ。
生えている木々や草から判断しても、かなり森の奥に来ている。
「正確にどれくらいなのかは分からないが、最低8人だな」
「8人!」
えっ、そんなに必要?
「森の奥に入れば入るほど、魔物の数も種類も増えてくる」
確かに多くなるな。
今も気配を探れば近づく気配はないが、かなりの魔物がいることが窺える。
「そんな場所では寝ずの番をする人も含めて、最低8人だな」
「もしかして、こんな場所で2人だと他の冒険者から異様に見られるのでは?」
「間違いなく、そうだろうな」
よかった。
今までも森の中で遭遇しそうになったら回避してきたけど、間違いではなかったようだ。
……あれ?
そう言えば、私が離れて行くより冒険者たちが離れて行く気配の方が早かったことが多々あった。
あれってもしかして……不気味に思って逃げていたとか?
「アハハハ」
「アイビー?」
「『森の中には化け物がいる』と、噂があるかもしれない」
「アハハハ。森の中で1人の気配しかなかったら、間違いなく逃げるな。絶対に近づかない」
やはりそうか!
ときどき不思議に思っていたんだよね。
まるで走っているみたいな気配だなって。
「森の中に人の気配を真似る魔物がいて、徐々に王都に近づいているという噂があったりしてな」
ドルイドさんが言った何気ない言葉に、2人で黙り込む。
「「ハハハ」」
私には関係ないや。
ただの噂だし、その噂が本当にあるかどうかも分からないし。
私は知らない!




