213話 アイビーの旅
ハタウ村へ向かって3日目。
森の中をシエルを先頭に突き進むことそろそろ1時間。
「えっと、アイビー」
「はい」
道なき道を歩いているため、横ではなく後ろにいるドルイドさん。
蔓が這っている場所なので、気を付けないとこけそうだ。
足下に注意しながら、少し大きな声で返事を返す。
「何処へ向かっているんだ?」
「しりませんけど?」
「……そうか。あ~、いつもこんな感じなのか?」
こんな感じ?
どういう事だろう。
「えっと、意味が」
「あぁつまり。1人の時もシエルを先頭にこんな道を歩いていたのか?」
「そうですね」
今日の朝はまだ、村道の近くの比較的歩きやすい場所をハタウ村へ向けて歩いていた。
が、途中でシエルが方向を変えて森の奥へ。
私としてはいつものことなので疑問も無くついて来たのだが、何か問題でもあったかな?
……あっ、そうか。
ドルイドさんはシエルとの旅はこれが初めてだから、この先に何があるのか分からないのか。
ちゃんと説明をすればよかったな。
失敗した。
「あの、ドルイドさん。シエルが森の奥へ行くときは、その先に何かある場合です」
「そうなのか?」
「はい。薬実が有ったり、珍しい薬草が有ったり。だからシエルに付いて行った方がいいんです」
「そうか。でも、こんな少人数で森の奥へ行くのは危険だろう?」
危険?
今まで問題なかったけどな。
「ん~、魔物や動物に襲われた事はないですよ。危ない崖とかはシエルが教えてくれますし」
「そうなんだ」
「はい」
「にゃうん」
会話を聞いていたのか、シエルが得意げに鳴く。
「まぁ、大丈夫か」
ドルイドさんも、シエルを信じてくれたようだ。
よかった。
「いつも何があるのかワクワクするんですよね」
「ハハハ、俺はドキドキだよ」
「ドキドキ?」
「そう。シエルがいるとはいえ、こんな無防備な状態で森の奥へ来てるから」
ドキドキ……怖い?
不安?
「大丈夫ですよ?」
「ハハハ」
ドルイドさんの言葉を疑問に思いながら、シエルの後を追う。
それからしばらく歩くと、大きな巨木が見えてくる。
その木になる青い果実。
「あっ、これってギルマスさんがおすすめしてくれた森の青い果実ですね」
「そうみたいだな。名前知らないのか?」
「長くて覚えられなかったんです。『トトラセラ・セラ……』」
「覚えているじゃないか」
「いえ、この後にまだまだ続くんです」
「そうなのか?」
「はい。町や村によっては『トト』や『トトセラ』でも通用する事があるそうですが、それぞれ違うそうで。森の青い果実だと、どこでも分かると店の人が教えてくれました」
トトラセラ・セラトラ、何だっけ?
何度か覚えようとしたけど口がもつれそうになる呼び名なんだよね。
「にゃうん」
木の根元でちょこんとお座りするシエル。
やはりこの果実の場所へ案内してくれたようだ。
「シエル、ありがとう。頑張って収穫するね」
バッグを出して、青い実を収穫していく。
ドルイドさんも手伝ってくれたので、バッグがいっぱいになるのは早かった。
「すごい量だな」
「ギルマスさんから、この果実は値段が変動しないからおすすめだと聞いているのでちょっと多めに」
「なるほど」
バッグを抱えようとすると横からさっとバッグが取られる。
「ドルイドさん?」
「このぐらいは任せろ」
いいのかな?
ん~、他にも収穫していくだろうから青い果実はお願いしようかな。
「では、お願いします。次に収穫出来た物は私が持ちます」
「ハハハ、よろしく」
青い果実を収穫したら少し休憩。
今いる場所は木々が多く、影になるので少し肌寒い。
少し前までは涼しいと思えたのにな。
「しかし、この果実ってこんな森の奥にあるんだな」
「そうですね。この青の果実と黄色の果実は森の奥にありますね」
「黄色の果実って確か『はくとう』と言う名前のやつか?」
「はい。アレ大好きなんです」
「食べたこと無いな」
「すごく甘くて美味しいですよ」
「……あれもいい値で売れるだろ?」
「さぁ、前の時は食べ切ってしまったので」
「……そうか。確か青い果実とほとんど同じ値段だったような」
ドルイドさんが小声で何かを言っているけど聞こえない。
「どうしたんですか?」
「いや」
何だろう、ちょっと顔が引きつっている?
