191話 レア中のレア
やるべき事を終わらせようと、私はポーション。
ドルイドさんは剣を拾って、それぞれのバッグをいっぱいにする。
「ありがとうございます。すみません、手伝ってもらっちゃって」
「手分けした方が早いだろ? それに一緒に旅をするのだから、これからは俺の役割だな」
たしかにドルイドさんがいてくれると早く終わる。
それに、一緒に旅をするなら役割は必要になってくる。
なんだか、本当に一緒に旅をするんだなと、いきなり実感してしまった。
「さて、フレムのもとに戻るか。アイビー、先にどうぞ」
「いえ、ドルイドさんこそ」
お互いに譲りあう理由はポン、ポンと聞こえてきた音のせいだ。
いったいいくつの魔石を作り出したのか、見るのが怖い。
ドルイドさんと視線が合って、2人で苦笑い。
一緒にフレムのもとへ行く。
「フレムの新しい能力が分かったのは、嬉しい。ただ、レア度が上がったから素直に喜べないな」
ドルイドさんの言葉に頷く。
新しい能力というか食べられる物が分かってよかったとは思う。
ただ、魔石を作りだすのはどうなんだ?
「しかし魔石を復活させるスライムか、すごいよな」
「ぷっぷぷ~」
「ん? ソラはポーションを復活させるスライムだな」
「えっ?」
「ソラに空瓶を渡したら、最高級のポーションを詰めてくれたりして」
「ぷ~!」
「「……」」
ドルイドさんは自分で言った言葉に顔を顰める。
おそらくなんとなく言った言葉なんだろうけど、結構重要な事だと気が付いたのだろう。
しかもソラが自信ありげに鳴いたような気がする。
ソラは傷ついた人や魔物を包み込んで、作り出したポーションで治癒している。
と、思われる。
瀕死の傷まで治癒するポーションをビンに詰めることが出来たら。
きっと永遠にマジックバッグの中に封印だろうな。
少しでも出回ったら、大騒ぎになる。
でも。
「……確かめてみますか?」
ドルイドさんの上にいるソラを見る。
嬉しそうにプルプル揺れている。
「……そうだな。まぁ、結果はソラの様子で分かるような気がするが……」
ドルイドさんの言う通り、ソラの先ほどの鳴き方と今のようすで、瓶に入ったポーションが想像できてしまう。
「一度、ソラの傷を癒すポーションの品質を調べたいとは、思っていたんです」
私の傷を癒してくれた時に、思ったことがあった。
ただ、ソラがものすごい事をしていると知る前のことだが。
今は怖くて知りたくないような、でも仲間のことだから把握しておきたいような。
「調べるなら、師匠の仲間が出来たはずだ」
師匠さんの仲間。
確か、マルアルさんとえっと……タンバスさんだ。
「ポーションを調べるのに何か資格がいるんですか?」
「鑑定スキルを持っていないと出来ないよ」
あっ、鑑定スキル。
確か星が多いほど詳しく調べることが出来るんだっけ?
「持っているんですか? すごいですね」
「あぁ、確か星4つだったかな。あっ、ちなみにタンバスさんの方な」
星4つ!
凄いな。
タンバスさんか……あれ? どんな姿だったのか思い出せないや。
ゆっくり歩いていても、フレムの下についてしまった。
少し前から見えていたので、驚きはしないが……。
フレムの周りのゴミの間に魔石、魔石、魔石。
「ゴミに埋もれそうな大量の魔石なんて初めて見た。というか……」
ドルイドさんがフレムを見て困惑した表情を見せる。
私も少し困惑中だ。
フレムはおそらく食事中に寝てしまったのだろう。
口に石を咥えている。
そこまでは、まぁちょっと考えものだがいい。
石を口に咥えているため、よだれが……よだれの垂れ方がすごい。
「にゃうん」
シエルのちょっと情けない声。
もしかしたら起こそうとしてくれたのかもしれない。
「シエル、フレムを見てくれてありがとう」
「にゃうん」
「フレム、えっと起きようか……無理か」
そっと口に咥えている石を取り除く。
くっ……よだれが。
どう頑張っても、よだれを避けては通れないらしい。
フレムをそっと抱き上げて……、地面とフレムの間でよだれの糸が……。
「ぶっ、くくくく」
「ぷぷぷぷぷ」
ドルイドさんが我慢できずに噴きだした。
ソラも何だか笑っている雰囲気だ。
「仕方ないとは思いますけどね」
「ごめん、ごめん。手伝うよ」
「あの、ソラたちのバッグに布が入っているので取り出してもらえますか? とりあえず体を拭かないと」
この状態ではバッグに入れることも出来ない。
ドルイドさんから布を受け取り、フレムを綺麗に拭いていく。
よだれにフレムが浸かっていなくてよかった。
綺麗になったフレムをバッグに入れる。
「さて、このままでは駄目ですよね」
周りに散らばる魔石を見る。
何個あるんだろう。
ドルイドさんと拾っていく。
「こっちには12個あった。アイビーは?」
「えっと、14個です」
最初に作った緑の魔石を合わせると27個の魔石を作り出したようだ。
捨て場を離れ、大きな木の幹に座る。
そして持ってきた魔石を広げた布の上に並べる。
「あっ……見たくない物があります」
「ハハハ。アイビー、一緒に現実を受け止めよう。しかし綺麗だな」
並べた魔石を見た瞬間、目を引く魔石が2つ見つかる。
その理由は透明感。
様々なゴミの中から拾っていた時は綺麗な魔石があるとは思ったが、ここまで綺麗だとは気付かなかった。
魔石は不純物が多いほど透明感が失われる。
そして内包している魔力の量も質も下がる。
そんな魔石は日常使いの魔石で、比較的安く手にすることが出来る。
逆に不純物が少なく透明感のある魔石は、見るモノを魅了すると噂されている。
実際、見た瞬間その綺麗さに息を飲んだ。
今まで見てきた魔石とあまりに違いすぎるからだ。
「すごいな」
ドルイドさんが手に持って感動している。
「あの」
「ん? どうしたんだ?」
「その魔石ってものすごいレアですよね?」
「あぁ、ここまで透明感のある魔石なんて初めて見る。レア中のレアだな」
やっぱり。
まぁ、分かっていた事だけど。
「ぷ~!」
なんとなく、沈黙しているとソラがいきなり大きな声を出す。
その声にビクリと体が震えた。
「どうしたの?」
ソラを見ると、ちょっと怒っている様子。
なんで怒っているんだろう?
「ぷ~!」
「もしかして空の瓶を要求しているとか?」
ドルイドさんが言った言葉に、ソラはピョンピョンと跳ねる。
……そうらしい。
「あ~、こういうのは早い方がいいよな。瓶を探してくるよ」
早い方がいいって何のことだろう?
……不思議に思いドルイドさんを見ていると、捨て場で空瓶を見つけたようだ。
そして戻って来ると、飲み水用にと持ってきた水で瓶を綺麗に洗う。
「はい」
洗った瓶をソラの前に出すと、パクリとソラが瓶を食べてしまう。
「……なんだ、瓶に詰めることは無理……出来たな」
食事中の時のようにしゅわ~っと泡が出たが、すぐに落ち着いてソラの口から瓶がでてくる。
もちろん中身が詰まった状態で。
「すごいっ!」
澄んだ透明感のある青のポーション。
しかもちょっと光っている。
光るポーションなど見たことも聞いたことも無い。
「綺麗ですが、絶対に人前で使えないポーションですよね」
「そうだな、ものすごく目立つだろうな」
ふわりと光るポーションに、透明感に魅了される魔石。
現実逃避をしても良いレベルだと思う。