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番外 師匠とギルマス

「お疲れさん」


扉を開けた先には、山積みになった書類を整理しているアルミの姿。

その隣では机に突っ伏しているゴトスの姿。


「ご苦労様です。終わりましたか?」


「あぁ、そっちもか?」


「ようやく区切りがつきました」


アルミの言葉に苦笑が浮かぶ。

ゴトスが溜めた仕事が、ようやく一段落したようだ。

しかし、よくもまぁここまで溜めたなと言う書類の量だな。


「ギルマス、これに懲りたら変な気を回さないで下さいね。余計に仕事が増えますから」


「……了解。ご苦労様……帰って良いでしょうか?」


疲れきったゴトスの声がちょっと哀れだ。


「そうですね。久々に帰ってゆっくりしてください。ただし明日も通常通りですから」


「……はい」


アルミの言葉に一瞬何かを言おうとしたようだが、見事な笑顔に黙ってうなずいた。


「では師匠。失礼します」


「あぁ、アルミも家に帰ったらゆっくり休めよ。悪かったな」


俺の弟子の中でも優秀な彼女にはいつも感心してしまう。


「子供に癒してもらいますから大丈夫です」


「それは良い。旦那にもよろしく」


「師匠もギルマスも、ちゃんと帰って休んでくださいね」


子供に会えるのがうれしいのか、機嫌よく帰っていくアルミの姿を見送る。

部屋に備え付けられてある椅子に座ると、ゴトスが向かいに座った。


「あいつ等、行ったか?」


「はい。アイビーから『お仕事お疲れ様です。無理をしないようにしてくださいね』と言う伝言です」


ゴトスがガラガラの声で、アイビーの声の真似をしようとするものだから気持ち悪い。


「それ止めろ、寒気がする」


「失礼な」


持って来ていたお酒を見せると、ゴトスがコップを用意する。

それにお酒を入れて。


「2人の旅に」


「2人の旅に」


2人でお酒を一気にあおる。

喉が焼けつく、この感覚が好きだ。


「それにしても不思議な子でしたよね」


ゴトスの言葉にアイビーを思い出す。

確かに不思議な子だった。

バッグから会話を洩らさないマジックアイテムを出して起動させる。


「何処まで聞いたんだ?」


「何処までとは?」


「アイビーについてだ」


「テイマーの事とソラとフレムだったかな、それと前世の記憶と星なしという事ですかね」


なるほど、全てかどうかは分からないが俺とほぼ同じ内容は聞いているようだな。


「そうだ、ポーションと魔石を貰いました」


「…………はっ?」


「だから、光る青のポーションと赤のポーション。SSSレベル相当の魔石とか」


「馬鹿か! 貰った? 金はっ!」


「払おうとしたんですが要らないと言われて、寄付だからと」


と言うか、赤のポーション?

確かフレムが病気を癒す赤のポーションを食っていたか?

つまりフレムもポーションを作れるのか。

あっいや、アイビーが病気になった時にフレムが治療したとか、言っていたような気が……。

あの時はバタバタしていたから、聞き逃しちまったな。

それにしても、なんでまたポーションや魔石が?


「寄付をするために作ったのか?」


「いえ違います。ドルイドの話では、捨て場で必要な物を集めている間に作っていたらしくて。さすがに全てを持って旅するのは怖いという事で、寄付したいと」


そう言う事か。

もしかしたらソラとフレムは、旅の足しになる様にと作ったのかもしれないな。


「そうか。むやみに使うなよ。緊急事態の時だけだ」


「もちろんです。ドルイドにもアイビーにも、金に困ったら連絡するように言っておきました。それに使用したら、あれらに見合う金額が払えるとは思いませんが、ある程度支払う予定です」


「そうか。それがいいだろう」


はぁ~。

それにしても最後の最後に、爆弾をおいていくなよ。


「あっそうだ師匠。幸香を町に入れようとしたあの馬鹿どもの処分が決まりました」


幸香か。


「どうなった?」


「幸香を運び込もうとした8代目とそれを援助した7代目は、55年の奴隷落ちです。手を貸した他の者たちは30年の奴隷落ちです」


あ~、確か8代目と呼ばれている男がこの町一番の大店の現当主だったよな。


「なんで幸香なんかに手を出したんだ?」


「8代目に代替わりしてから事業が失敗続き、その為に起死回生を図ろうと幸香に目を付けたようです」


幸香に目を付けたって、あんな物どうするつもりだったんだ?


