197話 すごかった
「ドルイド、ほらよ」
師匠さんが夕飯の入っている袋をドルイドさんに渡す。
「あぁ、すみません……師匠?」
何故か中身を見たドルイドさんが嫌そうな表情を見せる。
何か食べれないモノでも入っていたのだろうか?
「おぅ、どうした?」
「これは夕飯ではなくて食材では?」
「俺は夕飯になるモノと言ったんだ、夕飯そのものとは言っていないぞ?」
「まぁ、そうですが」
「前にドルイドが作ってくれた何だったかな、それを頼むわ」
ドルイドさんがつくる料理?
食べてみたいな。
「師匠~」
「楽しみです!」
「えっ、アイビー?」
「えっ?」
あれ?
何故かドルイドさんが驚いた表情で私を見つめている。
何かおかしなことを言ったかな?
師匠さんがドルイドさんの手料理を食べたい、私も食べたい。
だから楽しみだと言ったのだけど。
「お~、ドルイド頼むぞ」
「はぁ、師匠。アイビーを巻き込んでからかわないで下さい?」
「残念ながら今日は本気でドルイドの料理が食いたくなったんだ。よく作ってくれただろう、名前は忘れちまったが」
「本当に?」
ドルイドさんが疑わしそうに師匠さんを見る。
それに師匠さんは肩をすくめるだけ。
その態度では本当か嘘か私には分からないけれど、ドルイドさんは諦めたようだ。
「まぁ、いいですけど。あれは肉と野菜のごった煮みたいなものですよ」
「そうなんだが、ドルイドがつくると何故か美味いんだよな。俺も何度か挑戦したんだぞ? 悲惨な結果になったが」
悲惨な結果がものすごく気になるが、なんとなく触れない方がいいような気がする。
ここは勘を信じよう。
それにしてもドルイドさんがつくるごった煮か。
どんな味なんだろう、楽しみだな。
「アイビー、そんな期待した目をされるとさすがに……」
「えっ?」
「いや、良いんだが。料理が上手いアイビーに期待されると緊張するな」
ん?
最後の言葉は小さすぎて聞こえない。
ただ私の名前が出たような気がするけど。
「ドルイドさん?」
「なんでもない。さて、作ってくるわ。簡単だからすぐだ」
「手伝っても大丈夫ですか?」
ドルイドさんも、私のように手順に拘る人かな?
それだったら下手に手を出さない方がいいのだけど。
「アイビー、作ってもらっている間に色々と訊きたいことがあるんだが」
「えっと」
食後でも問題ないなら後にしてもらおうかな。
「アイビー、ただ煮込むだけの料理だからこっちは大丈夫だぞ」
どうしよう……。
「今のうちにややこしい話を終わらせて、食後はゆっくりしよう」
私が悩んでいると分かったのか、ドルイドさんが提案してくれる。
確かに食後にややこしい話をすると眠くなるな。
「えっと、では夕飯楽しみに待ってます」
声をかけてから、師匠さんのもとへ行く。
師匠さんは既にお酒を開けて飲みだしていた。
「お待たせしました。えっと話とは?」
「あぁ、ポーションと魔石のことなんだが」
あぁ、ソラのポーションとフレムが量産した魔石のことか。
使ったのかな?
「使ったんですか?」
「あぁ、グルバルの大群に襲われた時はさすがに無傷とはいかなかったからな。あれ凄いな」
怪我の話だからポーションだよね。
「傷は治りましたか?」
「治るなんてもんじゃない。引きちぎられた腕がたった1口でくっついた」
えっ、一口?
それだけで?
「角で大きく傷を負った冒険者が多くてな。ポーションを誰に使うか迷ったんだ。で、とりあえず、出血を止める必要があったから一口ずつ飲ませたんだ」
確かに森の中で一番最初に行う応急処置は止血だ。
ポーションで傷が治っても貧血で歩けなかった場合、他の魔物に狙われる可能性がでてくる。
森の中で逃げられない状態になる事だけは、絶対に避けなければならない。
「普通は傷口にかけるべきなんだが、量が少なかったからな。まぁ、それでも体の中に入ればあのポーションならある程度役立つと思ったんだ。で、次に医療班が通常のポーションで治療をしようとしたら必要がなかった」
「必要がなかった?」
「あぁ、全員の傷が治っていた。しかもあと少しで落ちそうだった腕までくっ付いていた。あのポーション、やばいぞ」
たった一口で?
