192話 2日後
「シエル、町の近くに凶暴化した魔物がいっぱい集まりだしているから気を付けてね。危ない事はしたら駄目だよ?」
アダンダラって戦闘が好きな魔物なんだっけ?
絶対にダメって言うと、シエルにとって負担になるのかな?
「えっと、シエルが絶対に勝てると思うなら、少しは戦闘して良いからね。ただし、危ないかな? ってときは駄目だよ」
「にゃうん」
他に言っておくことは。
「あっ、この町の冒険者が凶暴化する原因の対処に向かうから、見られないように気を付けてね。シエルのことを知っている人が参加しているから、間違って討伐対象になることはないと思うけど。多くの冒険者が参加するから、警戒だけはしておいてね」
「にゃうん」
「それとね、森の危険度が上がっているから町から出られないかもしれなくて。数日これなかったらごめんね」
「にゃっ!」
「早く元に戻ればいいのにね」
「にゃうん」
「いつ見ても不思議な光景だよな」
えっ?
ドルイドさんの言葉にシエルと首を傾げる。
何が不思議な光景なんだろう?
「いや、いいんだ。気にしないでくれ」
いいらしい。
何度もシエルの頭をゆっくりと撫でる。
「シエルが小さくなれたら、町へ一緒に行けるのかな?」
「まぁ、アダンダラとばれなかったら大丈夫だろうけど、無理だしな」
「そうですね。さて、シエル行くね。また来るね」
「にゃうん」
シエルが気になるが、仕方ないので別れて町へ戻る。
「そういえば、今日はあいつ等来ないな?」
そういえば、結構森にいるけれどお迎えはないみたいだ。
まぁ、今日は色々な事があったからお迎えが無くてよかった。
門番の姿が見えたので軽く手をあげると、すごい勢いで手を振り返された。
心配はされていたようだ。
何かあったのだろうか?
「ただいま」
「よかったよ。全然戻ってこないから行こうと思ったら、ドルイドの師匠に止められるしよ~」
あぁ、師匠さんが止めてくれたのか。
きっとシエルと会っていることを知っているから、邪魔しないようにしてくれたんだろうな?
「心配だと言うと『俺特製の激袋を持たせているから問題ない』と断言されて」
「心配してくれてありがとうございます。でもこの通り問題なかったので」
「まぁな、でも気を付けてくれよ。昨日の夜なんて、ほんの目と鼻の先まで来ていたからな」
「そうなんですか?」
「あぁ、夜の見回りの人数を増やすことも決定したよ。なんだか嫌な感じだ」
門番さんが険しい顔をする。
確かに森に残された痕跡は、かなりこの門の近くまで迫ってきていた。
やはりシエルが心配だな。
門番さんと別れてギルドに向かう。
魔石とポーションの鑑定をお願いするためだ。
ちょっとドキドキしている。
見た目があれだけど鑑定したら『普通』とか、ないかな?
……ないな。
下手な期待はしないでおこう。
ギルドに入ると、冒険者たちで溢れかえっている。
そういえば、準備のために集まるとか言っていた。
「ドルイドさん、邪魔になりませんか?」
「ん? 大丈夫だよ。こっちだ」
人を避けながら2階に上がる。
2階には人がいないのか静かだ。
「準備をしていると言っていたから、あ~、たぶんあの部屋だ」
ドルイドさんが目星を付けた部屋の扉を叩く。
「開いてるぞ~」
中から声が聞こえたので扉を開ける。
中では大量の激袋と……何か分からないが作っていた。
「お~ドルイド、どうした?」
「ちょっと師匠とタンバスさんにお願いがありまして」
「ん? アイビーも一緒という事か?」
「はい」
「了解。此処は頼むぞ。数はこの倍は欲しい」
師匠の言葉に手伝っていた人達が了解の旨を伝えている。
私も手伝えるなら手伝った方がいいのかな?
「どうした?」
師匠さんと作業をしていた部屋を出て、近くの部屋に入る。
そして会話を外に漏らさないようにマジックアイテムを出してくれた。
「タンバスさんに鑑定してもらいたいモノがありまして。アイビー」
「はい」
バッグから27個の魔石と光るポーションを取り出す。
よかった、零れてないや。
実は瓶には蓋が無く、バッグの中で零れないかとひやひやしていた。
「また、すごいモノを持ってきたな……なんだこの魔石、向こうが綺麗に見えてる……それに光ってるが、これ傷のポーションか?」
「はい、ポーションはソラが、魔石はフレムが」
「……あ~、うん。ポーション、アイビーのソラ……そうか」
師匠さんはちょっと混乱中のようだ。
えっと、こういう時は落ち着くまで待てばいいのだったかな?
