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205話 仲間が頑張ったら……

「旅費の話をしても、さっきの繰り返しになるだろうな」


「そうですね」


何かいい方法はないかな?

私もちゃんと負担できて、ドルイドさんが納得する方法。

もしかしたら、最初にお金を準備しようとするから問題になるのかな?

だったら、これから貯めることにしたら。


「あの、今日から2人で収穫した物は全て旅費として貯めていきませんか?」


「ん? 今日から収穫した全て?」


「はい」


これだったら、2人で収穫した果実などが旅費になるのだから大丈夫のはず。


「全部は駄目だろう」


なんで?


「個人的に欲しいモノだってあるだろう? 全部を旅費にしてしまったら買えなくなってしまう」


「いえ、欲しい物は無いので」


今までだってずっと、冬の宿代のために貯めてきた。

今さら、不満はない。


「それこそ駄目だ。アイビーは若いのだから、もっと欲しい物がいっぱいないと」


おかしいな、簡単に承諾が貰えると思ったんだけど。

……あれ?


「本当に欲しいモノはないのか? 服とか靴とか」


「えっと、その事はまた後で、とりあえず旅費の話をしましょう」


なんとなくその話は駄目な気がする。

返答を間違うと、大変なことになりそうな気配が……。


「仕方ないな」


「えっと、とりあえず全てを旅費にして……そこから2人にいくらか振り分けましょう」


「いや、俺は良いよ」


ここで頑張っても、折れてくれないんだろうな。

だったら、ここは諦めるべきか?

と言うか、ドルイドさんって幾ら持っているんだろう?

……訊くのは失礼だよね。

止めておこう。


「なら、ドルイドさんに甘えさせてもらいます」


「よし、良い子」


ん~。

押し切られているような……。


「アイビーの考えを形にするなら、口座をもう1つ作った方がいいかもしれないな」


「口座を?」


「あぁ、今あるのは俺の個人口座と、アイビーの個人口座だ。俺の口座を使うのはさっき反対されたからな」


「もちろんです」


「だから、もう1つ家族口座を作ろうか」


家族口座。

そんな物が作れるの?


「そこにアイビーが言うように収入を全て入れて、アイビーが欲しいと思う金額を移動する」


確かに、これだと旅費と個人のお金を完全に区別できる。

ドルイドさんが、自分のお金を使ってしまうのを防げるかもしれない。


「そうですね。口座ってすぐに作れるんですか?」


「商業ギルドで家族登録をしたら、口座は作ることが出来たはずだ」


なんとか、ドルイドさんだけが使うのを防げるかな。

あっでもこれって知らない間に家族口座にドルイドさんがお金を入れることも出来るのでは?


「ドルイドさん、家族口座に勝手にお金を沢山入れては駄目ですよ」


「……しないよ」


一瞬目が泳いだ!


「口座を確かめて、入っていたら戻しますよ」


「アイビーはしっかりしすぎだと思う。それより俺って貧乏に見える?」


「いえ、まったく。他の冒険者の方より裕福に見えます」


私の知っている冒険者の人は旅の冒険者なので良く分からないが、家も持っていたしマジックアイテムも沢山持っていた。

なので、おそらく今までで一番裕福な冒険者だと思う。


「今まで無茶な仕事ばかり受けてきたからさ、収入だけは良かったんだよ。使い道はなかったし」


前にも少し話してくれた事があったな。

『生きることに執着』がなかったから、かなり危ない仕事をしてきたって。

その話を聞いた時、ものすごく悲しくなった。


「だからお金だけはあるんだよ。ここ数年、自分の口座の残金を確かめたこと無かったから、久々に確かめて驚いた。1000ラダルぐらいあるんだから」


えっ?

今、なんて?

1000ラダル?

えっと金板が10ラダルだからそれが100枚以上?


「はっ? えっ?」


「驚くよな。さすがの俺も驚いた」


それだけ危ない仕事をこなしてきたって事?


「仕事の事で、師匠にもギルマスにも何度も注意をされるわけだよな。今考えるとちょっと引くわ」


そう言って笑っているドルイドさんに、怒りが湧く。


「笑い事ではないです! 1000ラダル分、危険にさらされてきたって事ではないですか!」


「えっ……アイビー」


怒りにまかせて叫ぶと、ドルイドさんが生きていることに涙がでてくる。


「生きててくれて、よかったです」


目元を拭って言うと、ドルイドさんが目を見開いた。

そして、いつもとは違う情けない笑いを見せた。


「うん。ありがとう」


いったいどれだけの危ない仕事をしたら、そんなに貯まるのだろう。

ポンと頭に乗ったドルイドさんの大きな手。


「これからは気を付ける」


「ドルイドさんは、もっと自分を大切にするべきです」


「……そうする」


「言っておきますけど、旅を一緒にすると決めた以上は」


「うん」


「私が目標を見つけて、達成するのを見届けてもらいますからね!」


「へっ?」


なんだか、ドルイドさんは自分がいなくなっても問題ないと思っている節がある。

そんなの許さないから!