腕もくっついた?
あまりにすごい話で、現実味がない。
「本当ですか?」
「あぁ。後、預かっていた魔石。SSSの魔石だが、あれは威力が強すぎる。火魔法が得意な奴にあの魔石を使って死骸を焼いてもらったんだが、3回魔法を使用しただけで巨大なリュウの死骸が灰になった。早く帰って来れたのも、処理が1日で済んだからだ。予定では3日ぐらいかかると思っていたからな」
3日掛かる予定を1日と言うか3回。
いったいどんな威力の魔法になったんだろう。
「それと、火魔法が使えない冒険者に魔石を使ってもらったんだが、初級の火魔法なら使えるようになった」
ん?
火魔法が使えない冒険者が火魔法を使えるように?
それって、私も火魔法を使えるようになるのかな?
使えたらうれしい……だけど、使う時にあの綺麗な魔石を出すの?
絶対無理!
「喜んでいたが、SSSの魔石を使ってだからな。無理だと嘆いていたよ」
それはそうだろうな。
SSSの魔石なんていったい幾らするのか、想像すらできない。
「これ、返すな。あと、レベル5の魔石なんだが、使い切っちまって。これ、残骸の石なんだが」
「ありがとうございます」
魔力を使い切った20個の石を見る。
確かに捨て場でよく見る石だよな。
「りゅっりゅ、てりゅ~」
相変わらず何とも言えない鳴き方だ。
「フレム、どうしたの?」
フレムを見ると、私の手をじっと見ている。
手の中には魔力を失った魔石。
「これ?」
「りゅ~、りゅ~」
フレムが振り子のように左右に揺れる。
「フレムが作ってくれた魔石、大活躍したって。ありがとう」
魔力切れの魔石の石をフレムの前に並べる。
すると器用に1個口に咥えて飲み込む。
そして体内でしゅわ~っと泡が発生。
しばらく見ていると。
「りゅ~りゅりゅ~……ポン」
コロンとフレムの口から魔石が飛び出してくる。
何と言うか、可愛らしいのだがSSSの魔石が出てくるかもしれないと思うとドキドキだ。
「よかった、普通の魔石ですね」
「普通はレベルの高い魔石を希望するんだが」
「いえ、SSSの魔石なんて使いようがありませんから」
「売ったら……駄目だな、目立つ。冒険者として名が知れていたら、討伐で手に入れたと言えるが」
「私では無理ですよ。ドルイドさんだったらどうでしょうか?」
「そうだな、冒険者の時に手に入れたと言えばある程度は誤魔化しがきくだろうな」
そっか。
もしもお金に困ったらドルイドさんに協力してもらって魔石を売ろうかな。
「あっ、今回使用したポーションと魔石の費用は請求しといたから」
「えっ?」
「ゴトスの奴、頭を抱えてたぞ」
あれ?
ポーションや魔石のことを、ギルマスさんに話し忘れているような?
「別に費用は良かったのですが。あの、ギルマスさんにポーションのことを説明し忘れているような気がするのですが……」
「俺が代理で請求しておいたから、支払われたらそのまま渡すな。それと、使用したモノの請求はしっかりと行わないと駄目だぞ」
「そういうモノですか?」
「あぁ。ギルドの評価にも繋がるからな」
「評価?」
「そうだ。冒険者も金払いの良いギルドの方が安心だろ?」
確かに、支払いに問題があるギルドの仕事はしたくないだろうな。
「冒険者にとってギルドの評価と言うのは重要だ。生活に影響を及ぼしかねないからな」
「分かりました、ちゃんと請求します。あのポーションのことギルマスさんに説明しておきますね」
「ん? 問題はないか?」
問題?
「特に問題はありませんが……」
「そうか。だったらいいんだ」
「できました。師匠、ギルマスには話し忘れていただけなので大丈夫です」
大丈夫?
さっきから何だろう?
「アイビー。ギルマスにポーションのことを話していないのは、ギルマスに何か問題があって話せないのかと師匠は考えたんだよ」
「……えっ! 違います! 違います!」
「ハハハ、そうみたいだな。よかったよ」
なるほど、だからギルマスさんに説明せずに間に立ってくれたのか。
「ありがとうございます」
「ハハハ、この件でゴトスをからかえると思ったからだぞ」
師匠さんてすぐに本心を隠しちゃうな。
もしかして恥ずかしいとか?