前の時がそうだったもんね。
「ふ~、とりあえず、タンバスを呼んでくるわ。いや、アイビーは帰って良いぞ。知られない方がいいだろう」
えっ?
別に、いいけど?
「……アイビー? 俺が前に言った事を覚えているか?」
前に言ったこと?
何だっけ?
えっと……あっ、人をすぐに信用するな?
「でも、師匠さんの仲間だった方ですよね?」
「それでもだ。俺も数年ぶりに会ったからな、変わらないと思うが一応だ」
「えっと」
師匠さんが言うなら、そう行動した方がいいかな?
「分かりました。鑑定お願いします」
頭を下げる。
「おう、あっ、待て。一筆書くわ」
師匠さんは、私から魔石とポーションを預かった事を証明する書類をすぐに作成して渡してくれた。
「師匠、広場で待っていますので。よろしくお願いします」
「よろしくお願いいたします」
2人で頭を下げる。
「任せとけ」
ドルイドさんと部屋を出る。
「いいのでしょうか? お願いしてしまって」
「まぁ、師匠は言い出したら聞かないから」
ドルイドさんが肩をすくめる。
確かに師匠さんを説得するのは難しいだろうな。
広場に戻り、師匠さんが来るので夕飯の準備に取り掛かる。
時間があるので、残っているお肉を全て煮込んでしまおう。
師匠さんと、ドルイドさんに少しでも体力のつく物を作りたい。
森への出発は2日後に決定したとギルドで聞いた。
師匠さんは、リーダーとして参加することが決定したらしい。
ドルイドさんは手薄になる町の警備に参加するそうだ。
…………
「悪い、遅くなった。良い匂いだな」
「お疲れ様です。すぐに準備しますね」
「ありがとうな。それと後でちょっとお願いがある」
お願い?
気になるが、食事の後でいいかな?
まずは腹ごしらえだ!
数時間煮込んだお肉に、味付きのおにぎり。
既に麦や小麦はほとんど町から消えている。
米の普及が間に合ってよかったと、商業ギルドのギルマスさんがわざわざ店まで来てお礼を言って来たらしい。
「「「いただきます」」」
お肉にスプーンを入れると、ほろほろと崩れる。
いい感じだ。
味も、大丈夫。
「アイビーの料理の腕は確かだな。食べたことがないモノも多いが美味い」
師匠さんの言葉に嬉しくなる。
「ありがとうございます」
「ハハハ、それは作ってもらった俺達が言う言葉だぞ」
途中、過去のドルイドさんの話になってドルイドさんが慌てる事もあったが穏やかな時間が過ぎる。
何故かグルバルの件は一切、話に出なかった。
食事が終わり、食後のお茶を飲んでいると師匠さんが小さなバッグと書類を机に置いた。
不思議に思っていると。
「さすがに此処であれらを出すわけにはいかないからな。バッグの中身を外に出さずに確認してくれ」
あぁ、そうか。
ここで魔石とか光るポーションは取り出せないよね。
小さなバッグの中を見る。
確かに魔石とポーションだ。
あれ?
ポーションの瓶に蓋がついている。
「問題ありません。というか、蓋ありがとうございます。これは?」
「鑑定書だ。全部で28枚ある」
魔石27個分とポーション1本分かな。
書類を見ていく。
最初は濁りのあった魔石の書類……濁り具合と魔石に含有している魔力量が記載されている。
魔石レベル5
「レベルとは何ですか?」
「それは魔石のレア度を示すんだ。数が小さくなっていくほどレア度が高くなる。一番下は10」
一番下が10、えっとぱらぱらと書類をめくっていくと27個中レベル5が一番下の様だ。
それが20個、レベル4が3個、レベル2が2個、レベルSSSが2個、SSSって?
「レベル1より上はSで表現される。最高レベルはSSSだ」
えっとつまり、あの綺麗な赤の魔石は最高レベル。
うわ~。
最高レベルって……怖い。
えっと最後の1枚はポーションだよね。
何だろう。見たくないような、見たいような。
大きく深呼吸してポーションの書類を確かめる。
ポーション鑑定、不可能。
……不可能?
えっと、ポーションではなかったという事?