「それを聞きつけた7代目ですが、6代目を見返してやろうと8代目に手を貸したそうです」


「馬鹿なのか?」


俺の言葉に苦笑いを浮かべるゴトス。

そう言えば6代目は、店をこの町1番にしたやり手だったな。

しかし、受け継いですぐに成功をおさめたわけではない。

若い時から、町1番を目標に人脈を広げた結果だ。

一緒に飲んだ時に、熱く語られたから覚えている。


「まぁ、それは良いわ。それより幸香を町へ持って来てどうするつもりだったんだ?」


「あれ? 言いませんでしたか?」


首を傾げて訊いてくるが、アイビーがやったら可愛いのにゴトスがやったら視界の暴力だな。


「聞いてないぞ」


「そうですか。どうやら魔物の肉と魔石が目的だったようです」


「はっ?」


「町までおびき寄せて、雇った冒険者に狩らせる。冒険者が町から離れれば離れるほど費用が掛かりますから。だったら魔物を町に呼べばいいと考えたようです」


何だその理由。


「それに肉は鮮度が大切ですからね。町へ近い方がいい値で売れると思ったと言っていました。正規のマジックバッグに入れても、肉だけはなぜか狩ってすぐでないと、すこし鮮度が落ちて取引価格が下がりますから」


「確かにそうだが……はぁ」


幸香は魔物をおびき寄せる。

その際、魔物を興奮させる作用があるため通常より危険度が増す。

そんな危ない魔物を町に呼ぼうとしたとは。

本物の馬鹿だ。

アイビーが幸香に気付いてくれてよかったよ、本当に。


「その馬鹿たちの店はどうなるんだ?」


跡継ぎがいるのか?


「6代目が健在なので、落ち着くまで当主として仕事をするそうです」


「そうか。しかし8代目は有望だと噂で聞いたが、嘘だったのか?」


「それは嘘ではないですよ。ただ、有望になれた可能性があったと言うのが正解ですが」


可能性?


「商売関係のスキルが2つで、どちらも星3つです」


「星が3つか。それは期待されるな」


まぁ、星が1つだろうが3つだろうが、経験を積まない限りは一緒だ。

何もしなくても上手く事が進められるなんて、美味い話はない。


「最近、星に頼りすぎて失敗する奴が増えているな」


星が多ければ、何もしなくても大丈夫だと思う奴が増えているという事か?

馬鹿馬鹿しい。


「そうですね。ただ、俺も星が多い方が有利だと思っていましたが」


「あぁ゛~?」


「怒らないで下さい! 仕事を完璧にこなす、アルミは俺より星が多いので」


そうだったか?

忘れたな。


「でもアイビーと出会い、間違いだと気付きました。アイビーは前世の記憶があるからだと言っていましたが、記憶や知識があっても上手く使えるかどうかは本人次第ですから」


その通りだ。

文献を読めば知識は増える。

だが、それをどう生かしていくかそれは経験や直感が必要となってくる。

それはけして星の多さだけでは補えない。


「ドルイドもゴトスも俺も、良い出会いをしたよな」


「そうですね」


本当に不思議な子供だ。


「俺が生きている間に帰って来るといいが」


「大丈夫でしょう。師匠は」


「どういう意味だ?」


「何があっても死にそうにないですから。ハハハ」


褒められているのか?

貶されているのか?

酔いが回って機嫌が良くなったゴトスでは分かりづらいな。


…………


「師匠もギルマスもどうしてこうなんですか!」


アルミの声が、二日酔いの頭に響く。

ちょっと調子に乗って飲み過ぎて、気が付いたら朝だった。


「聞いていますか!」


「「はい、すみません」」


机に載っている空の酒ビンの数は10本を超えている。

あんなに飲んだ記憶はないのだが……。


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― 新着の感想 ―
まー、楽しい話は酒が進むよねw
アルミさん強い…
[良い点] マンガで知って読み始めましたが、面白いです。 一つの町で魅力的なキャラが出てきて、気に入ったところで、旅に出てお別れに なることにちょっと抵抗があったのですが (キャラへの思い入れが強いと…
感想一覧
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