208話 言い逃げ?
「「「………………」」」
えっと、何だろうこの無言。
ドルイドさんもドルガスさんも固まってしまったように動かないし。
ドルガスさんはいったい何をしに来たのかな?
もしかして、偶然この道を走っていただけ?
いや、それはないか。
「「「………………」」」
私が動かないと、ずっとこのままのような気がしてきた。
「えっと、ドルガスさん。どうかしましたか?」
「……いや……」
え~、それだけ?
だったらもう行っていいかな?
「あの、用事がないなら私たち行きますね?」
「いやっ! あっ、違う。あの……」
なんだかドルガスさん、今までとちょっと違うな。
今日はあの刺々しさを一切感じない。
彼の様子を見ると、何かを言いたそうなのだがなかなか言葉にならないようだ。
少し周りを見渡すと、少し歩いたところに自由に利用できる木の長椅子がある。
あそこならドルガスさんも話しやすいかな?
ドルイドさんに相談しようと彼を見ると、眉間にものすごい皺が。
「ドルイドさん、眉間の皺がすごい事になっていますよ。今でも十分なのに皺が増えるともっと老け……癖になってしまいますよ」
「アイビー、そんなに俺は老けて見えるかな?」
ドルイドさんが手で眉間のしわを伸ばしている。
やはり、気にしているのかな?
言い方には、気を付けないとな。
「はい。あっいえ、そんなことないですよ」
しまった、つい……。
「素直な事はいい事なんだよな、きっと」
「へへ」
笑って誤魔化してしまおう!
「あのさ……」
ドルイドさんと話していると、遠慮がちに声が掛かる。
あっ、ドルガスさんの事をすっかりと忘れていた。
そう言えば、今日はドルガスさんの名前がすぐに出てきたな。
ようやく覚えられたみたいだ、よかった。
「あそこのベンチを借りて話をしてきたらどうですか?」
私が指す方を、2人で確認している。
「……兄さん、どうですか?」
ドルイドさんが少し緊張を含んだ声でドルガスさんに問うと、ドルガスさんも頷いた。
よかった。
後は2人で話をするだろう。
「アイビーも一緒にいてほしい」
ドルイドさんがじっと私を見つめてくる。
「俺からもお願いする」
断ろうとするとドルガスさんにもお願いされた。
あのドルガスさんにお願いされるとは。
「はい。分かりました」
この雰囲気なら、前の時のような険悪な雰囲気になる事はないかな?
あの雰囲気怖いんだよね。
あれ?
勧められるように椅子に座ったけど、この並びおかしくないかな?
なんで私が真ん中に座っているのだろう?
まぁ、壁があった方が話しやすいなら協力するけど……。
「「………………」」
だから無言は駄目だって。
「ドルガスさん」
「あぁ」
私のちょっと大き目の声に、ドルガスさんがびくりと体をゆする。
ん~、そんな反応されると少し悲しいな。
「何かありましたか?」
「別に……違うな。あのだな」
「はい」
ドルガスさんは視線を彷徨わせながら言葉を探しているようだ。
反対側のドルイドさんは、いつもと様子の違うドルガスさんにようやく気付いたのか驚いた表情をしている。
気付くの遅いよ。
「悪かった」
「「えっ!」」
あまりに急に謝るものだから、ドルイドさんと一緒に驚いてしまった。
まさか、あの、あのドルガスさんが謝るなんて。
そっと頬を抓ってしまった。
「いたい」
「アイビー、何をしているんだ?」
「いえ、なんでもないです」
ドルイドさんだけでなく、ドルガスさんにも不思議そうに見られてしまった。
恥ずかしくなり、ちょっと下を向く。
「俺にはたった1人、親友がいるんだ」
ドルガスさんにもちゃんと親友がいるのか。
なんだかちょっと安心したな。
「栽培スキルを持っていて星が3つ」
ん~、やはり親友も星なのかな?
それにしても星が3つ、かなりすごい人だな。
「俺達は星があれば何でもできると思い込んでいて」
私も小さい時はそう思っていたな。
「だから、あいつが米しか育たない場所で成功して見せるって言った時も応援した。すぐに成果をだせると思ったんだ。でも、全然スキルなんて役に立たなかった。星が3つあったって意味なんてなかった」
だったらどうして星にあんなに固執したんだろう?
「でも、それを認めたら……認めてしまったら、あいつが壊れてしまいそうで」
もしかして、頑として星に拘り続けたのは親友のため?
そう言えば、店主さんが言っていたな。
あの場所に引っ越した人たちの多くは、既に自分の人生を諦めてしまっていると。
犯罪に走って奴隷落ちした人たちも多いと。
「何とか踏ん張ろうとしている時に、ドルイドが冒険者として大きな仕事を成功させた」
ドルガスさんがドルイドさんを見る。
「星が少なくても成功できるんだと見せつけられたような気がした。悔しくて。俺は親友1人救う事が出来ないのに」
いろいろな事が重なってしまったのかもしれないな。
それがドルガスさんの心に蓋をしてしまった。
と言っても、拗れ過ぎだと思うけど。
「星があっても意味がない。本当は分かっていた、でも絶対に認めたくなかった」
あんなに周りを威嚇していたのは、自分を守るためだったのかな?
ギルマスさんが言うように、かなり小心者なのかもしれないな。
だから怒鳴り散らす方法しか取れなかった。
「でも、あいつ笑ったんだ」
あいつ?
親友のことかな?
「おにぎり食べて、凄く嬉しそうに笑ったんだ。久しぶりにあんな顔を見た」
話していたドルガスさんがいきなり立ち上がって、私たちと向かい合うように立つ。
「悪かった。それと感謝している」
「「あっ」」
ドルガスさんは言うだけ言って、走って行ってしまった。
ただ。
「ドルガスさんの顔、真っ赤でしたね」
「あぁ、あんな兄の顔を見たのは初めてだった。それに少し足がもつれていたよな」
「はい」
走っていく後ろ姿が、途中でよろめいていた。
おそらく恥ずかしさと緊張とで、体が硬くなってしまったせいだろう。
「えっと、ドルイドさん」
「あぁ、なんだ?」
「ドルガスさんは、何が言いたかったのでしょうか?」
なんとなく言いたかったことは分かるのだが……。
「ん~、『こめ』しか育たないところで農業をしている親友が『こめ』が食べられると知って喜んでいたって事かな?」
やはり、そう言う事なんだろうな。
「で、親友の農業が米で成功しそうだから『ありがとう』って事だろうな」
「そう言う事ですよね?」
ドルイドさんと顔を見合わせる。
そして2人同時に、笑いだす。
最後のドルガスさんの様子で、相当恥ずかしかったことは分かったが。
それにしたって、もう少し分かりやすく話してほしかった。
「いい方向へ転んだって事で、いいのでしょうか?」
「だと思う。父さんも母さんも安心するだろう」
ドルイドさんが苦笑いしている。
彼は長年色々と言われてきたのだから、すぐに許すことは出来ないかもしれないな。
「旅から戻って来たら、ゆっくり話せるかもしれないですね。兄弟3人で」
少し時間が経てば、きっとやり直せるはず。
「……そうだな。それもいいな」