200話 のんびり
「「はっ?」」
ドルイドさんと師匠さんにフレムの事を相談してみた。
その結果、何とも言えない表情を貰いました。
嬉しくない。
「えっと、つまりそこらへんに落ちている石っころを魔石に変えたのか?」
「そう言う事なんでしょうか?」
やはりそうなるのかな?
「あの、使用して魔力が無くなった魔石を冒険者が捨てて行ったという事はありえませんか?」
「そういう事も、あるかもしれないな。魔石を見せてもらえるか?」
「あっ、これです」
フレムが魔力を補充した2個の魔石を2人に見せる。
「また、凄いのが出たな」
「石が魔石になるなんて聞いたことがないので、やはり使用済みの魔石が落ちていたって事でいいんでしょうか?」
ドルイドさんが私の持っている赤い魔石を手に取って、空中にかざす。
透明度が高いので魔石を通して向こうが綺麗に見えている。
「そうだと思いたいが。この大きさの魔石を使い切ったからと言って。捨てるか?」
「捨てませんね。俺だったら記念に取っておきます」
「そうだよな」
師匠さんたちの言葉に苦笑が浮かぶ。
やはりこの大きさの魔石は、記念に残すほど珍しいのか。
「それにしても透明度がいいな。ギルドに鑑定依頼したら話題になること間違いなしだ。しかもこの大きさ、他の町や村のギルドでも噂になるだろうな」
絶対に鑑定には出さないでおこう。
と言うか、そんな予定もなかったけど。
「それとこっちの無色の……魔力を感じるから魔石で間違いないのだろうが、無色か」
師匠さんが首を傾げる。
何だろう?
「無色の魔石なんて聞いたこと無いですね」
ドルイドさんの言葉に師匠さんが頷く。
つまり、属性不明の魔石?
「タンバスに鑑定をやってもらうか?」
タンバスさんは師匠さんの仲間でポーションを鑑定してくれた人だよね。
だったら信用していいだろう。
「お願いしてもいいですか?」
「あぁ、奴は新しいモノを鑑定するのが好きだからな。光るポーションを渡したら大喜びしていたよ。まぁ、ポーションの鑑定は不可能だったんだが」
新しいモノ?
「そう言えば、そうでした。旅の道中にも、初めての物を見つける度に予定とか無視して鑑定を始めるので随分と困った経験がありますよ。しまいには師匠と大ゲンカを始めるし」
どうやらタンバスさんと言う人は、自由奔放な人の様だ。
「あれは奴が悪い。不意に現れた魔物が、見たこと無いからまず鑑定させろとか、襲われている最中にほざきやがるからな」
それはすごい。
と言うか、討伐した後でもいいのでは?
「だからと言って、魔物そっちのけで喧嘩をするのはどうかと思いますよ」
「いいじゃねぇか。問題なく魔物は討伐出来たんだからよ」
「えぇ、俺とマルアルさんとギルマスでね」
「まぁ、そうだが。それまでの鬱憤が溜まっていたんだよ、奴が悪い」
すごく大変な旅だったんだろうな。
師匠さんとタンバスさんという、自由奔放な2人が揃っているのだから。
マルアルさんの苦労が目に浮かびそうだ。
「アイビー、旅の道中は助け合おうな」
「もちろんです」
ドルイドさんがあまりに真剣に言うので、しっかりと目を見て応える。
「俺だってやろうと思えばできるぞ」
「やろうとしないですよね」
「あぁ」
師匠さんの言葉にドルイドさんが大きなため息をつく。
私も苦笑してしまう。
「あの、どうしてタンバスさんは襲われているのに鑑定をやりたがったんですか?」
「魔物によっては、生きている間と死んだ後では少し鑑定結果が異なるらしい」
知らなかった。
鑑定はいつやっても一緒の結果が出るモノだと思っていた。
「それにしてもかっこいいな~。アダンダラをこんな間近で見ることが出来るなんて、感動だ」
話している間も、ずっとシエルを見続けていた師匠さん。
シエルは特に気にしていないのか、ソラと遊んでいる。
ソラがピョンピョンと跳ねてシエルのお腹に突撃。
それを前足でバシッと跳ね除けてソラが撃退されている。
それを繰り返しているが、ソラはあれでいいのかな?
前足で転がされているよりかは、まともな遊び方なんだろうか?
……ソラってMか?
「あれ? えむってなんですか?」
「えっ? えむ?」
……どうやら前の私の知識らしい。
ただ、言葉は出たが印象が浮かばないので中途半端だ。
珍しいな。
「どうした?」
師匠さんの言葉に首を横に振る。
私も分かっていないことなので説明は無理だ。
「大丈夫です」
「アイビー、ちょっとシエルに触っても大丈夫か?」
「シエル、師匠さんが撫でたいと言っているけど大丈夫?」
「にゃうん」
「良いみたいなので、どうぞ」
私とシエルのやり取りを見て、師匠さんが羨ましそうな顔をした。
「いいな。それものすごくいいな」
師匠さんに何度もいいなと言われてしまう。
さすがにちょっと対応に困る。
シエルが尻尾を振ると、師匠さんは私を見るのを止めてシエルにそっと手を伸ばした。
そして手が首元に触れたと思ったら固まってしまった。
「ドルイドさん、師匠さんはどうしたんですか?」
「大丈夫だ。感動しているだけだから」
感動しているのか。
それにしても師匠さんは今までの中で一番反応が大きい気がするな。
「うわ~、アダンダラに触ってしまった。あのアダンダラに」
小声でぼそぼそ何かを言っている師匠さん。
声が小さくてよく聞き取れないが、微かに聞こえた声で感動していることが伝わってきた。
「シエル、撫でていいか?」
師匠さんの声がちょっと震えている。
それが聞こえた瞬間、隣にいたドルイドさんが口を手で押さえるのが見えた。
どうやら噴きだすのを抑えたようだ。
「にゃうん」
「お~。答えてくれた! ありがとうな」
そっとそっと撫でる師匠さんは、いつもの師匠さんではなく子供の様で可愛らしい。
その様子を見ていたドルイドさんの口から、おかしな音が洩れる。
噴きだすのを我慢しすぎて音が洩れたようだ。
まぁ、確かにいつもの師匠さんを見ているので少し笑えるけど。
「お~、すごい! お~」
「ククク、駄目だ。おかしい」
師匠さんの反応に、隣から押し殺した笑い声が聞こえる。
「師匠さんが可愛らしく見えます」
「ぶっ! アイビー、それはない。絶対ない!」
私の言葉に噴きだしたドルイドさんは、首を横に振って否定している。
そこまで否定しなくてもいいと思うけど。
「そうですか?」
「あぁ、師匠を可愛らしいとか視力を疑うよ」
そこまで?
ゴザにドルイドさんと並んで座って、シエルと師匠さんが戯れている姿を眺める。
師匠さんは、かなりご満悦なのか顔がにやけっぱなしだ。
遊び疲れたソラが私の近くで寝始めると、フレムもソラに寄り添うように移動して寝始めた。
この2匹を見ているとほのぼのするな~。
「いいですね」
「何が?」
「こういうのんびりする日って」
「そうだな」
この町に来てから何かずっとバタバタしていた。
たまにはこうゆっくりのんびり過ごすのも悪くない。