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195話 師匠さん切れてます

大通りに溢れかえる人を見て感心してしまう。

大きな町だとは知っていたが、これほどの人がいるなんて。


ドルイドさんの成功報告から4日目の昼。

予定より1日遅れたが、今日は師匠さんたちが帰って来る日。

朝から町の人たちが大通りを飾り付けするなど既にお祭り状態。

前の時と違うのは、飲んでいる人を見かけない事だ。

何でだろう?


「すごいですね。というか、ドルイドさんは今日は良いのですか?」


「今日は飲んで騒ぐ奴はいないから。通常の警備だけで問題ないんだ」


「そうなんですか?」


「命がけで戦ってきた英雄を迎えるのに、酒に酔っていては失礼にあたるという考えがあるんだ。今日飲む奴は、英雄とその家族ぐらいだ」


なるほど、だから警備の人たちも少ないのか。


「それにしても、今回はかなり手が込んでいるな」


「そうなんですか?」


「あぁ、ここまで大通りを飾り付けして迎えるのは珍しい。それだけ影響が大きかったという事なんだろうな」


集められた花々で飾り付けられた大通りを見る。

森で見かける花も多くある。

きっと朝から多くの人が森へ出かけて集めてきたのだろう。


「あっ、君。君」


後ろからどこかで聞いたことがあるような声が聞こえた。

後ろを見ると……あっ、奴隷商の人だ。

残念ながら名前が思い出せない。


「えっと、お久しぶりです」


「会いたいと思っていたんです」


「えっ?」


あっ、そういえば条件に合う奴隷さんを探してくださいと言って、断るのを忘れていた。

どうしよう。


「申し訳ありません。グルバルの事があって新しい奴隷が集まらなくて、まだ探せていないのです」


そうなんだ、良かった。


「あの、その事なんですが、旅のお供が見つかりまして」


「あら、そうなんですか? よかった。ずっとお待たせしているのではと心配していたんです」


あ~、悪い事をしてしまった。


「すみません。断りを入れるのを忘れていて」


「いえいえ、大変な状況だったのですから仕方ありません。では、また何かありましたら」


「はい。ありがとうございました」


奴隷商の店主さんは、特に気にした様子も無く対応してくれた。

よかった、これで見つかりましたと言われたら断れなかった。


「ゴルギャ奴隷商の店主だよな、今の」


ゴルギャ?

そんな名前だったかな?


「名前を忘れてしまいました」


「あははは、珍しいな」


「いえ、たまにいるんです。ものすごく覚えられない人が」


ドルガスさんも覚えられなかったもんな。

なんとか覚えられたけど。


「へ~、性に合わないとかそんな感じなのかな?」


そうなのかな?

