201話 きんばん?
「すまなかった」
ギルマスさんに呼ばれたのでギルドにきたのだが、部屋に入った瞬間に謝られた。
おそらく支払いの件だろう。
「あの顔をあげてください。私は……」
なんて言えばいいのだろう。
困っていません?
それとも、大丈夫?
「えっと、とりあえず話をしましょう」
「アイビーが、怒っていると聞いたんだが」
「えっ? 誰からですか?」
「師匠に」
「「…………」」
なんとなく無言でギルマスさんと見つめ合う。
そして2人同時にため息をついた。
もう、師匠さんは!
「よかった。遅れていることは分かっていたからな、本気で怒っていると思った」
「いえ、まったく怒っていません。忙しいのは分かっていたので」
「そうか。だが、それに甘えてしまったのは事実だ。他の冒険者だったら既に文句が出ているだろう」
何度も思うけどギルマスさんって本当に大変だな。
やる事が多すぎる。
そう言えば、他のギルマスさんには補助をする人がいたけど……いないのかな?
「あの、ギルマスさんを補助する人っていないのですか? 他の所では見かけたのですが」
「いることにはいるんだが、2ヶ月ぐらい前に子供を産んでな。今子育て中だから休みなんだ」
「色々と重なってしまったんですね」
「ハハ、まぁな」
「お疲れ様です」
「アイビーは本当に良い子だな」
なんだかしみじみ言われてしまった。
相当疲れが溜まっているようだ。
大丈夫だろうか?
「あっ、そうだ。これだ」
ギルマスさんが、数枚の紙を私の前に差し出す。
それを手に取って読んでいく。
1枚目は、ドルイドさんを助けた事とシエルが討伐したグルバルの謝礼金についてだ。
……えっと、ん? この金額間違っているよね?
目をこすってもう一度金額欄を確かめる。
『金貨6枚』
この金貨の謝礼金については幸香を見つけたことのお礼も入っているらしい。
未然に大惨事を防いだとあるけど、何のことだろう。
とりあえず、落ち着くためにもう1枚の紙を読んでいく。
こちらは森の奥で収穫してきた薬実などのギルドの評価と買取価格が提示されてあり、既に販売済みとある。
販売済み?
まぁ、いいか。
評価を見ると全て問題なかったようだ。
これはうれしい。
それにしても、薬実ってものすごく高い!
それに数点、思ってもいなかった金額がついている。
「悪い、薬実などの取引に不備があった」
「えっ?」
「本当は価格に問題がないかアイビーに確認を取ってから売るんだが、話がうまく伝わっていなかったみたいで気付いた時には完売していた。俺の不注意だ、本当に申し訳ない」
そう言うと、深く頭を下げるギルマスさん。
「大丈夫です。私が思っていたより高い価格がついているので」
本当に、買取価格を見て驚いた。
まさかこんなに高額だなんて……。
私、この町へ来るまでに結構な数を食べたよね。
あれをお金に換えると……考えるのは止めよう。
「本当に悪いな。商業ギルドとのやり取りなんて初めてだったから」
「お休み中の人が、してくれていたんですか?」
「交渉ごとはほとんど。俺は決裁と確認と冒険者どもの纏め役だったんだ」
それは、大変だ。
「他の人はいないのですか?」
「いることはいる。だが、冒険者たちの教育関係の補助が主な仕事だったから交渉ごとは苦手みたいだ」
これは本当に色々重なって手に負えないと言う感じだな。
「ゆっくり確実に1つ1つって感じですね」
「ん? ハハハ、そうだな。焦ってミスするより良いだろうな」
あ~、既に何かミスでもしたのかな?
本当に大丈夫なのかな?
あれ?
私、何かギルマスさんに言う事があったような、何だっけ?
