193話 お料理教室
「おはようございます」
「おはよう。今日もよろしくね」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
師匠さんたちが、凶暴化対策のため森へ出て3日。
結果が分かるまで1週間以上はかかるそうだ。
「今日は15人で、ちょっと多いのだけど大丈夫かしら? シリーラが手伝う事にはなっているのだけど」
米を購入してくれた人たちが『米の炊き方が分からないから教えてほしい』との依頼が大量にきたと、2日前に店主さんに相談された。
そこで店主さんのお店の調理場を借りて、料理教室のようなモノを開くことになった。
料理教室と言っても米を炊くときの水分量の調整と、味付きおにぎりを作るための調味料の分量や中の具材についての説明ぐらいで簡単。
「大丈夫です。それほど難しい事はしていないので」
「よかった。それと悪いのだけどまだまだ依頼がきていて、受けても大丈夫かな? ドルイドからは絶対に無理はさせないようにと注意されているのだけど」
「ふふ、大丈夫です。それにシリーラさんもいてくれるので」
「ありがとう。そうだ、1回に参加できる人数だけは決めておきましょうか。どんどん増えていきそうで怖いわ」
「はい」
奥さんと1日に受ける人数を最大15人までとするなど、色々と細かい事を決めていく。
「ありがとうございます。準備してきます」
「はい。あと少しでシリーラも来るから」
「はい、わかりました」
奥さんと別れて、調理場へ向かう。
調理場には昨日使った大量のお鍋が干してある。
それを1つ1つ、汚れが無いか確かめながら準備を整えていく。
えっと、今日の予定は15人か。
昨日より4人多いな。
頑張ろう。
「アイビー、おはよう。さて、今日も頑張って教えるわよ!」
「おはようございます」
シリーラさんは、どうやらこの料理教室が気に入ったようだ。
というか、この世界では料理教室のようなものはなかったようで、説明した時にものすごく不思議がられた。
あの時はまたやってしまったと後悔したが、シリーラさんの楽しそうな姿を見ていると、言ってよかったと思えるから不思議だ。
「ドルイドってものすごく心配性だったのね。今日も朝から、くれぐれも疲れさせないようにと注意されたわ」
「ハハハ、すみません」
原因は怒涛の2日間にある。
米の普及が上手くいったことで疲れが出たのと、終わった安心感でちょっと熱が出てしまった。
テントの中で熱によりふら付いていると、フレムがいきなり私を包み込んだ。
で、すぐに熱は引いたので問題ないのだが、その事をドルイドさんに話すとものすごく心配された。
私としては『フレムにもソラの様な事が出来るみたいです』という報告だったのだが。
その後に店主さんが相談に来て、ゆっくり休む必要があるとドルイドさんが断ろうとするから焦った。
なんとか休憩を十分取る事と無理をさせない事を店主さんと約束して、今回の許可が下りたのだ。
心配性のお父さんってあんな感じなんだろうか?
「さてと、準備はこれで完了ね。あっ、丁度今日の人たちが来たみたい」
「そうですね。では今日もよろしくお願いします」
「こちらこそ」
…………
「お疲れ様です」
「2回目にもなれば、慣れるモノね」
「そうですね。昨日より手際よく出来たので、早く終わる事も出来ましたね」
後片付けをしながら、明日の準備も同時に行う。
「終わりました」
大量のお鍋を洗い終え、ぐっと腕を伸ばす。
さすがにずっと下を向いてごしごし洗っていると腕が疲れる。
「よし、こっちも終わり。アイビー、休憩しましょう。お菓子があるよ」
「ありがとうございます」
お茶を入れてもらって、ゆっくり飲みながらお菓子を楽しむ。
小さい団子で甘い蜜が掛かっている。
そういえば、団子ってもち米なのかな?
……ドルイドさんに確かめてみよう。
「『こめ』でお菓子が出来たりしないかな?」
米のお菓子?
……何も思い浮かばないな。
前の私も知らないって事かな?
「どうでしょう?」
「ん~何か出来そうだと思わない? そうだ、色々考えてみない?」
「楽しそうですね」
「何がだ?」
2人しかいないと思っていたので少し体がびくりとする。
声の方に視線を向けると店主さんと見たことがない男性。
頭を下げると、何故か驚いた表情をされた。
何だろう?
「『こめ』農家のダッシュだ。『こめ』が無くなりそうだから、これからどれだけ購入するかの話し合いだ」
無くなりそう?
あんなに大量に積み上がっていた米が?
「君がアイビーちゃんでいいのかな?」
おっ、ちゃん付けって何かドキドキする。
そういえば、あまりちゃん付けで呼ばれないな。
……なんでだろう?
「はい」
「まさかこんな幼い子が『こめ』の使い方を発案してくれたなんて」
ハハハ、慣れてきたな~。
「あら、アイビーは9歳よ?」
「えっ! すみません、失礼なことを」
「いいえ。大丈夫です」
「あの、君のお蔭で、私たちは子供を安心して育てることが出来ます。本当にありがとう」
涙ぐまれた。
「いえ、たまたまですから。えっと、ありがとうございます」
何故かダッシュさんと私でぺこぺこと頭を下げ合う。
なぜここまでと思ったが、確か土地を購入したけど米しか育たない荒れ地で、身動きが取れない状態になっている、と聞いた気がする。
「おいおい、2人ともいつまでしているんだ?」
よかった。
どうしたらいいのか分からない状態になっていたのだ。
「あ~、すみません。困らせる気はなかったんだが」
「いえ、大丈夫です」
ダッシュさんと視線が合って、2人で苦笑いしてしまった。
店主さんが呆れた顔で彼の肩を叩く。
「まったく、それより『こめ』のことだが」
「ハハハ、すまない。そうだ、『こめ』はどれだけ必要なんだ? 無くなりそうと言ったが、いつ頃持って来たら良いんだ?」
ダッシュさんが店主さんに訊くと、店主さんはニヤリと笑った。
「明日には無くなるからな、持っている在庫全部くれ。入金はすぐに行う」
「……は? えっと明日無くなる? あんなにあった在庫が? えっと持っている在庫全部?」
ダッシュさんが店主さんの話を聞いて驚いた表情をした。
私もかなり驚いた。
店主さんが持っている米の量を見せてもらったが、かなりの量が積み上がっていた。
それが明日には無くなるなんて、凄い。
「あぁ、他の在庫が切れたとはいえ、凄い勢いで『こめ』が購入されている。どうやら自由に味付け出来るところが気に入ったらしい。あっ、もしかして他の所から購入したいという希望が来ているのか? だったら無理にとは言わないからな」
「いやいやそんな、店主に売るよ。今までの恩があるのに」
「それは駄目だ。ちゃんとこれからの事を考えてしっかり商売しないと」
「ハハハ、相変わらずだな店主は。だが、他の所からは欲しいという依頼は来ていないから、全て欲しいのなら全て店主に売るよ」
「おぉ~、それは助かるよ。奥で話そう」
店主さんとダッシュさんが奥へ行くのを見届ける。
「すごい事になっていますね」
「そうなのよ『こめ』は虫がつきやすいから一度に大量には売れないからね」
虫?
そうなんだ、私も米の扱いには気を付けよう。
「さて、お菓子を考えよう!」
「あっ、はい」
米を使ったお菓子……何かあるかな?