……そうかもしれないな。

ドルイドさんとゆっくり話をしていると、町の門の方から歓声が上がった。

どうやら帰って来たようだ。

歓声がどんどん街の中に広がっていく。

それをなんとなく不思議な気持ちで眺める。


「近くに行かなくていいのか?」


「はい。此処でいいです。ドルイドさんは?」


「あ~、あそこまで騒がしいのは苦手だな」


ドルイドさんと私はお祭り騒ぎから少し離れた場所にいる。

活気があって楽しそうだが、人が多すぎてちょっと苦手だ。

なので外から眺めるぐらいがちょうどいい。


「師匠も苦手なんだぞ。あそこまで騒がしいの」


「そうなんですか?」


「あぁ。『もみくちゃにされても文句も言えん』とぼやいていたよ」


師匠さんなら遠慮なく言いそうだけどな、『鬱陶しいわ!』と。


見えてきた師匠さんの姿に、2人で笑ってしまう。

確かに、顔が引きつっている。

しかも笑っているけど、青筋が立っていそうな笑顔だ。


「すごいな……あっ、今こっち睨まなかったか?」


「睨んだように見えましたね」


「あれは切れているな、あとで俺達だけ卑怯だと絡まれそうだ」


「ハハハ。それにしても、凄いですね。あの師匠さんに触ろうとするなんて」


顔が引きつって、なんとなく殺気まで感じる笑顔の師匠さんに触ろうとする人たちを眺める。

私にはそんな勇気はありません。


「一応、お礼と言う意味もあるんだけどな。あそこまでされると嫌がらせの様だな」


まぁ、本当に感謝を込めているのだろうけど、人数が多すぎる。

疲れているところにあれでは、ちょっと可哀想。


「さて、師匠もギルマスも元気そうだから、行こうか」


ドルイドさんと大通りから離れる。

グルバルの事も片付いたので、これからのことを話し合う予定になっている。

これから冬に向かっていくので、どの辺りで冬を越えるか。

2人の旅になるのでその準備も必要になってくるらしい。


広場に戻って机の上に地図を広げる。

後、紙と筆を用意する。


「とりあえず、必要な物を書いていくな」


「はい」


ドルイドさんが紙に2人で旅をするのに必要な物を書き込んでいく。


「それほど荷物を多くする訳にはいかないからな」


「そうですね」


「あっ、相談があるんだが」


「はい、何ですか?」


「テントだけど、3~4人用のテントを使うようにしても良いかな? それとも1人の方が気が休まる?」


テント?

3~4人用という事は一緒に使うって事だよね。

別に問題はないな。


「一緒で大丈夫です」


「よかった。昔師匠と一緒に行った討伐で、手に入れたマジックアイテムのテントがあるんだ。テントの中を区切ることが出来るし、性能も良いから役立つと思う」


「マジックアイテムのテント?」


「あぁ、声が外に洩れない機能がついている。あと見た目と中の広さが異なるんだ。見た目より中が広いテントだ」


「すごいですね。そんなテントがあるんですか?」


「かなりレア度の高いテントだよ。ソラとフレムも少しぐらい暴れても問題ないと思う」


楽しそうに笑うドルイドさん。


「どんなテントか楽しみです」


「あぁ、点検に出しておくよ。たぶんすぐに見つけ出せると思うから」


見つけ出せるってどういう意味だろう?


「机は師匠がくれたし。あぁ、そう言えば寝床マットがどこかにあったはずだ」


「寝床マット?」


「ん? 知らない?」


「はい」


「マジックアイテムの寝床で、クッション性が良くて寝心地がいいらしい」


「らしい?」


「あぁ、使った事はないんだ。どこにしまい込んだかな? あの部屋か?」


なんだかすごい旅の装備になっていくな。

いいのかな?

全部ドルイドさんの物だけど。


「あの……」


「確か4個ぐらいあったはずだからアイビーの分と俺の分。予備として残りも持っていくか。小さくなるからそれほど荷物にもならないし」


「あっ、はい。あの」


「どうした?」


「私も一緒に使っていいのですか? ドルイドさんが手に入れてきた大切な物なのに」


「使ってくれた方が嬉しいかな。どこかの部屋で埃をかぶっている物ばかりだから」


「そうなんですか?」


話を聞く限り、かなり良いマジックアイテムだ、と言うかレア物だ。

売らずに手元に置いていたという事は大切だったからでは?


「金に困ったら売ろうかと手元に置いておいたが、1人だとそれほど金も必要ないからな。旅に誘われるまで、存在そのものを忘れていた物ばかりだ」


お金に困ったら売るなんてすごい考えだな。

私だったら速攻でお金に換えてしまいそうだ。


「あの、では遠慮なく使わせていただきます」


「あぁ。それで1つお願いがあるんだけど」


「なんでしょうか?」


「俺の家の整理を手伝ってくれないか? 他にも旅に使えそうな物があったはずなんだが、何処にあるのか思い出せないんだ。物置に使っている部屋が3つあって、そのどれかにはあると思うんだが」


「構いませんよ、手伝います!」


「ありがとう。そうだ、要らないモノを売るか。旅費に追加できるしな……ついでに家も売るかな」


「えっ! 売っちゃうんですか?」


一度行ったことがある家を思い出す。

ちょっとさびしい場所ではあったが、それなりに大きな家だった。


「あの家は、人を避けるために買ったようなものだ。旅から帰って来て、もう一度この町に住むとなってもあそこはもう必要ない」


ドルイドさんにとって、あの家は逃げ場所だったのか。

でも、もう必要ないって。

そっか……ふふ、嬉しいな。


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― 新着の感想 ―
帰る家がちゃんとあるのはいいことだけど… 物置3部屋はちょっと引く…
[一言] 3つの部屋が大変な事になってそう。。。 宝探しだー
[良い点] もう帰る家ではないってことかぁ、嬉しいね [気になる点] ただ、家の物置を見てドン引きしそう
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