疲れたのかな?
「大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。さて、そろそろ行こうか」
ドルイドさんの言葉に、すぐさまシエルが先頭を歩き出す。
「えっと、ついて行った方がいいんだよな?」
「はい。此処が何処か知りませんから」
シエルの後を付いて行くときは、方向など全く分からなくなる。
なので全てシエル頼みになってしまうのだ。
最初の頃は、方向だけでも確かめようと思ったのだが無理だった。
「そうだよな。よろしくなシエル」
「にゃうん」
木々の間から空を見上げる。
最近は徐々に暗くなるのが早くなってきている。
この分では、村道付近に戻るのは無理かな。
…………
周りを見る。
やはり暗くなり始めてしまった。
「シエル、そろそろ寝床を探そうか」
「にゃうん」
「ぷっぷぷ~」
「てりゅ~」
おっフレムが起きたのかな?
バッグを開けるとフレムが欠伸をしていた。
「おはよう。もう夕方だよフレム」
……あれ?
今フレム欠伸していた?
前からしていたっけ?
ん?
まぁ、いいか。
「寝床って……えっと、アイビー。この辺りの事を知っているわけ……は、ないよな」
「はい」
ドルイドさんが何だか困った表情をしている。
今日のドルイドさんは少しおかしいな。
やはり疲れているんだろうか?
だったら早めに休めるようにした方がいいよね。
「ソラ、お願いしていい?」
「ぷっぷぷ~、ぷっぷぷ~」
ソラにお願いすると、嬉しそうに鳴いて周りを見渡す。
そして、何かを見つけたのかある方向へ向かって飛び跳ねていく。
「行きましょう」
「あ~、うん」
ドルイドさんの声に張りが無いな。
やはり相当お疲れだ。
「ぷっぷぷ~」
機嫌よく飛びはねていくソラ。
その後をドルイドさんと追いかける。
少し歩くと、大きな木の穴の前でソラが揺れている。
どうやらその場所がおすすめの寝床らしい。
「ソラ、ありがとう」
そっと中の様子を窺うと、シエルが入っても問題ない広さ。
魔物などが最近使った形跡もない。
問題ないようだ。
「ドルイドさん、今日はここを寝床にしましょう」
「ハハハ、なんだかね。うん」
「えっ? どうしたんですか?」
「いや、ハハハ」
おかしいな、ドルイドさんと会話が出来ない。
それほど疲れているのか?
まだ旅は3日目なんだけどな。
「にゃうん」
「どうしたのシエル。何かあるの?」
「にゃうん」
「ドルイドさん、シエルが何か見つけたみたいなので行ってきます。疲れているようなのでここで休んでいてください」
「えっ、大丈夫だけど」
「大丈夫ではないですよ。さっきからちょっとおかしいです」
「いや、それは俺の考えていた以上にすごい旅だったからで……」
すごい旅?
特におかしな事はなかったはずだけど。
私が首を傾げるとドルイドさんが苦笑いした。
「えっと、とりあえず休憩しておいてくださいね」
「……分かった。寝床の準備だけしておくよ」
「えっそれは。休憩にならないのでは?」
「大丈夫」
「そうですか? 無理はしないで下さいね。えっとフレムをお願いします」
心配だけど、外は暗くなってきている。
早めにシエルが見つけたモノを収穫して戻って来よう。
「行ってきます」
「気を付けて」
…………
「フレム、アイビーの旅ってすごいな」
「てりゅ~」
「まさか、装備も無くこんな森の奥へ来ることになるとは、さすがの俺でもちょっと怖かったよ」
「てりゅ~」
「しかも、森の中で簡単に寝床を見つけるし。ソラってやっぱりすごいな」
「てりゅ~」
「アイビーの様子からこれが普通なんだよな」
「てりゅ~」
「もしかして俺、凄いチームに参加したのかな?」
「てりゅ~」
「そう言えば、森の奥にいるのに魔物とか動物とか見ないな……シエルの存在って大きいな」
「てりゅ~」
「……フレム、俺の話ちゃんと聞いてる?」
フレムを見るとじっと見つめ返される。
その瞳を見ていると、気持ちが落ち着いてくる。
「ありがとう。慣れる様に頑張るよ」
「りゅっ」