「……なんだっけ?」
「アイビー、どうした?」
「いえ、ギルマスさんに言わなければならない事があったと……あっ!」
思い出した、ソラのポーションと、フレムの魔石だ。
えっと、言うなら今だよね。
「えっと、ちょっとお話が」
「な、何だ。そんな改まって言われると、怖いんだが」
「あの……話が外に洩れないようにできますか?」
師匠さんも、ドルイドさんも話をする時はマジックアイテムを使ってもらえと言っていた。
「あぁ、分かった」
ギルマスさんがマジックアイテムを持って来て作動させてくれる。
これで大丈夫。
「あの今回の任務で師匠さんが持っていたポーションと魔石のことなのですが」
それが私のモノだという事。
私がシエル以外にスライム2匹をテイムしていること。
そしてそのスライムがポーションと魔石を復活させたことを話す。
復活させたと言う言い方が合っているのか分からないが、何と説明したらいいのか思いつかなかった。
「あの復活と言っても、ソラはただ劣化版ポーションを食べて……良い所を集めているのかな? フレムは魔力を補充しているのだと思うのですが……」
説明って難しい。
なんとなく伝わったと信じよう。
あとは……今回のことで言っていない事はないよね。
話し出すと何を言えばいいのか、どこまで話したのか少し混乱してしまう。
「あ~、えっと……ちょっと待ってくれ。少し整理するから」
「はい」
ギルマスさんが頭を抱えて何かぶつぶつ言いだした。
なにこれ怖い。
ちょっと体を椅子の上で引いてしまう。
「ん? いや、そんな引かれても」
「ハハハ。すみません」
だって、怖かったんです。
「そうか。師匠が持っていたアレが……アレが……アイビー、またものすごい恐ろしいモノを」
「そうですよね」
「あの魔石の威力は全員が唖然としたからな」
「そんなにですか?」
「あぁ、死んでたリュウはかなり巨大で、燃やし尽くすには数日かかると誰もが思ったんだ。だからテントなどの準備を始めようとしていたら、師匠が火魔法が得意な奴に魔石を使わせると言いだして。まぁ、少し威力が増してもそれほど変わりはないと思ったんだが、いざ使ってみたら火柱が上がってな」
火柱!
それは、すごい。
「全員が唖然としたな。で、火柱が消えた後に残ったリュウの残骸を見て、あの魔石の威力が桁外れだと気付いたんだ。なんせ、巨大なリュウの半分が灰になっていた」
それほどだったのか。
確かに師匠さんは3回で片付いたとは言っていたけれど。
あの魔石でそれほどの威力なら、今回フレムが作り出した大きい魔石って……。
うん、深く考えるのは止めよう。
頭が痛くなる。
「そうか、あのポーションと魔石がアイビーの物なら師匠に用意した確認書はアイビーに渡せばいいんだな。ちょっと待ってくれ」
ギルマスさんが机に戻って何か新しい紙を出してくる。
それを私に渡す。
「ポーションと魔石の使用代金だ」
これを確認するのが一番怖いかも。
おそる、おそる書類に目を通していく。
ポーションを使用した人数と助かった人数。
魔石の使用法と結果。
そして金額…………金板3枚。
きんばん?
ばん?
ってもしかして板?
ちょっと頭が真っ白になる。
「問題ないか? もう少し出したいんだが、すまん。この町に余裕がないからな」
「大丈夫です。まったく問題ありません。それよりも多いぐらいです。なので全然」
ギルマスさんの言葉に、考える前に言葉が勝手に口から出ていく。
「アイビー、ちょっと落ち着こうか」
「……はい。ふ~、ちょっと金額を見て混乱してしまって」
「そうか。アイビーの年相応の姿を見れて俺はうれしいけどな」
ギルマスさんの言葉に心がスッと落ち着く。
「すごい金額ですね」
正直な感想が口から零れる。
「主にポーションの金額だな。冒険者たちの怪我を後遺症を残さず治療してくれた。本当に感謝しているよ。正直に言えば、今回の任務、半分生き残ればいい方だと思っていたからな」
えっ?
それは知らなかった。
だって、森へ行くときも問題ないって師匠さんもギルマスさんも、他の冒険者の人たちだって……。
やっぱりすごいな、町を守る冒険者の覚悟って。
「今回の任務はアイビーがいなかったら、もっと被害が増えていた。ありがとう」
「いえ、私は何もしていません。シエルたちが頑張ってくれたから」
「それは違うぞ。アイビーが俺達のことを認めてくれたから、シエルはきっと俺達を助けてくれたんだ。2匹のスライムだってアイビーが大切にしているから、色々と復活? させてくれるんだよ」
そうなのかな?
私がしてきた事で皆が頑張ってくれたのなら、うれしいな。