「約束です。見届けると」


ただの口約束でも、ドルイドさんは守ってくれると思うから。

絶対に約束してやる!


「えっと」


「約束です」


「はい」


よし。

……それにしても1000ラダル。


「ドルイドさんの口座もびっくり箱ですね」


「……俺もそれに仲間入り?」


「既にドルイドさん自身が仲間入りしています。なので追加項目が増えただけですよ」


「喜んでいいのか複雑だ」


「ふふふ、確かに」


2人で笑って気持ちを落ち着かせる。

なんだか、今ので気持ちが切れてしまったな。


「とりあえず、家族登録と家族口座だな」


「はい」


「それと冬のための旅費だけど」


「冬のために貯めてきた旅費を口座に入れます。これは譲りません!」


「……仕方ないか。だったら俺は『同額入れてください』えっ?」


ドルイドさんの言葉を遮る。

絶対多目に入れるに決まっている。


「ドルイドさんは、私と同額を入れてください。ちょっと宿のランクが下がることになるかもしれませんが」


「それは問題ないよ。仕事で使う宿は最低ランクの宿だったから。風呂が無くて汚い宿」


さっきはお風呂が絶対にいるとか言っていたのにな。


「ここから2人で始めましょう」


「始める?」


「はい、この町からハタウ村まで頑張って収穫して、宿のランクをあげられる様に! 楽しそうだと思いませんか?」


上手くいかないかもしれない。

それでも、ドルイドさんと一緒だったらきっと楽しめると思う。

強い味方のシエル、ソラ、フレムもいるし。


「楽しそうか、でも収穫が無理だったら」


「その時は口座にある金額で泊まれる宿です」


「いいのか?」


「もちろん。私1人だったら最低ランクの宿だったはずなので」


と言うか、大金が入ったとしてもそうしただろう。

次の冬や、そのまた次の冬を考えて。

今はドルイドさんがいるから、そこまで悲観していないな。


「ぷ~!」


ドルイドさんとじっと見つめあっていると、部屋中にソラの声が響き渡る。

驚いてバッグを見る。

しまった、バッグから出すのを忘れていた。

ソラをバッグから出そうとすると自分でもぞもぞと這い出てくる。

そして、もう一度鳴くと、私とドルイドさんの間にある机の上に乗る。


「ぷっ!」


何だろう怒っている?


「てりゅ~」


フレムの声も聞こえる。

が、フレムは自分ではまだバッグから出れないようだ。

バッグがもぞもぞと動き続けている。

慌ててバッグから出すと、なんだかフレムも怒っている雰囲気。


「ごめんね。バッグから出すのをすっかり忘れてて」


2匹は反応せずに、じっと私を見つめてくる。

バッグに入れっぱなしだった事を怒っているわけではないようだ。

何だろう。

えっと、ドルイドさんと話していた内容を思い出す。

ソラが怒るような事は、話していないと思うけど。


「なんで怒っているんだ?」


「なんででしょう。あっ、もしかして」


「何?」


「収穫を手伝ってくれるの?」


「ぷっぷぷ~」


「てっりゅりゅ~」


よかった、正解みたいだ。


「ソラとフレムが手伝ってくれるなら心強いな」


「ドルイドさん、シエルもいますよ」


「ハハハ。そうだった」


さっきも思ったけど心強い味方が3匹もいる。


「「………………」」


「ドルイドさん。宿のランクを上げすぎるのはやめましょうね」


シエルとソラとフレムが本気で手助けしたらと思ったら、ちょっと逆に心配になった。


「そうだな、身の丈に合った宿にしような」


ドルイドさんも頑張る3匹の結果を想像したようだ。


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― 新着の感想 ―
全力出したら最上級の宿でもすぐ泊まれそうだもんな。
あっちの人の寿命が50~60歳だとしたら、9歳は働き始める年齢だよね?アイビーがドルイドに甘やかされるシーンはもう来なさそう、、
いや、依頼失敗したときのペナルティひどすぎる。
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